独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)先進製造プロセス研究部門【部門長 神崎 修三】は、低エネルギーかつゼロエミッションでの作動が可能な、革新的な排ガス浄化用セラミックリアクターの実用化に向け、エネルギー効率の高いディーゼルエンジンの問題とされるNOxとPMの同時除去が可能な新しい電気化学セラミックリアクターの製造技術を世界で初めて開発した(図1)。
この技術によって、既存のフィルター方式とは異なり、酸素共存下でのNOx還元と PM酸化の連続同時浄化が可能な技術であるためディーゼル排ガス浄化等のゼロエミッションに向けた高効率モジュールの開発が期待できる。
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エネルギー変換効率の高い内燃機関としてディーゼルエンジンが知られるが、温暖化や酸性雨の原因となる排ガス中の NOx分解と肺疾患等の原因となるPM除去技術が問題となっている。これまで、セラミックリアクターの電気化学反応を利用し、高温排ガス中のNOxを酸素共存下でも選択的に浄化することに成功している。エネルギーの有効利用として廃熱発電を利用する電気化学リアクターの作動についても報告している。本成果はディーゼルエンジン排ガス浄化へ利用する上で問題となる固体炭素のセラミックリアクターでの直接分解に関する技術である。
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産総研では電気化学セラミックリアクターでの NOx等の還元反応とともに、電極上での酸化反応に着目し、図1のようなイオン伝導体セラミックスを利用したセルを作製し、固体炭素を直接酸化する技術を検討して来た。種々の材料を検討した結果、酸化反応電極として電界制御により酸素ラジカル生成を促進するアルミン酸カルシウム (Ca12Al14O33)等を用いる事により、効率的に固体炭素を直接分解することに成功した。
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本研究成果により NOxと PM等の分解が同じ電気化学リアクターで行えるため、これまでの DPFフィルター装置に代わる新しいディーゼル排ガス浄化システムの提唱が可能である。また、酸化還元等の制御が可能な化学工業プロセス等への利用といった多くの用途が期待できる。
図1 動作原理
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図2 セラミックリアクターによる電気化学的なPM除去
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エネルギーの有効利用と環境保全を両立させたサスティナブルな社会を支えるためには、材料の機能性向上による高効率なシステムへの移行が必要である。化石燃料から動力へのエネルギー変換効率が高い燃焼方式としてディーゼルエンジンが知られるが、排ガス中の酸素濃度が高く、触媒でのNOx連続浄化が難しい。さらに、炭素系微粒子等のPMが多く含まれその同時除去が強く望まれている。
既存の技術として、NOx等の有害物質は金属三元触媒等の活性触媒を利用して還元分解し、PM等の固体物質は化学的に分解することは難しいため後付け装置としてフィルターにより物理的に除去が行われている。しかしながら、フィルター等を利用する場合、定期的な交換・洗浄等が必要である。よって、 NOxの分解と同時に、燃焼しにくい固体炭素や分子量の大きな炭化水素等を完全かつ連続的に酸化分解する技術の開発が必要とされている。
酸化分解および還元分解を同時に行う手段として電気化学的に反応を制御する方法がある。特に、高温排ガス浄化においてはイオン伝導体セラミックスを用いた電気化学セルを利用し、電極での分子選択性を向上させ、酸素共存下でも低電力で還元分解を進めることに成功している。また、このとき電気化学セルでは固体電解質中へ NOxの酸素分子を固体中へ引き込み排出すること(酸素ポンピング)により還元反応を進めるため、反応過程で活性な酸素の放出を伴う。それらを有効に利用するセル構造により PM等の固体炭素を酸化燃焼させ、排ガス中の有害物質を同時且つ連続的に除去することが期待できる。
近年、Ca12Al14O33等のアルミン酸カルシウムの材料で、電界により活性な酸素ラジカルを発生させる物質が報告されている。これらの材料は強力な酸化力のため固体状の炭素においても生成する活性酸素ラジカルにより酸化反応を進める事が大いに期待される。しかし、それらを用いた PM等の分解事例はこれまで報告されていない。本研究では電界により酸素イオン伝導を利用する電気化学セラミックリアクターへ電気的な反応場において酸化作用がある材料を組み合わせる事により固体炭素の連続的分解が可能である事を見いだした。
電気化学セラミックリアクターとして酸素イオン伝導体である酸化ジルコニウム基板上へ、触媒作用があるセラミックス電極(固体炭素の燃焼触媒となるアルミン酸カルシウムおよび NOx還元触媒となる酸化ニッケル等を酸化ジルコニウムと混合した電極)を形成した。(図1)。次に、高温雰囲気で電極に電界をかけ、電気化学反応により固体炭素が燃焼することを調べた。その結果、475℃において電界をかけるとともに、表面に塗布した炭素が分解し電気化学的に直接除去できることが分かった(図2)。さらにNOxを共存させることにより、固体炭素とNOxが同時に電気化学的に分解できることが分かった(図3)。さらに、Ca12Al14O33等のアルミン酸カルシウムを酸化電極へ分散することにより電極上での電気化学的酸化反応速度が向上することが分かった(表1)。
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図3 セラミックリアクターでの固体炭素(DPM)と窒素酸化物(NOx)の同時分解(印可電圧と炭素および窒素分解量の関係)
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表1 酸化(アノード)電極材料と炭素分解量の関係(475℃)
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電気化学セラミックリアクターを利用して排ガス浄化等の酸化還元反応制御が可能である見通しを得た。今後、実機レベルでの特性向上を進めるとともに、有機物の電解酸化等の改質プロセスでの高効率酸化システム等の種々のリアクター用途への応用が期待できる。