独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)先進製造プロセス研究部門【部門長 神崎 修三】は、低エネルギーかつゼロエミッションでの作動が可能な、革新的なNOx等の排ガス浄化用セラミックスリアクターの実用化に向け、廃熱による熱電発電により自己完結的に電気化学リアクターを作動できる機能を融合した新しいセラミックスリアクターの製造技術を開発した(図1、2を参照)。
この技術によって、外部電源等の付加機を必要としない、電気化学反応を制御可能なセラミックスリアクターの開発やセンサー等の開発スピードを大幅に速めることができると期待される。また、今回の内容については、11月15日(月)名古屋国際会議場において、「産業技術総合研究所中部センター研究講演会」で発表する。
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電気化学反応を利用するNOx等の還元浄化は還元剤等の供給やその分解により生成する第二の排出物の生成が無いため、ゼロエミッション排ガスへむけた重要な技術であるが、その作動には外部からの電源の供給が不可欠であった。
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産総研では熱的に安定な酸化物の熱電変換セラミックス材料を利用し、ジルコニア製電気化学リアクターへの電力供給を、廃熱利用の熱電変換により自己完結的に発電しNOx分解浄化が行える新しいセラミックスリアクター製造技術を開発した。
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本研究成果により廃熱を伴う場合、熱エネルギーを用いた自己発電により電気化学リアクターやセンサーを作動することが可能となるため、外部電源等への負荷が問題になる場合、重要な技術となる。また、 NOx浄化に関しては従来の触媒方式のユニットと配線等を用いずに置き換える事が可能となるため、電気化学セラミックスリアクターの実用化に向けて大きく貢献する。
今後、この技術の展開として、廃熱(温度差)等を利用する有機成分の電気化学浄化やセンシング等に適用し、自己発電での他のエネルギーに依存性が少ないセラミックスリアクターの開発等を行う予定。
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図1 廃熱発電を利用する電気化学セラミックスリアクターの作動原理
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図2 開発した廃熱発電を利用する電気化学セラミックスリアクターと搭載例
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省エネルギーと環境保全は重要な社会問題の一つである。自動車排ガス等の高温排ガスに含まれる NOxは、公害ガスとしてその排出削減が重要な問題となっている。近年、自動車用エンジンにおいて化石エネルギーの使用量の低減および排出 CO2の削減を目的とし、燃料の希薄燃焼技術によるリーンバーン型およびディーゼル型の高燃費エンジンへの転換が進んでいる。しかしながら、燃焼過程における酸素濃度が高くなるため、排出される排ガス中の酸素濃度が高くなり、従来の三元系還元触媒での NOxの連続分解は共存酸素の影響により難しくなる。そのため、高燃費エンジンの酸素濃度が高い排ガス浄化に利用できる浄化技術の開発が世界的にも求められている。当研究グループでは、イオン伝導性セラミックスを用いる電気化学リアクターによるNOxの電気化学的な浄化技術について研究を進めており、酸素3%以上の NOx含有ガスを電気化学リアクターにより低電力で選択的にN2と O2に連続分解する事に成功している。この技術は、還元剤等を組み合わせた触媒方式による浄化に比べて、直接的に NOxを電気で分解浄化するため、還元剤等の分解により排出される分解物等が全くないゼロエミッションガス浄化の手法として注目されている。一方、触媒方式と比較して電気化学リアクターシステムでの問題は、リアクター作動のための電力を必要とする事であった。この問題への解決の一つとして、熱を電気に変換するセラミックス材料(熱電変換セラミックス)を利用する事により、排ガスとして排出される廃熱と外気との温度差を利用して電力を発生させ、電気化学リアクター用の電力として利用することを検討した。
熱電変換セラミックスは主に電気導電性の酸化物セラミックスで熱起電力が高い材料であり、高温大気中でも安定な材料である。本研究において、n型半導体酸化物材料の一つである Al固溶酸化亜鉛セラミックスと p型のカルシウムコバルト酸化物のセラミックス素子をセラミックスの組織制御プロセスを利用して製造し、それらを対にして結合し、接合部分を加熱して、もう一方を空冷することにより生じる熱起電力を利用できるモジュールを開発した。1対の熱電セラミック素子を用い、500℃の温度差で40mW/cm2と高い熱電変換が実証できた。さらに、2x2x20mmの角形材料を37対直列に組み合わせたモジュールを作製し、下部の冷却と上部の加熱により温度差を付けモジュール性能を評価した結果、接合部を800℃(約650℃の温度差)に加熱し、他方を空冷する事により300mWの電力が生成し(電圧3.5V)、 NOx浄化電気化学リアクターの電源としての利用が可能な事を見いだした。
熱電変換による廃熱からの電力生成とそれを利用する電気化学セルの自立作動を検討するために、開発した熱電セラミックス発電素子を18対直列に接続したものと、5 cm角の8Y-ZrO2(8YSZ)セラミックス板に NOx反応選択性の高い電極を形成した電気化学リアクターとを一体モジュール化し、600℃に加熱した400ppmNOx-4%O2混合ガスを流通下、温度差を形成することにより、発電および電気化学セルでのNOx分解を試みた。その結果、熱電セラミックスの発電による電力(約1.5V-35mW)で、電気化学セルでの約20%のNOx分解が連続的に行われた。これにより外部からの電力を供給せずに、熱電変換材料による電力を利用する電気化学デバイスの自立作動を世界で初めて実証した(図3参照)。
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図3 開発した廃熱発電を利用する電気化学セラミックスリアクターでのNOx浄化
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廃熱を熱電変換セラミックスにて電力に変えることにより、捨てられる熱エネルギーを回収し、電気化学リアクター等の電力を必要とするデバイスの電力源としての利用が技術的に可能となった。今後、例えば排ガス中の酸素濃度や温度センシング等、身の回りにある廃熱を伴う電装システムにて熱電デバイスを併用した作動電源や、データ保存用のバックアップ電源等への応用が期待できる。