経済産業省が推進する材料開発の国家プロジェクトである「シナジーセラミックス」の研究開発において、独立行政法人産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)シナジーマテリアル研究センター【センター長 神崎 修三】環境浄化材料チ-ムとファインセラミックス技術研究組合【理事長 大山 昌伸】(以下「FCRA」という)は、ディーゼル車の排ガス浄化等に有効な、電気化学セル(燃料電池型リアクター)の開発に成功した。
排ガス中のNOxの浄化はこれまで触媒方式が用いられており、妨害酸素を含む排ガスでの触媒活性の低下に対して、燃料の過剰供給等で対応する必要上、燃費の悪化が避けられなかったことから、燃料損失のない「電気化学セル方式」の実用化が望まれていた。この方式の実用化への課題とされていた電流消費量の低減に対し、産総研ではナノテクノロジーを用いて、ナノ空間とナノ粒子よりなる浄化反応に最適な構造を電気化学セルの中に作ることで、NOx分子を選択的に吸着分解する技術の開発に世界で初めて成功した。この技術開発により、電気化学セルのNOx選択分解特性を飛躍的に向上させたことで、排ガス浄化に必要な電気エネルギーを大幅に低減させることができ、現行の触媒方式の2倍に達する「世界最高」の排ガス浄化のエネルギー効率を達成した。
NOx浄化のエネルギー効率として世界最高であると同時に、リーンバーン・ディーゼル車・ガスエンジン等の排ガス浄化に適用可能な、理想的かつ実用的なNOx浄化技術を実現したもので、実用上極めて重要な成果である。今後の排ガス規制強化の動向から、現行の排ガス浄化技術を置き換えて行くものと期待される。
なお、産総研は経済産業省から、FCRAは新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」という)から委託を受けて本研究開発を推進している。
※ この成果は5月22日に自動車技術会2003年春季大会(横浜)にて発表される。
近年、国内における都市環境の改善のため、自動車等によるエンジン排ガス、特にディーゼル車による排ガス等に対する浄化技術の向上は緊急課題となっている。現状これらに対するNOx浄化技術には、触媒方式が用いられているが、排気ガス中に含まれる酸素によりNOx浄化触媒の反応性が失われるため、燃料の間欠的な増量等で対応しなければならないことから、燃費を数%悪化させる原因となっていた(普通乗用車の場合、電気エネルギーに換算すると700~800W)。これに対し、燃料ロスを伴わない理想的な浄化方法として「電気化学セル方式(燃料電池型のリアクター)」があげられるが、酸素を取り除く際に数kW単位の大電力を消費するという問題を抱えており実用レベルには全く至っておらず、両方式の問題点を克服した理想的ともいえる技術開発が望まれていた。
シナジ-マテリアル研究センターとFCRAは、経済産業省が推進する材料開発プロジェクトの一つである「シナジーセラミックス」第2期(1999年~2003年)において、環境浄化材料の開発に取り組んでおり、長期的な視点から環境浄化と省エネルギー化の両立を可能とする環境保全技術として、ゼロエミッション化の可能な理想的方法である、「電気化学セル」によるNOx浄化の高効率化を図ってきた(産総研は経済産業省から、FCRAはNEDOから委託を受けて本研究開発を推進している)。
既に当グループでは、ミクロン以下のメゾ領域におけるセルの構造制御を行い、妨害酸素を取り除くことで、電気化学セル方式では世界最高となる、NOx浄化時の高エネルギー効率を実現していたが、実用レベルまで消費エネルギーを低減させることが課題となっていた。そのため、さらに浄化反応を促進させることを目的にナノテクノロジーの応用に着目し検討した。
具体的には今回、電気化学反応を用いて、電気化学セルの触媒電極層の中に、ナノ空間とナノ粒子よりなるNOx浄化反応場を形成した(図1)。その結果、数ナノメートルの空間に導入されたNOx分子が、ナノ粒子(ニッケル金属;Ni)に選択的に吸着し、イオン伝導体(ジルコニア;YSZ)との相互作用で効率的に分解されるようになった。これにより現在多く用いられている触媒方式におけるエネルギー損失の1/2に相当する消費電力でのNOx浄化を可能とし、NOx浄化に必要なエネルギーの低減に関して、世界最高となるエネルギー効率の大幅向上を達成した(図2)。
同時に、NOx分子への選択性が飛躍的に高まった結果、ディーゼル排ガスのように約10%と酸素濃度が非常に高い場合でも十分な浄化性能が得られることを確認した。自動車やガスエンジン等からの排ガス規制は年々厳しくなる一方であり、特に燃費の優れたディーゼルエンジンの利用に際して、排ガス中のNOx浄化性能の向上が短~長期的に求められており、今回開発されたセルは特性的に適しているため、究極の浄化技術として期待できる。
さらに実用化に向け、実用モジュール化及び実際の排ガス成分に対する耐久性能の確認取り組みを進めており(図3)、3年程度で実用化段階へ進むことが期待される。
また、ナノテク利用で「実用的なレベル」の高効率作動の「燃料電池型リアクター」を実証した点で有意義であり、当開発技術は、例えば固体酸化物燃料電池(SOFC)においてナノレベルの構造制御を行い、ガス分子のイオン化反応等を促進させることに応用できるため、発電効率の飛躍的向上をもたらすものと期待される。