独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)ダイヤモンド研究ラボ 鹿田 真一 研究ラボ長、梅沢 仁 主任研究員は、国立大学法人 大阪大学【総長 平野俊夫】大学院工学研究科 電気電子情報工学専攻 舟木 剛 教授と共同で、ダイヤモンド半導体を用いた1アンペア級の出力が可能なパワーエレクトロニクス用ダイオード整流素子を作製し、世界で初めてダイヤモンド半導体を用いたダイオードの250 ℃の高温でのスイッチング性能を測定し、高速・低損失動作を確認した。
ダイヤモンドは、熱伝導率が大きく半導体としても絶縁破壊電界や電荷移動度などに優れている。そのため、高耐電圧・低損失・高速動作の半導体デバイス、特に電力を制御するパワー半導体デバイスとしての応用が期待されている。今回、250 ℃の高温で動作できる1アンペア級の出力が可能なショットキー型ダイオード整流素子を作製し、耐熱封止を行った。ダブルパルス法を用いてスイッチングの回復特性を計測したところ、15ナノ秒の高速スイッチングと60ナノJ(ジュール)の小さなスイッチング損失が確認できた。この技術により、冷却系が不要で、高耐電圧、大電流密度、高速動作、低損失のパワーデバイスの実現が期待される。
この成果の詳細は2012年12月18日(日本時間)に電子情報通信学会の学術誌Electronics Expressにオンライン掲載された。また、2013年1月30日~2月1日に東京都港区の東京ビッグサイトで開催される「nano tech 2013 第12回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」において発表される。
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試作したダイヤモンドダイオード整流素子 |
パワーデバイスは、電気機器に不可欠な電力制御を行う半導体デバイスであり、インバーターの普及に不可欠な省エネルギー技術の基幹構成要素となっている。最近では高電圧・大電流動作ができるパワーデバイスが作製可能になり、ハイブリッド自動車のモーター駆動にも使われるなど急速に普及しており、大きな市場となることが期待されている。また、パワーデバイスの高性能化による電力使用量の削減は、CO2排出量の大幅削減に向け経済産業省が策定した「Cool Earth - エネルギー革新技術計画」でも、重点的に取り組むべきエネルギー革新技術の1つとされている。
しかし、現在パワーデバイスに使われているシリコン(Si)半導体は、耐熱、耐電圧、電力損失、電流密度などに課題があるため、パワーデバイス向けに炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)など新材料の開発が進められている。ダイヤモンドはこれらの新材料を越える性能をもつ材料で、それ自体が熱を伝達する熱拡散材料であり、超高耐電圧、超高温動作など、特異な物性をもつことから、冷却系が不要な、高耐電圧、大電流密度のパワーデバイスが実現できると期待されている。
産総研では、硬度、熱伝導率、弾性定数、光学的透過率、化学的安定性、電気化学特性など優れた特性をもつダイヤモンドについて、半導体特性をもつ素子と組み合わせて新しい応用を開拓する研究を行っている。既に大型単結晶接合ダイヤモンドウエハーを開発しており(2010年3月1日 産総研プレス発表)、その後2 cm×4 cmの世界最大サイズを実現している。また、ダイヤモンドを用いたデバイスの基礎研究も行っており、これまで小型のダイヤモンドダイオードを開発し、初めてのスイッチング動作の実証(2009年1月8日、2010年9月8日 産総研プレス発表)に成功している。この時のデバイスは、数10ミリアンペアの大きさのものを用いていたが、その後1~5アンペア級のデバイスを開発しており(2012年12月17日 応用物理学会の学術誌Applied Physics Expressにオンライン掲載)、今回のスイッチング回路動作には、この素子を用いた。
なお、今回の研究開発は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構の「省エネルギー革新技術開発事業」(平成22~24年度)の支援を受けて行った。
今回試作したショットキー型ダイヤモンドダイオード整流素子は、大きな縦型デバイスの250 ℃耐熱パッケージに耐熱封止材を実装して作製した。この素子は、ダイヤモンドの特性から、高温動作、冷却不要、大電流密度動作などを可能とする。
これまでのダイオード整流素子は電極サイズが小さいため、大電流容量を得るには複数の素子をワイヤーで並列に接続する必要があったが、今回開発したダイヤモンドダイオード整流素子は単一で1アンペア級の大電流容量をもつ。また、250 ℃の高温でも動作できるように耐熱に優れた封止材を用いた。駆動用トランジスタには既存のシリコン半導体の金属酸化膜電界効果トランジスタ(MOSFET)を用いてダイオード整流素子のスイッチング特性を確認した。なお、MOSFETは高温動作できないため、整流素子のみ高温に加熱した。
デバイスの温度変化の影響を受けない方法であるダブルパルス法により評価したところ、図1 に示すように、室温から250 ℃まで同様の電流・電圧のスイッチング特性を示し、15ナノ秒の高速なスイッチングを確認できた。また、スイッチング損失は60ナノJと低く抑えられていた。なお、リンギング(振動成分)のオーバーシュートや収束が悪いのは、ダイオード整流素子だけを高温にして長距離配線下で計測しているためである。
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(a)電流特性 |
(b)電圧特性 |
図1 さまざまな温度(室温~250 ℃)におけるスイッチング特性
室温から250 ℃まで素子を加熱しても同様の特性をもつ。 |
今回、ダイヤモンドダイオードの整流素子として動作が実証できたため、ダイヤモンドパワーデバイスの高温動作、低損失動作の優位が確認できた。今後、大面積の基板製造技術、低欠陥高品質膜成長技術、デバイス設計技術などの開発に取り組み、実用パワーデバイスに必要な大電流が流せるように、10アンペア級、最終的には100アンペア級の出力が可能なデバイス実現を目指す。またショットキー型ダイヤモンドダイオード整流素子だけではなく、ダイヤモンドトランジスタ素子の研究も進め、省エネルギー型パワーデバイスの実現を目指す。
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ダイヤモンド研究ラボ
研究ラボ長 鹿田 真一 E-mail:s-shikata*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)