独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)ダイヤモンド研究ラボ 鹿田 真一 研究ラボ長、梅澤 仁 主任研究員は、国立大学法人 大阪大学【総長 鷲田 清一】大学院工学研究科 電気電子情報工学専攻 舟木 剛 教授と共同で、ルテニウム(Ru)電極とダイヤモンドを組み合わせたパワーデバイス用ダイオード整流素子を作製し、世界で初めてダイヤモンド半導体ダイオード整流素子のスイッチング性能を測定し、高速・低逆回復電流動作を確認した。
ダイヤモンドは、硬度、熱伝導率の大きさ、光透過波長帯の広さ、化学的安定性などに優れるだけでなく、半導体としても絶縁破壊電界や電荷移動度などに優れた特性をもつため、高耐電圧・低損失・高速応答の半導体デバイス、特に電力を制御するパワー半導体デバイス(電力用半導体素子)としての応用が期待されている。ダイオード整流素子はパワーデバイスの基本部品であるが、今回、ダイヤモンド半導体と以前に産総研で開発したRuショットキー電極を組み合わせたショットキー型のダイヤモンドダイオードを用いて整流素子を作製した。シリコン半導体のMOSFET(トランジスタの一種)を用いて駆動回路を構成し、ダブルパルス法を用いてダイヤモンドダイオード整流素子のスイッチングの回復(リカバリー)特性を計測したところ、0.01マイクロ秒の高速スイッチングと40 A/cm2の小さな逆回復電流(低損失)が確認できた。
本研究成果は2010年9月10日に電子情報通信学会の英文学術誌「Electronics Express」(http://www.elex.ieice.org/index.html)に掲載され、また9月13日から長崎で開催される応用物理学会で報告される(発表は15日)。
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図1 試作したダイオード整流素子の外観(左)と模式図(右)
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パワーデバイスは、電気機器の電力制御に不可欠な半導体デバイスであり、インバーターの普及に伴い省エネルギー技術の基盤となっている。最近では高電圧・大電流動作が技術的に可能になり、ハイブリッド自動車のモーター駆動にも使われるなど急速に普及し、市場規模は2兆円に及ぶといわれる。パワーデバイスの高性能化による電力エネルギー使用量の削減は、CO2排出量の大幅削減に向け経済産業省が策定した「Cool Earth - エネルギー革新技術計画」でも、重点的に取り組むべきエネルギー革新技術の1つとされている。
現在、パワーデバイスにはシリコン(Si)半導体が使われているが、耐熱、耐電圧、電力損失、電流密度などに課題があるため、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)など新材料の開発が進められている。ダイヤモンドもこれら新材料の1つであるが、それ自体が熱を放散するヒートシンク(放熱部)材料であり、高温に耐え、かつ高温で電流密度が上がるなど、特異な物性をもつことから、ダイヤモンドパワーデバイスによって高温動作・冷却不要、高耐電圧、大電流密度などが実現できると期待されている。
産総研では、硬度、熱伝導率、弾性定数、光学的透過率、化学的安定性、電気化学特性など物質中で最も優れた特性をもつダイヤモンドについて、半導体特性と組み合わせることによって新しい応用を開拓するための研究を行っている。また、既に材料技術として大型単結晶接合ダイヤモンドウエハーを開発している(2010年3月1日プレス発表)。ダイヤモンドを用いた各種デバイスとそれに関する材料基礎研究も行っており、耐熱性、低抵抗、密着性、ショットキー接合に優れるRuショットキー電極を用いたダイヤモンドダイオードの開発(2009年1月8日プレス発表)などに成功している。
なお、本研究の一部は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構の省ネルギー革新技術開発事業の支援を受けて実施された。
今回使用したショットキー型ダイヤモンドダイオードは、ダイヤモンド半導体とRuショットキー電極を組み合わせて作製した(図1右)。このダイオードは、ダイヤモンドやRu電極の特性から、高温動作、冷却不要、大電流密度動作などを可能とする。このダイオードは電極サイズが小さいため、ダイオード7個をワイヤで並列接続し(図1左)、高温動作もできるように高温に耐える封止材を用いて封止した。駆動用トランジスタには市販のSi MOSFETを用い、図2に示した回路を作成して、ダイオード整流素子を作製した。
スイッチング特性は、デバイスの温度変化の影響を受けない手法であるダブルパルス法により計測した。その結果、図3に示すような電流値に依存しないユニポーラーダイオードの特徴を示した。0.01マイクロ秒の高速スイッチングを確認できたほか、測定回路の寄生インダクタンスと高速スイッチング動作の高di/dtにのみに依存した逆回復電流は40 A/cm2と小さく、エネルギー損失が抑えられることがわかった。以上の結果から、このダイオードは、常に安定して高速動作することがわかった。
温度依存性を測定した結果では(図4)、回復電流に温度依存性が無く、またスイッチング速度も温度変化していない。200 ℃まで安定した動作を示し、冷却しなくても良好な動作をすることがわかった。
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図2 測定に用いた回路図
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図3 さまざまな電流値(赤~茶色の線)に対しても安定なスイッチング特性
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図4 スイッチング特性の温度依存性
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今回、高耐電圧、大出力、高速、低損失のダイヤモンドダイオード整流素子としての実証ができたので、今後、実用パワーデバイスに必要な大電流が流せるように、1 cm角級のデバイス実現を目指す。このために、大面積の基板製造技術、低欠陥高品質膜成長技術、デバイス設計技術などに取り組む。またショットキー型ダイオード整流素子だけではなく、ダイヤモンドトランジスタ素子の研究も並行して進め、省エネルギー型パワーデバイスの実現を目指す。