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脳を読み取る新型コミュニケーション
2008/05/01
脳と機械を直結させて、頭の中の考えを解読したり、声や動作を使うことなく、コンピュータをコントロールする……まるでSF映画に出てくる夢のような技術が「ブレイン・マシン・インターフェイス(Brain-Machine Interface: BMI)」と呼ばれるものです。この技術は福祉やスポーツなどの分野で製品化されつつあります。 例えば、福祉分野では、事故の後遺症や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの難病によって、頭の中には伝えたい気持ちや要求があるにも関わらず、身体を動かしたり話したりできないため、周りとの意思疎通が難しい患者がいます。そういった方々がBMIを使うことで、患者自身の意思を介護する人に伝えられるようになり、介護現場の負担を軽減することが期待できます。 ただ一方で、これらのBMIは高価で、装置が大きく、操作もしにくいなど、実用面では課題が多く、また脳内の微弱電流を測るために、手術で頭部に電極を埋め込むタイプもあり、安全で気軽に使える、とは言い難いのも事実でした。
そんな中、身体を傷つけることなくコンパクトな装置で脳波を計測することができ、脳波の解読も正確で、またそれにかかる時間も速く、伝達可能なメッセージも多様性に富むという、画期的なBMIが開発されました。それは2010年、産総研ヒューマンライフテクノロジー研究部門ニューロテクノロジー研究グループが発表した「ニューロコミュニケーター」です。 ニューロコミュニケーターはその脳波計が携帯電話の半分ほどと非常に小型で、脳波計が取り付けられたヘッドギアを装着することで、頭皮上から脳波を測定することが出来ます。患者はパソコン画面上に表示された意思伝達メニューの項目の中から、自分の伝えたいことを選択します。この際、患者がどの項目を選んだかどうかは、脳波を解析することで判断します。項目の候補をランダムに光らせると、患者が選んだ項目が光った時に、脳波に変化が生じます。その変化を産総研が開発した「脳内意思解読アルゴリズム」で解析するのです。これにより、迅速かつ正確な意思の推測が可能となりました。
また、ニューロコミュニケーターが画期的なのは、脳波の解析方法だけでなく、その意思の伝達方法にもありました。これまでのBMIによる意思伝達技術の多くは1文字単位での入力法であったり、また選択方式の場合でも1回の選択に10秒以上かかることも多く、伝えたいメッセージが長いほど誤選択が増えたり、脳波計測に時間がかかるなど、スムーズな意思疎通が困難なものでした。一方、ニューロコミュニケーターの場合、1回の項目選択にかかる時間はわずか3~5秒。そして、最初の画面で示される「飲食する」「体のケア」「気持ち」など8つの伝達項目のカテゴリーを選択すると、次にはさらに詳しい項目が表示される……といった具合に、階層ごとに項目を選ぶことで、患者の意思や感情を細かく伝えることが出来るのです。単純計算でも、その選択を3回繰り返せば、512(8の3乗)種類ものメッセージが選択できます。また、実際の意思のやり取りは、画面上に表示されたアバターが、その患者の分身となって、解析されたメッセージを話します。こうして、より自然なコミュニケーションが可能となったのです。
スムーズな意思疎通に苦心してきた介護の現場や、難病患者の家族などにとっては、ニューロコミュニケーターの実用化が今か今かと待たれています。しかし、ニューロコミュニケーターが実際に使われる場所は、エアコンや冷蔵庫、テレビなど様々な電気的ノイズが発生する一般の家庭や病室。そのような環境下で微弱な脳波を計測することは非常に難しいことです。産総研の研究グループでは、特殊な電磁シールド手法を新たに考案し、まずはその課題を克服。現在は臨床研究用プロトタイプの完成も間近で、2014年春からは患者を対象に、最新型の装置を用いたモニター実験も開始されました。 筋萎縮性側索硬化症(ALS)や閉じこめ症候群(TLS)などの難病患者や、不慮の事故などで身体や言語の自由を失った患者の方々にとっては、まさに救世主とも言えるニューロコミュニケーター。実用化され、より気軽に使えるようになれば、患者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上に、大いに役立つことになるでしょう。
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