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第18回 魅惑のプルシアンブルーに秘められた「未来を変えるチカラ」

第18回 魅惑のプルシアンブルーに秘められた「未来を変えるチカラ」

さがせ、おもしろ研究!ブルーバックス探検隊がいく

photo by Pixabay

魅惑のプルシアンブルーに秘められた
「未来を変えるチカラ」
驚異のアンモニア吸着力で低窒素社会へ
『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』のイメージ
講談社ブルーバックス編集部が、産総研の研究現場を訪ね、そこにどんな研究者がいるのか、どんなことが行われているのかをリポートする研究室探訪記コラボシリーズです。
いまこの瞬間、どんなサイエンスが生まれようとしているのか。論文や本となって発表される研究成果の裏側はどうなっているのか。研究に携わるあらゆる人にフォーカスを当てていきます。(※講談社ブルーバックスのHPとの同時掲載です。)
  • #エネルギー環境制約対応

2018年12月2日掲載
取材・文 深川 峻太郎

なぜアンモニアを除去しなければならぬのか?

プルシアンブルーといえば、「安全地帯」である。知らない世代のために説明しておくと、「安全地帯」とは玉置浩二がボーカルを務めていたバンドの名前で、『プルシアンブルーの肖像』というヒット曲がある。『ワインレッドの心』のほうが有名かもしれないが、レッドだけじゃなくブルーも売れたのだ。

なんでそんな話をしているかというと、そのプルシアンブルーが「高性能アンモニア吸着材」であることが発見されたのである。なるほど、アンモニアは悪臭の原因だ。体にも悪そうだから、それを吸着してくれれば、そこそこ安全な地帯になりそうな気はする。

だが、「特定の色が、ある物質を吸着する」と聞いても、ちょっと何をいってるのかわからない。真っ先に私の頭に浮かんだ疑問はコレだ。

「ふつうのブルーとかスカイブルーとかブルーバックスの表紙とかじゃダメなの?」

ブルーという色には、なんとなく清潔なイメージがある。そういえば、トイレに置くだけでよいあの芳香洗浄剤も「ブルー」だ。そう思うと、アンモニアを吸着しても不思議ではない気がしますよね。

しかし、その機能が発見されたのはただのブルーではなく、プルシアンブルーなのである。なぜ、ほかのブルーではダメなのか?

そんな素朴な疑問を抱えつつ、探検隊は産業技術総合研究所に出向き、ナノ材料研究部門の高橋顕さんと川本徹さんにお話をうかがった。

高橋さんの写真
高橋さん
川本さんの写真
川本さん

「これが、プルシアンブルーという青色顔料です。18世紀初頭に発見されて、葛飾北斎やゴッホが使ったことでも知られていますよね。昔の青写真の一部にもプルシアンブルーの技術が使われていました。いまは絵の具として、ふつうに市販されています」

葛飾北斎『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』

ゴッホの『星月夜』
プルシアンブルーが使われている葛飾北斎の『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』(上)とゴッホの『星月夜』(下)photo by Pixabay

そういって試料を見せてくれた高橋さんの言葉を聞きながら、私は自分の大いなる勘違いに気づいた。プルシアンブルーは「色」の名前としか思っていなかったのだが(実際その意味で使うこともあるが)、その特徴的な色を生み出す「顔料」自体の名前でもある。ここで研究対象になっているのは後者なのだ。

ならば、ほかのブルーではダメなのも当然である。注目すべきは「色」ではなく、形や構造を持つ「物質」としてのプルシアンブルーなのだった。 そのプルシアンブルーが、なぜアンモニアを吸着するのか? という話は後回しにして、そもそも、どうしてアンモニアを吸着したいのか、を聞いた。

悪臭をなくせるのはわかるが、研究の目的は、じつはそれだけでなかった。その背景には、もっと大きな問題が横たわっていたのだ。

それは、「窒素循環量の増大」である。アンモニアの化学式は「NH₃」で、Nは窒素。つまり、アンモニアは窒素化合物だ。いま地球上では、その窒素が循環している量の増大によって、さまざまな問題が起きているのだ。

「人口が増加すれば食料の生産量が増えるので、窒素肥料の使用量も増加します。この50年間で、その量はおよそ10倍になりました。そのため、地球環境を循環するアンモニアも増えており、それが多くの問題を引き起こしています。大気中では酸性雨や地球温暖化、海では赤潮、青潮、アオコなど富栄養化の原因にもなっているのです」(高橋さん)

それに加えて、アンモニアはPM2.5の主要生成物だと考えられている。農業によって排出されるアンモニアが、工業によって排出される窒素酸化物や硫黄酸化物と空気中で結合して、アンモニウム塩(硝酸アンモニウムや硫酸アンモニウムなど)になり、その小さい粒子がPM2.5になるのだ。いまや世界人口の95%はWHOの基準値を超えるPM2.5濃度で生活しているという。

「群馬県で採取されたPM2.5の組成を調べたところ、半分ぐらいがアンモニウム塩だったという報告もあります。農作物や家畜などの食料生産を増やせば増やすほど、PM2.5による健康リスクが高まります。アメリカでは、食料輸出によって得られる利益よりも、それに伴うPM2.5による健康リスクのほうが大きいとする研究結果も発表されています」(高橋さん)

採取されたPM2.5の組成を示したグラフ
群馬県で採取されたPM2.5の組成。年間を通して半分以上をアンモニウム塩(NH4塩)が占めている
(熊谷他、大気環境学会誌2010, 45, p10. より数値以外を微修正して転載)

EUでは、PM2.5を減らすのにもっとも効果的な手段は「アンモニアの削減」であるという考えのもと、2030年以降に大気中のアンモニアを19%削減する(2005年比)という目標が掲げられた。環境問題で「削減」といえば炭素(CO₂)のことしか頭になかったが、窒素削減もまた重要なテーマだったのだ。

「それ以外でも、アンモニア除去技術の必要性は高まってきています。たとえば半導体工場では、アンモニウム塩が配線の邪魔になるという問題があります。

また、実用化が進んでいる水素燃料も、アンモニアの処理が課題のひとつです。分解すると水素と窒素になるアンモニアは、それ自体がエネルギーキャリアになりえます。水素自体は貯めるのが難しいけど、アンモニアの状態で移送してから現地で分解すれば、水素を作れますから。その意味ではアンモニアも役に立つのですが、作った水素の中に不純物としてアンモニアが残ってしまうのは困るんです」(高橋さん)

もちろん、「悪臭」の除去もアンモニアをめぐる大きな課題のひとつだ。社会の高齢化が進むとともに、病院や介護施設などの臭いについても、何とかしたいという需要はますます高まっている。

なるほど、たしかにアンモニアの増加はきわめて今日的な問題だ。私も猛然とアンモニアを除去したくなってきたぞ。

大事なのはプルシアンブルーの「穴」

ただし、高橋さんたちの研究グループは、最初からアンモニアの除去をめざしていたわけではないという。プルシアンブルーを使った研究の最初の目的は、意外にも「調光ガラス」の作成だった。

「いま、ボーイング787では、ボタンを押すと暗くなったり透明になったりする窓が実用化されていますよね。あれが調光ガラスです。私たちは2008年に、プルシアンブルーをナノ粒子化して、調光ガラスの色を変化させるための材料として利用しました。当時はまだ私は参加していなくて、いまの上司である川本が手がけた研究ですが」(高橋さん)

隣にいる川本さんが「昔の話ですが」といって微笑んだ。

調光ガラスのイメージ
色がさまざまに変化する調光ガラス

それにしても、個性的な青色を生み出す顔料が「色変化材料」になるというのは不思議だ。色が変化したらブルーじゃないじゃん! と思ってしまうが、そこが「物質」としてのプルシアンブルーの面白いところである。

「18世紀初頭に発見されたプルシアンブルーは、鉄と鉄がCN(シアン)をはさんでくっついたものでした。偶然にそれが見つかって、それまで表現できなかった濃いブルーを作り出せるようになったわけです。

でも、この物質は鉄を別の金属に置き換えると、色や性能が変わるんですね。たとえば銅に置き換えると、赤っぽくなる。ニッケルに置き換えると黄色に、コバルトだとピンクに、亜鉛では白っぽくなります」(高橋さん)

プルシアンブルーの基本的な構造のイメージ
プルシアンブルーの基本的な構造。鉄(Fe)どうしがシアン(CとN)をはさんでくっついている(上)。鉄がほかの金属に置き換わったものがプルシアンブルー類似体(下)。
図では一方の鉄が銅(Cu)に置き換わっている(©産総研)
プルシアンブルー類似体の写真
さまざまなプルシアンブルー類似体。置き換わる金属によって、色が多彩に変化する

そうやって鉄を別の金属に置き換えたものを「プルシアンブルー類似体」と呼び、それだけでほぼすべての色を作れるらしい。だから、調光ガラスの色変化材料にもなるというわけだ。構造さえプルシアンブルー類似体であれば、色はブルーじゃなくてもそう呼ぶのである。

さて、高橋さんらの研究グループが調光ガラスの次に手がけたのは「セシウムイオン吸着材」の研究だった。きっかけは、2011年の東日本大震災で起きた福島の原発事故で、放射性セシウムの除去が課題になったことだ。プルシアンブルーがセシウムイオンを吸着することは、以前から知られていた。しかし、なぜセシウムが選択的に吸着されるのかはわかっていなかった。

プルシアンブルーの分子構造を見ると、あちこちに「空隙サイト」と呼ばれる空洞がある。「サイト」は「場所」ぐらいの意味だと思えばいいだろう。要するに「穴」がたくさんあるわけだ。金属を置き換えて色を変えるときも、この穴に金属イオンが取り込まれることが重要となる。

空隙サイトのイメージ
プルシアンブルーにできた「穴」を空隙サイトという(©産総研)

セシウムもまた、穴に入ることで吸着されるのだが、その仕組みがわからなかった。そこで高橋さんらは構造解析などによって原理を解明し、企業と協力して無機ビーズ、着色綿布、不織布(ふしょくふ)など、多様な形態のセシウム吸着材を開発した。

「セシウム吸着材の研究を進める過程で、プルシアンブルーの結晶構造の中には水を吸着する空隙サイトがたくさんあることがわかったのです。アンモニアのことを考えたのは、それからですね。じつは、水とアンモニアはよく似た性質を持っています。だから、水がくっつくプルシアンブルーにはアンモニアもくっつくのではないかと。

日本は化学肥料の多くを輸入に依存しています。もしアンモニアを吸着して回収し、肥料として再利用することができれば、少しは自給率を高められるのではないかと思いました。もっとも、単なる思いつきで提案した研究で、当初はコスト計算も何もしていなかったので、川本のダメ出しでボコボコにされましたけど(笑)」(高橋さん)

こんどは隣で苦笑する川本さんであった。

わざと「欠陥」をつくって吸着力アップ!

しかし、アンモニアを除去するだけでなく、回収して再利用できるなら一石二鳥である。川本さんのダメ出しにもめげずに研究を進めた高橋さんは、プルシアンブルーの構造をナノメートル(10億分の1メートル)のオーダーで観察した。すると、0.5ナノメートルぐらいの幅の穴が開いているのが見つかった。アンモニアの分子の大きさは0.26ナノメートルなので、この穴に入ることができる。つまり、アンモニアを吸着できるのだ。

空隙サイトへのアンモニア分子吸着のイメージ
プルシアンブルーの空隙サイトの大きさは0.5ナノメートル、アンモニア分子の大きさは0.26ナノメートルだから、アンモニアを吸着できる(©産総研)

「吸着材といえば、一般的には活性炭が有名ですよね。活性炭が優れているのは、いろいろな大きさの穴が開いている点です。小さい穴から大きい穴まであるので、多様な分子を吸着できる。

一方、プルシアンブルーは穴の大きさが均一なので、吸着できるもののサイズも限られています。だから、いろいろな物質を吸着したいなら活性炭が有効ですが、狙いをアンモニアに絞って選択的に吸着したいなら、プルシアンブルーのほうが有効なんですね。活性炭はアンモニアの吸着力があまり高くないんです」(高橋さん)

また、活性炭はヤシの実や木片など天然の原料から作るので、いつも同じものができるとはかぎらない。穴の開き方が違えば、何をどれぐらい吸着するかも変わってくる。それに対してプルシアンブルーは人工的な合成物なので、再現性が高い。しかも、分子構造に手を加えることで、吸着力を上げることもできる。じつはその方法を見つけたことが、この研究における大きなブレイクスルーだった。

「もともと存在する空隙サイトだけでなく、あえて一部が欠けた『欠陥サイト』を作ることで、そちらでもアンモニアを吸着することができるようになったんです。欠陥サイトでは、鉄イオンから出ている『手』が空くので、そこにアンモニア分子がくっついてくれるからです」(高橋さん)

欠陥サイトのイメージ
欠陥サイトのイメージ。構造モデルの左上角を取り外して欠陥をつくったところ
欠陥サイトのイメージ
あえて一部を欠損させて欠陥サイトをつくることで、アンモニアの吸着力が向上する(©産総研)

ちなみに吸着する能力については、ブルーだけでなく「どの色でも吸います」とのこと。

「赤い色をした銅のブルシアンブルー類似体を使った実験でも、欠陥率を上げるほど吸着される分子の数も増えることがわかりました」(高橋さん)

では、その能力はどれほどのものなのか。それを示したのが、次のグラフだ。

右の2つが市販のアンモニア吸着材、左の3つがプルシアンブルーとその類似体。市販のアンモニア吸着材を見ると、高橋さんの言葉どおり、活性炭はいちばん低い。イオン交換樹脂はそれよりもかなり高いが、真ん中のプルシアンブルー(PB)のほうが優秀だ。

さらに、鉄を銅に交換した類似体(左から2番目)と、コバルトに交換した類似体(いちばん左)では、イオン交換樹脂の10倍近い吸着力になる。プルシアンブルーより類似体のほうがかなり吸着力が高いのは、そうなるように構造を最適化した「改良版」だからだ。人工的に分子構造を変えられるプルシアンブルーの強みがここにある。

従来の吸着材との能力比較のイメージ
従来の吸着材との能力比較。縦軸は1キログラムあたりに吸着可能なアンモニア量(モル)。
左の2つのプルシアンブルー類似体は強い吸着能を示した

しかし、このデータを見ただけではプルシアンブルーの威力が実感としてわからない。そこで高橋さんが素人の私のために使ってくれた尺度は「東京ドーム」だった。うんうん、何事も「東京ドーム何個分」といわれるとわかりやすいよね。

「たとえば、いま私たちがいるこの部屋の空気にも、10ppb程度のアンモニアが含まれています。汗をかいたりしますからね。それぐらいの低濃度でも、プルシアンブルーはアンモニアを吸着してくれます。一升瓶くらいの量のプルシアンブルーがあれば、東京ドーム1杯分の空気からアンモニアを除去して清浄化できますよ」

おお、それは強力だ。心底から納得した。アンモニア吸着材としてプルシアンブルーが優れているのは、明らかだ。

空気中の「不要物」から肥料ができる!

だが、優れているのは吸着力だけではない。吸着したアンモニアを取り出して資源として再生できるのも、プルシアンブルーの利点である。

「再生の方法は2つ。ひとつは、加熱です。熱でアンモニアを飛ばすと、また欠陥サイトの手が空くので吸着できる。実験では、アンモニアの吸着と加熱を4回くり返しても、吸着力は劣化しませんでした。もうひとつの方法は、希酸洗浄です。希硫酸で洗うとアンモニアが離脱するんですね。こちらは吸着と洗浄を10回くり返しても吸着力が落ちませんでした。くり返し使用できれば、コストが低くなります。そして、離脱したアンモニアは回収可能ですから、肥料などに再利用できるでしょう」(高橋さん)

ということは、東京ドームで(いや、どこでもいいのだが)タダの空気から集めたアンモニアを使って、化学肥料を作れてしまうということだ。

当初は高橋さんの思いつきにダメ出しをした川本さんも、いまはその点を高く評価しておられる。

「これまで紆余曲折ありましたが(笑)、ちゃんとした事業になれば、きわめて新しいコンセプトになると思います。工場廃液や都市鉱山など、液体や固体のゴミを資源として利用する話はありましたが、私が知るかぎり、空気中の要らないものを集めて資源化するというのは聞いたことがありません。どこの空気中にもある目に見えないものがいきなり肥料になるとしたら、じつに面白いですよね」(川本さん)

いやー、よかったよかった。まだ「ちゃんとした事業」にはなっていないが、実用化へ向けた研究は順調に進んでいる。「企業秘密」とのことで詳しくは教えてもらえなかったが、放射性セシウム吸着材の研究で培った成型技術を応用することで、フリーズドライや、不織布の担持体(たんじたい=物質を固定する土台のようなもの)などが作成されているそうだ。

フリーズドライと不織布の写真
銅の類似体を乾燥させて粒状にしたフリーズドライ(左)と、プルシアンブルーを不織布に定着させたもの(不織布の左)、銅の類似体を定着させたもの(同右)。不織布の厚さはいすれも0.5ミリ

「フリーズドライの粒々ならトイレや冷蔵庫などの中に置いて使えますし、不織布ならスポーツウェアに織り込んで汗のアンモニアを除去することもできるでしょう。介護施設のカーテンや寝具に利用してもよいと思います」(川本さん)

現在は、畜舎の悪臭対策プロジェクトも実施中だ。豚舎や堆肥化施設の空気を外に吸い出して、アンモニアはプルシアンブルーで除去してから、屋内に戻す。除去したアンモニアは加熱や洗浄によって回収するという流れだ。

ただしこのプロジェクトは、人間のためだけにやるわけではない。

「豚舎は汚いのが当たり前だと思われているかもしれませんが、本来、豚はきれい好きでデリケートな生き物なんです。だから豚舎の悪臭は、豚自身の健康を害することもある。最近では、飼育環境におけるアンモニア濃度を人間の労働環境と同じ基準(25ppm以下)にすることが求められています」

生研支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち地域戦略プロジェクト)」の支援で実施

来たるべき「低窒素社会」に備えて

時代が変われば、アンモニア対策も変わるのである。前述したとおり、半導体工場や水素燃料などの需要もあるので、早い実用化が待たれるところだ。いずれは日本も、社会全体でEUのようにアンモニア削減目標を設定することになる可能性は高い。「低炭素社会」の次は「低窒素社会」だ。

「あれこれ高橋にも文句をつけながら(笑)最終的にこの研究にゴーサインを出したのも、近い将来、『炭素の次は窒素』が社会的な課題になると確信できたからです。まだ日本では窒素循環の問題は顕在化していませんが、あと何年かすれば、必ず浮上してきます。そのときに『われわれはすでにこの技術を持っています』と胸を張れるだけの準備をしておきたいですね」(川本さん)

まさに、「時代の半歩先を行く」ような研究だ。世の中が自分たちの研究に追いつくのを待ち伏せしているみたいで、じつにカッコイイと思いました。プルシアンブルーが低窒素社会という「安全地帯」をもたらす日は、そう遠くない。

ちょっと残念だったのは、見せてもらったフリーズドライの粒々が茶色かったこと。いくら「物質」としての構造が大事とはいえ、「プルシアンブルー」という色はイメージがよいので、商品化にあたっては青く着色できないものですかね──などと余計なことを申し上げたのだが、高橋さんも「たしかに見た目は大事ですよね」とおっしゃる。

「たとえばコンニャクは、もともと灰汁を使って作るから灰色になったのですが、いまは灰汁を使わないので白いコンニャクができるんですね。でもそれではコンニャクらしくないので、わざとヒジキの切れ端などを入れて灰色にするそうです。プルシアンブルーも、着色で吸着力が変わることはないので、考えてみてもいいかもしれません」(高橋さん)

最後は取材なのか企画会議なのかよくわからなくなってしまいました。「安全地帯」つながりで、「プルシアンブルー」と「ワインレッド」の2色を用意すると楽しいかもしれない。

高橋さん、川本さんの写真

ナノ材料研究部門 
ナノ粒子機能設計グループ 
主任研究員

高橋 顕Takahashi Akira(写真左)

ナノ材料研究部門 
ナノ粒子機能設計グループ 
研究グループ長

川本 徹Kawamoto Toru(写真右)

私たちの研究グループでは有害物質や有用物質の回収など、資源・エネルギー技術の確立をめざしています。そのために、プルシアンブルーなどの機能材料をナノ粒子化し、材料がもつ機能の改良や新たな機能を引き出す研究を行っています。

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