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第10回 体感!「動く日本列島」面白“地質博物館”探訪記

第10回 体感!「動く日本列島」面白“地質博物館”探訪記

さがせ、おもしろ研究!ブルーバックス探検隊がいく

photo by Adobe Stock

体感!「動く日本列島」
面白“地質博物館”探訪記
巨大研究所の中にある日本唯一の博物館“地質標本館”に行ってみた!
岩石のイメージ写真
講談社ブルーバックス編集部が、産総研の研究現場を訪ね、そこにどんな研究者がいるのか、どんなことが行われているのかをリポートする研究室探訪記コラボシリーズです。
いまこの瞬間、どんなサイエンスが生まれようとしているのか。論文や本となって発表される研究成果の裏側はどうなっているのか。研究に携わるあらゆる人にフォーカスを当てていきます。(※講談社ブルーバックスのHPとの同時掲載です。)
  • #国土強靭化・防災

2018年2月22日掲載
取材・文 中川隆夫

135年分のコレクション

衛星からの観測によって、「大陸間プレートの動き」を計測することさえ可能となった現代からすれば意外だが、実は、大陸の移動を説明するプレートテクトニクス理論が確立されたのは、わずか50年前のことにすぎない。1912年にドイツのアルフレート・ヴェーゲナーが提唱した「大陸移動説」から100年余り、各大陸に残された化石や岩石に記録されている古地磁気などの情報をたんねんに調べた後続世代の地球学者たちによって、この壮大な学説は証明されてきた。

生物の一生とは比べものにならない長い年月にわたる変化を調べる地球科学において、化石や岩石は文字どおりの物的証拠、いわゆる“ブツ”だ。過去を物語るこれらのブツが存在しなかったら、プレートテクトニクス理論はとうてい成り立たない。

科学においては、このような物的証拠が大きくものをいう。だから各研究機関は、それぞれの分野で証拠となるブツを集め、分類するなどして保存している。

研究対象としてのブツの重要性を体現している代表的な組織の一つが、産業技術総合研究所(以下、産総研)の「地質標本館」だ。産総研の広い敷地の中央部で、一般公開もしている地質と鉱物の博物館である。産総研の前身組織の一つに地質調査所があり、同所は1882年に設立されている。

ヴェーゲナーが「大陸移動説」を発表するちょうど30年前のことだ。

地質標本館の外観写真
写真1 地質標本館の外観

地質標本館は、産総研の前身である工業技術院傘下の研究所群がつくば市に移った翌年の1980年にオープンした。岩石や化石、地質の標本などを展示しているが、今回、その開館以来の大改造(リニューアル)を行ったと聞きつけて、探検隊一同で訪ねてみることにした。おもしろ研究探しが本業のわれわれだが、たまには息抜きに(?)、ちょっと趣向の変わった博物館を探訪するのも悪くないと考えたのだ。

館長の藤原治さん自ら、新装あいなった館内を案内してくださった。ブルーバックス探検隊、行く先々で歓待されてます。ありがたや。

藤原さんの写真
藤原さん

「地質標本館では、倉庫に保管してあるものも含めて約15万点の化石や岩石などを収蔵しています。前身である地質調査所の開設以来、135年間にわたって研究用に集めてきたものが主体ですが、なかには日本では見つからない貴重な鉱物もあり、学術的な意義から購入したものも存在します。

なぜ、こんなにたくさんのサンプルをもっているか? 研究における“証拠”を揃えておかなければいけないのが第一の理由です。本物の“ブツ”をもっていなければ、証拠としてのちの研究に役立たないからです。二番めには、展示を通じて人々に地質と鉱物に関する知識と情報を伝える意味があります」(藤原さん)

11分割した日本列島を3Dプリンターで再現

地質標本館は、無料で一般公開を行っている。地学研究を身近なものに感じてほしい、ひいてはそれが、防災意識の高まりなどにつながってくれれば――藤原さんたちはそう考えている。

「防災というと堅苦しく聞こえますが、実際には観る人がワクワクするような展示を心がけています。大きく分けると、4つの展示室を用意しています」と、人なつこい笑顔で迎え入れてくれた藤原さんは、われわれ探検隊をまず1階奥の「地質図」コーナーへ案内してくれた。今回のリニューアルのメイン展示だという。

地球の歴史、そして地質調査所の歴史を物語る展示物がコーナー側面の壁を覆う。第3回の探検隊が見せてもらった明治期の地質図なども展示されている。

その中央に、ドーンと横たわっているのが日本列島だ。千島列島から南西諸島まで、きっちりと収まっている34万分の1サイズの白地図。……と思ったら、山間部にはちゃんと凹凸がついている。

よくよく見れば、海溝の深さまで立体表現されているではないか!

立体白地図の写真
写真2 34万分の1サイズの立体白地図
海底から山岳地帯まで、日本列島の凹凸が再現されている

「平面上の距離は34万分の1サイズですが、同じ縮尺で再現すると、山や海の凹凸は小さすぎてわからなくなってしまいます。標高や海底面の縮尺は、縦方向に3.5倍ほど強調して再現しています」

確かに、富士山をはじめ、阿蘇山や四国山脈、中央アルプスなどの列島を代表する山々が、ゴツゴツとその存在を自己主張している。

「あれ、これは屋久島ですか? ずいぶん大きく見えますね」と問いかけると、「僕も最初は縮尺を間違えたんじゃないかと思ったんですよ」といって、藤原さんが振り返った。

鹿児島の南に、海底からポコンと突き出た丸い島。海水を抜いた状態では、屋久島は阿蘇山くらいの存在感がある。縮尺の間違いではなく、海中に沈んでいる部分が大きいということだ。

屋久島部分の写真
写真3 海中に沈んでいる部分が多く、想像以上に大きく見える屋久島

それにしてもこんなに精巧な立体地図は、どうやって作られたのか?

「全国を11のブロックに分けて、3Dの削り出しで作ってあります」

解説してくれたのは、立体地図システムの製作を担当した地球科学可視化技術研究所の芝原暁彦さん。どうして11ものブロックに分けたのですか?

「納品時間の制約が厳しかったので、列島全体の地図データを11地域に分割して、複数の製作所に発注しました。実は当初、私自身が自宅の3Dプリンターで30cm四方の模型を作っていたんですよ」(芝原さん)

芝原さんの写真
芝原さん

列島を11地域に分けたのには、もう一つ理由があり、地質標本館の搬入口をくぐらせられるギリギリの大きさも考慮に入れてのことだという。この話を聞いたとき、探検隊員の一人は以前、購入した冷蔵庫が玄関を通らず、一苦労したことをひそかに思い出していた……。

白地図が一転、色分けされた地形図に!

ところで、この凹凸立体白地図には、なにを塗るのですか?――素直な疑問をぶつけると、展示の背後に回った芝原さんが、なにやらゴソゴソとスイッチをひねる音がした。

「オッ!」

思わず、隊員たちの声が上がる。

なんと、たった今まで石膏細工のように真っ白だった立体地図の上に、お馴染みの地形図が映し出されている。思わず上を見上げると、天井から吊り下げられた映写機が視界に飛び込んできた。計5台が、静かに働いている。

海と陸地の境界線がこれら映写機によってくっきりと描き出され、平野部は緑に、山岳地帯は茶色っぽく色分けされている。視線を落として、山の中腹を横から見ても、稜線は乱れることなく、美しい輪郭を描き出していた。

プロジェクションマッピングで地形図を映写した立体白地図の写真
写真4 プロジェクションマッピングで地形図を映写した立体白地図
プロジェクションマッピングで地形図を映写した立体白地図の写真
写真5 5台の映写機で日本列島全体を目配り

「これ、プロジェクションマッピングで映写しているんですよ」

藤原さんがちょっと胸を張っていう。

プロジェクションマッピングとは、凹凸のある建築物の壁面に映像を投射し、静止画だけでなく動画までをきれいに映し出す技術だ。近年、東京駅をはじめとして各地のイベントで人気を博している。それにしても、こんなに精細に映し出せるものなんですね。

「日本列島を10m四方(場所によっては5m四方)の大きさで網目状に分割し(メッシュマップという)、その一つひとつに情報を与えています。学術的にも、より正確に再現したかったので、当初は4台で映写する予定だったところ、5台に増やした経緯があります」(芝原さん)

それにしても美しい。国土地理院が発行している等高線地図も見ていて楽しいが、それとはまた違う楽しみがある。現時点で、世界で最も詳細に表示できる学術的プロジェクションマッピングだという。

芝原さんは産総研発の所内ベンチャーを立ち上げ、このプロジェクションマッピングを請け負っているのだが、5台めの映写機は、実は自前で調達している。高精細な映像を実現するため、赤字覚悟の参加だ。研究者出身だけに、こだわるべきところからは手が抜けないのだろう。

「全国地図に映し出すことで、地形と地質の関係が直感的にわかります。産総研はネット上でシームレス地質図を公開していますが、こうして立体地図に映し出すことでさらにわかりやすくなると思います」(芝原さん)

流通網や物資の集積拠点も一目瞭然

「さあ、ここからが本番!」という藤原さんの声とともに、投影される地図が次々と切り替わりはじめた。

たとえば、地形図に重ねて、幹線流通網が映し出される。それに併せて、こんどは全国の物資集積拠点が現れる。港の近くやインターチェンジの近くに多くの拠点が位置しているのがわかる。

「こうすれば、地質と交通網の関係が一目瞭然です。ゆくゆくは、これに活断層の位置も表示しようと考えています」(藤原さん)

そしてもちろん、全国の地質図を描き出すこともできる。産総研がウェブ上で公開している「20万分の1日本シームレス地質図」の情報を基に映し出したものだ。

中央構造線が愛知県のあたりから西へ向かって海をまたぎ、四国山脈を経て、九州へとつながるようすがクッキリと見てとれる。ネット上の小さな画面ではなく、全国規模で一覧できるのがすごいところだ。

「それが目的なんですよ」と、藤原さんが大きくうなずいた。

「地質標本館が担っているのは、単なるアーカイブとしての役割だけじゃないんです。日本列島の地質的な特徴が、これからの産業とどう結びついていくか――それを探る責任も背負っているんです。このプロジェクションマッピングでは、地形や地質だけでなく、鉱物資源や水資源、物流や施設など、公開されている情報をうまく組み合わせることで、さまざまな観点から列島地図を描き分けることができる。そこには、新たな産業のヒントがたくさん転がっているはずです」

単なる展示ではなく、産業界とのコラボレーションのカギになりうる施設、というわけですね?

「その通りです。たとえば、流通のプロから見れば、災害が起きたときにどういうサプライチェーンになっていれば再開しやすいかといったこともわかるはずだと思うんですよ。まずは見て、驚いてもらえればいいんだけど、いずれは参加型、対話型の展示にしたいと考えています。今回のリニューアルは、そのためのプラットフォーム作りでもあるんです。地質研究と産業界との、橋渡しの道具と思っていただきたい」

企画立案者である藤原さんの言葉には、自然に熱がこもっていた。

立体白地図に「地質図」を投影したようすの写真
写真6 立体白地図に「地質図」を投影したようす。写真4の「地形図」との違いに注目

海岸線の変化を動画で再現

「もしかして動画も映し出せるんじゃないですか?」とけしかけると、藤原さんはウンウンと頷いて、次のアニメーションを見せてくれた。

「日本列島は、氷河期を迎えるたびに海岸線が後退して、現在は海のところもかつては陸地だった時代があります。瀬戸内海などは、まるまる陸地だったんですよ」

藤原さんの解説に合わせて、海岸線が変化していく。数万年分の変化を、瞬時に描き出すことができるようだ。ブルーバックスの昨年のヒット作『日本列島100万年史』で描かれたような地形変化、たとえば、伊豆諸島が南から北上して日本列島にぶつかり、伊豆半島ができるようすなどが、いずれこの立体地図の上で表現できるようになる。

「そのアニメーションを作る予算がつけばね」と、藤原さんは茶目っ気たっぷりに笑っている。

改装前にこの場所に設置されていた日本列島立体地質図は、模型に塗装が施された一種類の地質図でしかなかった。それが、立体白地図にプロジェクションマッピングを組み合わせたことで、静から動へと動きのある展示に変わった。

その可能性は大きく広がっている。横からの風景も、上空からの景色も、自由に視点を変えて見ることができる。あたかも、観覧者自身が巨大なドローンになって全国を高速飛行している気分を味わえるのだ。

改装前の日本列島立体地質図の写真
写真7 改装前の日本列島立体地質図

それだけではない。

深い海溝から海岸線を抜けて山頂まで上昇していく海陸シームレス・ドローンの疑似体験も可能だ。大人から見ても、かなり面白い初体験になるだろう。

「今のところ、衛星写真と地質図、地形図の3パターンの投影をベースに、そこに鉄道網などの情報などを組み合わせることで、3×10種類ぐらいの映像パターンができます。苦労したのは、精度をどこまで高めるのかということ。地形の削り出しには0.02mmの精度を求めていますから、投影の精度もそれに合わせて上げなければいけません。5台の投影機でカバーしているので、どうしても補正が必要となります。1mmズレるだけでも、その影響はバカにできないですからね」(藤原さん)

液状化した土地の断面

おっと!

次の展示へと移動しなければ、一日がここで終わってしまいそうだ。

探検隊は足早に藤原さんを追って、2階へと階段を登った。ぐるぐると丸く回転している階段は、上から見ると「アンモナイト」を模した形になっている。さすがは地質標本館、芸が細かい。

「アンモナイト」を模したらせん階段の写真
写真8 「アンモナイト」を模したらせん階段 地質標本館ならではの演出!

2階にも、重要なブツが数多く展示してある。

畳2畳分以上ものサイズを占めるのが、東日本大震災で現れた千葉県北東部の液状化した大地を縦にはぎ取ったもの。昭和30年頃まで川だったところを埋め立てて耕作地にしていた場所だという。川底をさらって浚渫(しゅんせつ)した砂の層が、地震の揺れで2m上の表土まで流れ出し、液状化したようすがハッキリとした形で残っている。

液状化した千葉県北東部の大地の断面の写真
写真9 東日本大震災で液状化した千葉県北東部の大地の断面

大型展示としては他にも、活断層をはぎ取った断層面の巨大パネルがある。

もちろん災害だけにとどまらず、産総研が研究を進めている、再生可能エネルギーの展示もある。中心は地熱利用だ。2011年の東日本大震災以降、あらためて注目を集めることになった地熱発電は、温泉利用や国立公園内に多いなどの立地面の問題を含みながらも、それらとの共生を目指して進められている。

地下5~100mの浅い地熱利用も研究対象とされており、季節にかかわらず安定した地中熱を利用して、パイプの水や不凍液を循環させることで、わずかな温度差を冬なら暖房に、夏なら冷房に利用できることを、わかりやすく解説している。

活断層の断層面の写真
写真10 活断層の断層面

地質標本館の2階には、このように生活と鉱物資源や、地質現象など2つの展示室がある。

草津白根火山の噴石を噴火6日後から展示

ふたたび1階に戻った第4展示室には、数億年前からの古い化石や鉱物が展示されている。

興味深いのは、歴史的な鉱物を展示するその部屋の入り口に、つい先日噴火したばかりの草津白根山の噴出物が展示されていることだ。

1月23日に噴火した草津白根火山の噴石などが、分析結果と一緒に展示されたのは、噴火6日後の1月29日だったという。どうしてそんなに迅速な展示ができるのか?

草津白根山の噴火物の写真
写真11 草津白根山の噴火物 ロープウェイの窓を突き破った際のガラス片がくっついている

「産総研は、防災のためのネットワークである火山噴火予知連絡会の一員なので、噴火当日に研究員が現地入りしています。すぐに噴石を持ち帰り、その夜のうちには分析を行って、水蒸気爆発の可能性が高いという発表をしました。噴出物の粒子がマグマ噴火の特徴を含んでおらず、山体の構成物が8割を占めていたことから、すぐに判断できました。

また、現地に残った調査員が雪上の火山灰層を調査した結果、一回の噴火で概算4万トンの噴出物があったとわかり、これは気象庁の発表資料の根拠になっています」(藤原さん)

草津白根山の雪上に残った火山灰層調査の写真
写真12 現地入りした調査員が、草津白根山の雪上に残った火山灰層を調査するようす

なるほど、単にニュースで聞くだけとは違って、実際に噴出物を目にしながら聞く情報からは、火山噴火の実態がありありと身に迫ってくる。博物館に収蔵されているのはカビ臭い遺物ばかりと思いがちだが、地質標本館には現在進行形の展示も存在する。ちなみに、草津白根火山の噴火が起こるまで、このスペースでは新しい地質年代の名称として話題になった「チバニアン」関連の展示がなされていた。

考えてみれば、今も日本の火山は活発に噴煙を上げ、日本列島は東の太平洋プレートから年に9cmずつ押され続けている。過去の歴史を探るだけが地質研究ではないのだ。

純度80パーセント超の金! ハート型の水晶!

化石や鉱物の展示コーナーで、なんといっても目を引くのは、純度八十数パーセントという金鉱石だ。大きさは380gもあるという。

こぶし大の鉱石のほとんどを金が占めるという、信じられないほど純度の高いこの金鉱石は、宮城県・気仙沼の金山から見つかったもの。幕末から明治期にかけて発見された鉱脈は、一説には日露戦争のための戦争国債の担保に使われたともいう“曰くつき”の鉱山だ。1980年に地質標本館が開館するとき、当時の職員だった人がご尊父から譲り受けていたものを寄付したのだという。歴史の生き証人のような金鉱石なのだ。

純度80パーセント超の金鉱石の写真
写真13 純度80パーセント超の金鉱石

そのすぐ近くには、ハート型をしたふしぎな形の鉱物もある。透明度の高い美しい水晶だ。

これは山梨県で産出した日本式双晶とよばれるもの。いかにも人工物のように見えるが、もちろんこの形は天然のもので、水晶の産地として発展した山梨県甲府市の象徴的な存在となっている。女性に人気の出そうな一品だ。

日本式双晶の写真
写真14 ハート型をした水晶(日本式双晶)

「この水晶は今吉コレクションの一部で、他にも青柳コレクションといって、美しい鉱物の標本もあります。いずれも、愛好家から寄贈された鉱物たちです。鉱物は、世界中に約5200種あると言われています。そのうち、日本人の名前がついたものが約60種ありますが、ここではその半分の30種を所蔵していて、その一部を展示しています」(藤原さん)

鉱物マニアの人にとっては、とても一日では見て回れないほど盛りだくさんのコレクションだ。

ちなみに、藤原さんはかつて、化石少年だったという。

「化石の面白さを追っかけているうちに、こんな世界に入ってしまって(笑)」(藤原さん)

展示品のなかには、その昔、藤原さん自身も発掘した経験があるという、絶滅哺乳類の「デスモスチルス」の全身骨格もあった。子供のカバくらいある骨格で、カエルのようなガニ股の哺乳類が日本列島を闊歩していたようすを思い浮かべ、思わず遠すぎる先祖を想像してしまった。

まさに、本物のブツがあるからこそ、はるかな時間を超えて空想できるということだろう。

「デスモスチルス」の全身骨格の写真
写真15 「デスモスチルス」の全身骨格 かつて化石少年だった藤原さんも発掘に成功!

「地質標本館内を案内すると、みなさん必ずどこかで立ち止まって、動かなくなるんですよ。先日いらした建築関係の方は、東京の地下構造模型の前で立ち止まって、しばらくじっと見つめていらっしゃいました。みなさんそうして時間切れになって、最後は駆け足で帰っていくんです」と、苦笑いする藤原さん。

館長自らによる贅沢な解説に耳を傾けているうちに、われわれ探検隊もやはり、時間切れとなってしまった。必ず再訪することを胸に誓って、奥深い地質標本館を後にしたのだった。

藤原さんの写真

地質情報基盤センター 
次長(地質標本館長)

藤原 治Fujiwara Osamu

地質標本館では、地質の研究成果を享受できる社会の形成を目指して、地質の研究のワクワク感の提供と、地質情報の使い方への“ひらめき”の提供をコンセプトにしています。地質の恩恵、利用、リスクについての理解を深めるとともに、具体的な活用法や新たな応用法についても紹介していきます。研究者としては、過去に起こったプレート間巨大地震や津波を調べて、次に起こる災害を予測し、その低減を目指しています。

地質標本館
〒3025-8567 茨城県つくば市東1-1-1
開館時間:9:30-16:30、休館日:月曜日、入館料:無料

芝原さんの写真

産総研発ベンチャー 
地球科学可視化技術研究所(株) 
つくば研究本部所長

芝原 暁彦Shibahara Akihiko

地球科学可視化技術研究所では、「博物館」と「三次元造形(ものづくり」を合体させ、地球科学情報を直感的、かつ正確に理解できるメディアコンテンツの製作技術を研究しています。本記事で取り上げていただいた精密プロジェクションマッピングや、化石のVRデータによる観察技術など、「未来の博物館」の創造を目指しています。

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