グリーン水素とは?
グリーン水素とは?

2026/02/10
グリーン水素
とは?
科学の目で見る、
社会が注目する本当の理由
グリーン水素とは
グリーン水素とは、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを使って生成した水素のことです。水を電気分解して、水素と酸素に還元する際に再生可能エネルギーを利用することで、製造過程においてCO2を排出せずに水素を製造します。脱炭素社会実現のためには、再生可能エネルギーを利用したグリーン水素の製造を進めることが鍵となります。
世界各国が目指すカーボンニュートラルには、太陽光や風力発電といった再生可能エネルギーの導入拡大が不可欠です。しかし、太陽光や風力といった再生可能エネルギーは、発電量が天候に左右されるという課題があります。この変動を調整するため、水から水素への変換と貯蔵が重要な役割を果たします。現在、世界中で化石燃料を起源とするグレー水素から、再生可能エネルギーを起源とするグリーン水素への移行が進められています。グリーン水素をめぐる国内外の動向や技術開発の現状、今後の展望などについて、再生可能エネルギー研究センターの前田哲彦副研究センター長に聞きました。
グリーン水素とは
グリーン水素とはなにか
近年、欧米では製造方法によって、水素を色分けして分類する考え方が広まっています。中でもグリーン水素は、再生可能エネルギーを使って水を電気分解してつくる水素のことで、製造過程においてCO2を排出しません。その他の色による水素の製造方法の違いは次のとおりです。
| グレー水素 |
化石燃料を利用して製造され、CO2が排出される |
| ブルー水素 |
化石燃料を利用して製造されるが、CO2を回収・貯蔵することで、大気への放出を抑える |
| ターコイズ水素 |
天然ガス(メタン)を熱分解し、水素と固体炭素を生成する方法でつくられる。CO2を大気中に排出しないため、環境負荷が低い |
| イエロー水素 |
原子力発電の電力を利用して水を電気分解し、製造される |
| ホワイト水素 |
製鉄などの工場において、製造過程の副産物として発生するもの、または地中にたまっている天然水素を指すこともある |
脱炭素社会の実現を目指す過程で、従来のグレー水素からブルー水素やグリーン水素への移行が進められています。
(出典:資源エネルギー庁)
グリーン水素が社会的に注目されている背景
グリーン水素が注目されている背景には、脱炭素社会の実現、エネルギー安全保障の強化、産業競争力の向上といった要因があります。
世界各国がカーボンニュートラルを目指す中、再生可能エネルギーを使って水を電気分解することで製造されるグリーン水素は環境負荷が低く、化石燃料の代替として期待されています。
次に、エネルギー安全保障の観点でも注目されています。日本における化石燃料の多くは海外からの輸入に依存しており、供給へのリスクがあります。対して、グリーン水素は国内の再生可能エネルギーの余剰電力を活用して製造できるため、エネルギーの安定供給につながります。また、水素は電力と異なり貯蔵がしやすく、必要に応じて活用できるため、太陽光や風力発電など再生可能エネルギーの有効活用にも貢献します。
産業競争力の向上の面では、EUや米国、日本などが水素戦略を掲げ、政策支援を強化しています。今後、技術の進展とコスト削減が進めば、グリーン水素の普及が加速し、新たな市場の創出や雇用拡大、持続可能な社会の実現に貢献することが期待されています。
グリーン水素の国内外における動向
世界では、水素社会の実現に向けた取り組みが活発になっています。
EUでは、グリーン水素を活用した産業の脱炭素化を進めるため、2030年までにEU域内で年間1000万トンの製造を目標としています。グリーン水素は高コストの再生可能エネルギーを利用して製造されるため、化石燃料由来のグレー水素に比べて製造コストが高いという課題があります。これを解決するため、グリーン水素の製造拡大を支援する「欧州水素銀行」が2023年に設立され、補助金制度を導入しています。
英国では「水素CfD制度(値差支援)」、米国でも、「インフレ削減法(IRA)」による税額控除や「超党派インフラ法」に基づく水素ハブの選定が進められるなど、各国で企業による水素の活用を支援する大規模な制度が始まっています。
日本では、2023年6月に「水素基本戦略」を改定し、2040年の水素供給量の目標を1200万トンと定めました。また、2024年5月には水素の供給コストの低減と需要拡大、普及促進を目的とした「水素社会推進法」が成立。この法律に基づき、既存の燃料との価格差を考慮した支援や、水素供給拠点の整備支援が行われる予定です。
グリーン水素技術について
グリーン水素の製造方法
グリーン水素の製造方法は、水電解が主流です。現在実用化されている水電解装置には、強アルカリ溶液を使用する「アルカリ型水電解装置」と、純水を使用する「固体高分子(PEM)型水電解装置」の2種類があります。
アルカリ水電解は、水酸化カリウム(KOH)や水酸化ナトリウム(NaOH)などのアルカリ溶液を電解質として使用し、水を電気分解して水素を生成する技術です。構造が⽐較的シンプルで、同様な部材を用いるソーダ電解(塩電解)は⻑年の実績があります。アルカリ水電解は必要な装置の規模は⽐較的⼤きくなりますが、⼤量の⽔素を安定的に製造できる点が特⻑です。また、⽩⾦やイリジウムなどの⾼価な貴⾦属触媒を必要としないため、他の製造⽅法に⽐べコスト⾯での優位性があります。
PEM型水電解は、イオン交換膜の上に触媒を塗布し、純水を用いて水素を生成する技術です。この方式では、電圧をかけることで水が電気分解され、水素イオンが膜を通過して水素ガスとして取り出されます。PEM型水電解は水と電気を使って水素を製造します。コンパクトな装置で運用可能であり、高い水素純度が得られる点が特長です。
「アルカリ型水電解装置」(左)と「固体高分子(PEM)型水電解装置」(右)のしくみ
(出典:NEDOエネルギー白書)
グリーン水素製造の実証実験
グリーン水素に関する研究開発は、日本国内でも進められています。中でも2020年3月に福島県浪江町に開所した「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」は、世界有数の水電解装置をそなえており、水素を大規模に製造する実証プロジェクトが進められています。
山梨県では、米倉山の大規模な太陽光発電施設を活用して、「やまなしモデルP2G(Power to Gas)システム」の実証実験を行っています。山梨県が民間企業10社とともに行うもので、PEM型水電解装置を用いて再生可能エネルギー由来の水素を製造し、企業の工場などに供給しています。現在は、製造された水素をサントリーの工場へ供給し、天然水の精製工程で、ボイラーで水素を燃焼させて活用する実証実験が進められています。
産総研では、先に紹介した2つのプロジェクトを通じて、再生可能エネルギー環境下における水電解の評価技術を確立するための基盤構築を進めています。
また、現在、産総研が開発した水素吸蔵合金を用いて、臨海副都心・青海地区(東京)において、全国で初めて地域熱供給に水素混焼ボイラーを導入しグリーン水素を活用した脱炭素化の実証実験が行われています。
出典:2023/04/28 産総研プレスリリース「グリーン水素を活用した臨海副都心の脱炭素化に向けた取り組みの実施について」
グリーン水素導入の課題
水素エネルギーの導入に関する課題は、大きくコストの削減と、インフラ整備の2つがあります。現状の水素は、大量製造によるコストダウンが進んでおらず、非常に製造コストが高くなっています。また、安全性の観点から必要以上に高機能な製品が多く、これも高コストの要因となっています。
一方で、新たな技術の開発も進んでおり、期待が寄せられています。一例では 旭化成株式会社が幹事を務める「大規模アルカリ水電解装置の開発およびグリーンケミカルプラントの実証」において、10 MW級の大規模アルカリ水電解システムの開発に挑み、コスト低減を目指しています。
各業界との連携と、イノベーションの促進を目指す
産総研では、さまざまな角度からグリーン水素にかかわる研究開発を行っています。
まず、水素製造用の低コスト高性能水電解装置の開発を目指して、アルカリ性アニオン交換膜(AEM)水電解装置の開発を行っています。AEM型水電解は従来のアルカリ水電解やPEM型水電解とは異なり、貴金属触媒を必要としないため、コストを抑えつつ高効率な水素製造が期待されています。
また、SOEC(固体酸化物形電解)という技術の開発も進めています。SOECは高温(100 ℃以上)の水蒸気を電解し、従来の水電解よりも効率よく水素を製造できます。
グリーン水素の製造コストを削減するための候補技術として、「光触媒-電解ハイブリッドシステムによる水分解法」の研究も行っています。2024年には、水分解の理論電解電圧(1.23 V)よりも小さい0.9 V以下の電解電圧で、水素と酸素を分離製造できることを実証しました。(2024/11/05プレスリリース)
また、製造された水素をそのまま燃料として利用するのではなく、液体燃料へ変換する技術も研究しています。水素は気体のままだと貯蔵や輸送が難しいですが、液体燃料に変換することで取り扱いやすくなり、実用性が大幅に向上します。これにより、水素エネルギーのさらなる普及が期待されています。(2024/12/06プレスリリース)
産総研では、これらの取り組みを通じて、さまざまな業界と連携し、持続可能なエネルギー供給の実現に寄与することを目指しています。