ロジック半導体とは?
ロジック半導体とは?
2024/07/10
ロジック半導体
とは?
科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由
ロジック半導体とは?
トランジスタをベースとした高度な論理演算を実行する半導体デバイスで、情報通信機器をはじめとするさまざまな電子機器に搭載され、それらを進化させてきました。演算を高速かつ低消費電力で行うためには、トランジスタを微細にし、数多く集積する技術がカギとなります。技術の研究開発は今も続けられており、最近では、トランジスタの構造が平面から立体になるという革新もありました。○○ nm世代という言葉を耳にしたことがあるかもしれませんが、これは、ロジック半導体をつくる技術の世代のことです。現在では、この長さが何かのサイズを表しているわけではなく、短くなるほど技術が進んでいることを表しています。ロジック半導体が注目されている理由、国内外の動向について、AIチップデザインオープンイノベーションラボラトリ AIチップ設計環境チームの大内真一チーム長に聞きました。
ロジック半導体とは
論理演算を行う頭脳。半導体デバイスの本流
半導体とは、電気の流れやすさに関して、ほとんど流れない絶縁体と、よく流れる導体の中間にある物質の名称です。一般には、半導体といえば、電気回路をつくりつけた半導体の薄片、チップ、あるいはそれを製品の形にしたものを指すことの方が多いようです。小さくて薄くて四角い板にたくさんの金属の脚が付いているものを見たことがあるのではないでしょうか。そんな半導体のうち、論理演算を行うためのものが「ロジック半導体」です。ロジック半導体は、コンピューターやスマートフォンはもちろん、家電や自動車などさまざまな製品において動作の制御に使われており、私たちの生活に欠かせないものになっています。
ロジック半導体は、1960年代に登場すると、それまで論理演算に使われていた真空管回路を置き換えていき、情報通信機器を小型に、また、自身の進化とともに高性能に、低消費電力にしていきました。また、安価にもなり、幅広い電子機器で利用されるようになりました。
ロジック半導体のほかにも、半導体には、情報を記憶するメモリー半導体や、電力を変換するパワー半導体などさまざまありますが、今日のデジタル時代を導いた立役者として、ロジック半導体は半導体の本流にあるといえるでしょう。
種類 |
機能 |
搭載製品の例 |
ロジック |
動作の制御 |
パソコン、スマートフォン、家電など |
メモリー |
情報の記憶 |
パソコン、スマートフォンなど |
パワー |
電力の変換 |
電気自動車、電車など |
ロジック半導体を取り巻く社会環境と課題
近年、社会のデジタル化の進展やAIの普及によって必要な計算量が急増しています。たとえば、最近注目を集めているChatGPTなどの生成AIは、開発したり、駆動したりするために膨大な計算が必要であり、計算資源が世界中からかき集められ、また、次々に生産されては投入されています。
AIの利用は、現在のコンピューターやスマートフォン上での対話から、いずれはロボットや自動車などの操作にまで広がると考えられます。すると、高速に計算できるロジック半導体がますます必要になります。すでに、どんどんつくっても世界のニーズを満たせず、争奪戦のような状況にありますが、今後はさらに厳しくなると考えられます。
というのも、最先端のロジック半導体は限られた企業によって限られた国でつくられているからです。この状況は経済安全保障の観点からリスクが大きいとみて、各国がロジック半導体の安定確保に向けて動き出しています。
このように、AIの急速な浸透に伴うニーズの急激な高まりを受けて、ロジック半導体のサプライチェーン安定化のために各国が巨額の投資を打ち出し始めたことが、今、ロジック半導体が注目を集めている理由です。
日本には優れた半導体製造装置のメーカーが多くあり、また、材料のメーカーも世界的にシェアを持っており、日本の技術なくしてロジック半導体をつくることはできません。一方で、さまざまな要因があって、最先端のロジック半導体そのものをつくる企業は日本にはなくなってしまいました。
そこで、日本の大手企業8社が出資して2022年8月に半導体メーカーRapidus株式会社を設立し、海外企業とも戦略的パートナーシップを結びながら、最先端のロジック半導体を再びつくろうと動き出しています。
進む微細化による高性能化。2 nm世代へ
微細化とは、トランジスタのサイズを小さくして回路の面積を小さくし、多くの回路を一つの半導体に詰め込もうという工夫です。これまで、世界的な技術ロードマップに従って約3年で面積を半分にできるよう、各国が競って微細化技術を研究開発してきました。その際、特徴的なサイズとして開発ターゲットに選ばれた値の一つが、ゲート長といわれる、トランジスタを制御する電極(ゲート電極)の長さです。
図左の平面構造のトランジスタに、ゲート電極とゲート長が示してあります。ゲート長の縮小に合わせて全体も縮小していきました。しかし、縮小していくにも限界があります。ロジック半導体において、トランジスタは、シリコンを流れる電流をゲート電極で制御しており、スイッチのような役割をはたしています。しかし、ゲート長が短くなるにつれて、電流を切ることが難しくなりました。そこで、立体構造を導入し、電流の流れる部分をゲート電極で囲むようにしてその電流制御力を高める工夫がなされました。
32 nm世代までは平面構造でしたが、続く22 nm世代からは米国のIntelによってフィン構造が導入されました。現在の最先端は3 nm世代ですが、ここで韓国のSamsungによってナノシート構造が導入されました。ナノシート構造は来る2 nm世代において主流になる見通しです。
ところで、技術世代の名称ほどゲート長の縮小は進んでいません。しかし、トランジスタや回路の構造や構成を工夫するなど、微細化以外にも性能を高める技術を開発して導入することで名称にふさわしい性能を達成しています。
2 nm 世代の技術は2021年に米国のIBMによって開発されました。RapidusはIBMと技術提携することで2 nm世代のロジック半導体の量産に挑戦しています。2 nm世代の先については、ベルギーの半導体研究機関imecが1 nmよりも短いオングストローム単位(1オングストロームは1 nmの10分の1)まで技術ロードマップを発表しており、微細化を基本とするロジック半導体の進化はまだまだ続きそうです。
先端半導体技術を日本で確保することを目指して
ここまで、ロジック半導体をつくる際の製造という工程に焦点をあてて話をしてきましたが、半導体が機能するためには、どのような回路をのせるのかという設計の工程も重要です。独自のロジック半導体が欲しいとき、製造はメーカー(製造を専門にする企業、ファウンドリー)に依頼するとして、設計は自前でするとしましょう。しかし、製造工場ほどではないにしても、設計にも大規模で高価な環境(多数の専用ソフトウェアと動かすためのコンピューター、動作確認のための装置など)が必要です。そのため、設計したくてもできないという企業は少なくないと考えられます。
そこで、産総研は、企業や大学が利用できるオープンな設計拠点の整備に取り組みました。東京大学と協力して「AIチップデザインオープンイノベーションラボラトリ(AIDL)」を創設し、その中で「AIチップ設計拠点(AIDC)」を整備しました。AIDCは2023年4月から本格的な運営を開始し、企業などにロジック半導体の設計環境を提供して開発を支援しています。
AIDLはAIDCの運営のほか、設計技術の研究開発もしています。例えば、チップレット技術です。これは、多くのロジック半導体で共通して利用される機能を切り出してそれぞれ小さなチップ(チップレット)にしておき、それらを組み合わせて一つの半導体を構成するというものです。チップレットはまとまった数が出るのでコストを抑えられ、最終的な半導体のコストも抑えられることになります。
産総研では、AIDCと対になる、ロジック半導体の製造に関する共用施設「スーパークリーンルーム(SCR)」を2002年から運営しています。しかし、提供している技術は、当時は最先端であっても、今となっては古くなってしまいました。そこで、2023年10月に「先端半導体研究センター(SFRC)」を設立し、2 nm世代の共用パイロットラインの構築に注力しています。また、さらに先の世代を見据えて、材料から回路まで、必要な要素技術を研究開発しています。その研究開発では、技術研究組合「最先端半導体技術センター(LSTC)」に参画し、同じく参画する国内の企業や大学との連携を密にしています。
このように、研究開発はもちろん、AIDCやSCRといった共用施設を通じて技術を社会に実装することによって産学の技術水準を高めていき、先端半導体技術を日本に確保するとともに日本の経済安全保障に貢献していきます。