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医療AIとは?

医療AIとは?

2022/05/25

#話題の〇〇を解説

医療AI

とは?

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

  • #少子高齢化対策
30秒で解説すると・・・

医療AIとは?

「医療AI」とは、AI(人工知能)によって医療の質の向上を目指した取り組みのことで、ゲノム医療、診断(たとえば問診、画像診断)、治療(たとえば手術支援、治療計画の立案)、医薬品開発、介護など、利用領域は多岐にわたります。特に進んでいる領域は、AIによる画像診断支援です。医療技術の発達で読影が必要な医療画像の数が増え、診断する医師の仕事は増えていますが医師の数は増えないため、作業の効率化が課題となっていました。そこで、診断の質を高めつつ医師の負担を軽減するために導入された技術のひとつが、AIによる画像診断支援です。

2022年度の診療報酬改定により、4月から新たに「人工知能技術(AI)を用いた画像診断補助に対する加算(単純・コンピュータ断層撮影)」が、保険適用されることが決まりました。画期的なことであり、AIを用いた画像診断支援の医療領域へのさらなる広がりが期待されています。日本における医療AI技術の現在と、今後の展望について、人工知能研究センターの坂無英徳(総括研究主幹)と野里博和(機械学習機構研究チーム長)に聞きました。

Contents

医療AIで変わる医療現場

AI技術が活用できる医療領域とは?

 厚生労働省の「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」で挙げている6つの重点領域は、①ゲノム医療、②画像診断支援、③診断・治療支援、④医薬品開発、⑤介護・認知症、⑥手術支援です。そのうち、もっとも活用されているのが、画像診断支援の領域です。

 画像診断支援には、3つの用途があります。

 1つ目は、医師が診る前にAIが判別するもの。AIが先に判別することによって、医師はより難しい症例に注力することができ、AIとの役割分担で、医師の負担軽減に寄与します。

 2つ目は、医師が診た後にAIが判別するもの。AIが、いわゆるダブルチェックの役割を果たすことになります。ひとりで判断しなければならない場合の精神的重圧の軽減や、重大な見逃しの減少に期待が寄せられています。

 3つ目は、リアルタイムに医師とAIが一緒に診るというものです。AIがリアルタイムに医師をサポートしながら提案することで、気づきが生まれ、見逃しの軽減につながると考えています。

 現在は、AIによる画像診断支援が突出して数多く活用されていますが、人から得られるデータは、すべてAIの対象として研究開発されおり、画像診断以外もAIは医療のさまざまな領域で活用されています。

現在実用化されている医療分野のAI技術について

 すでに実用化されている分野として、日本国内でよく知られているものは、大腸内視鏡や胃カメラといった、いわゆる消化器内視鏡分野です。すでに製品化され、多くの病院で活用されています。MRIやX線に関しても、補助診断装置としてソフトウェアの中に組み込まれています。

 実用化されている分野をよく見てみると、検査数が多い、患者が多いという理由で、画像データが集まりやすい分野に集中しているという点に特徴があります。画像診断で用いられるAIは深層学習(ディープラーニング)をベースにしていますので、学習する画像が大量に集まることが精度の向上に寄与します。そういう部分で、研究開発のしやすさがあります。

 ただし、AIの活用が期待される医療領域は無限にありますので、医療全体を考えるとまだまだ一部にしか実用化されていないというのが現状です。一方で、「人工知能技術(AI)を用いた画像診断補助に対する加算(単純・コンピュータ断層撮影)」が保険適用されるなど、医療AIに対する社会の期待を感じます。

 今後は、健康診断といった比較的身近な検査などでも、どんどんAIの補助診断が採用されていくのではないでしょうか。

医療分野におけるAIの問題点・課題とは?

 技術的には、AIに学習させるための質の良い教師データをどのようにして集めるかといった課題があります。特に医療は、人のいのちに直接かかわるものですから、より信頼性が高く質の良いデータを揃える必要があります。だからこそ、その課題を克服した医療分野に関しては、実用化が先に進んでいるといえます。

 画像診断支援に関しては実用化もされており、質の高い画像データが膨大に集まっています。しかし、この画像に正解をつけるアノテーション作業を誰がやるのかという課題もあります。もちろん、医学的に正しい判断のできる医師が担当するわけですが、医師の負担軽減のためのAIが、医師の負担を増やしてしまうことになりかねず、役割分担も課題のひとつです。

 また、今後、医療AIが社会に浸透する中では、AIと人との信頼関係の構築が、重要になってくると考えています。当然のことながら医師にもミスがあるように、AIにもミスはあります。特にAIは、学習させたデータから導き出された回答しかできないため、未知の病気に遭遇したとき、検出できない可能性もあります。

 医療AIのミスを、人々がどのように受け入れるのか。AIの診断が100%ではない中で、今後、医療AIを活用した医療ミスが起きたときに、それまで培った信頼が崩れるのではないかという懸念があります。これは、成功事例を積み重ねる中で、医療AIが少なくとも医師と同程度の社会的信頼を得ることが重要だと考えています。

医療AIがもたらす皆が同じ専門医療が受けられる未来

産総研人工知能研究センターで研究している医療AI

 AIの基礎研究は、世界中で精力的に進められ、急速に発展しています。その研究分野は、機械学習、シミュレーション技術、自然言語処理、AI用の計算アーキテクチャの開発など、多岐にわたります。

 人工知能研究センターにおいて、機械学習機構研究チームが、医療AIによる診断支援技術の研究対象としている分野は、主に①内視鏡検査、②病理診断、③乳房超音波検査の3つです。

 中でも、膀胱内視鏡の診断支援システムの研究では、2020年と2021年にそれぞれ「白色光およびNBIにおける深層学習に基づいた膀胱内視鏡診断システム」と「ハンナ型間質性膀胱炎の内視鏡診断支援システム」のテーマで日本泌尿器科学会総会・総会賞を受賞しました。いずれも実証実験の段階で、製品化には至っていませんが、産総研では、数年先に活用されていく技術を研究開発しています。<参考動画:産総研と筑波大学の共同研究で開発した膀胱内視鏡診断支援システムの適用例(EAU2021*にて公開)*Ikeda, A., Kochi, Y., Nosato, H., Negoro, H., Sakanashi, H., Murakawa, M., Nishiyama, H., Is Real-Time Detection based on Probability Map of Bladder Tumor Possible in Clinic Cystoscopy Using Deep Learning, 36th Annual EAU Congress (EAU2021), July 2021, online.>

 現在研究中の技術は、AIの診断に説明をつけるものです。例えば、医師が「がん」と診断したときに「何故がんだと分かったんですか」と聞けば、答えは返ってきます。しかし、今のところ、AIは診断の理由を答えることができないのです。このWHYに答えられる説明可能なAI診断について、研究を進めているところです。

 また、医療以外の分野で共通して使えるような基盤技術を、うまく医療に応用することができないかという研究も進めています。画像診断支援の分野では、希少疾患など患者数の少ない症例の画像データを収集することは困難ですが、たとえば人工的に生成されたフラクタル画像(同じような図形の繰り返し画像)などに基づいて多段階に学習することで精度を保てるような学習手法を、医療に応用する研究も行っています。

医療AIが医療分野にもたらす変革とは?

 AIは道具です。このことは、はっきりしています。医師の道具としてうまく医療の中で使ってもらえればいいと思っています。医療AIを使うことで、結果的に医療の質が上がったり、効率が上がったり、コストが下がったりすれば、患者にとっても大きなメリットとなります。

 日本の場合、医師不足などによる都市部と過疎地域の医療格差是正につながる可能性があります。インターネットさえつながっていれば、医療AIが医師をサポートし、全国どこでも標準的な専門医療を受けることができるようになります。

 将来的には、日本だけでなく、世界中の医療をつなげることができるでしょう。このような期待のもと、医師にとって欠かせないサポート技術のひとつになればいいと考えています。

今後考えられる医療AIの未来について

 そろばんが計算機やパソコンに変わっていったように、医療AIも、気づいたら当たり前に使われるようになっている未来を想像しています。医療AIは、医療現場の効率を上げるための道具として、国内外の医師の負担軽減に寄与することが期待されています。そのために、個々の診察室に点在する技術ではなく、複数の診療領域・組織をつないで汎用性の高い技術にしていく必要があります。理想としては教科書を参照するように常に手元において使用されるAIになることです。研究開発を行う側としては、いかに使いやすいもの、使ってもらえるものを提供するかが重要だと考えています。

 私たちは今、仲間を増やしていきたいと考えています。開発したソフトウェアを医療機関や学会などに提供し、使用してもらった上で問題点の指摘や追加機能のリクエストをフィードバックしてもらう試みが動き始めています。医学的なアプローチ、工学的なアプローチ、どちらからも理想とするようなゴールを目指して開発をしていくために、産業界との連携も重要です。産業界、医療現場、研究開発を行う技術者の三者が連携し、ともに医療AIの未来を見据えた取り組みができる場づくりが必要だとも思っています。ぜひ産総研にお声がけください。

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