半導体製造の全自動化に挑戦
半導体製造の全自動化に挑戦
2019/04/30
半導体製造の全自動化に挑戦企業とともに育てる「AI×ミニマルファブ」
半導体などの電子デバイスを製造できる小規模工場「ミニマルファブ」の新型装置群が、サイバーフィジカルシステム研究棟に設置された。産総研では、これらの製造装置にAIを取り入れることにより、半導体製造の省力化、効率化を進め、最終的な全自動化を、企業との協業により実現していく。
ミニマルファブにAIを導入
産総研で開発された「ミニマルファブ」は、幅30 ㎝弱、奥行45 ㎝、高さ144 ㎝の超小型の規格化された半導体製造装置によって構成される。クリーンルームが不要で、わずか1個から半導体製造が可能。このような“常識外”を実現し、半導体製造を一変させるポテンシャルをもつ「ミニマルファブ」は大きな注目を集めている。
サイバーフィジカルシステム研究棟の一角には、このミニマル装置がズラリと並んでいる。一見どれも同じものに見えるが、感光剤の塗布、露光、エッチングなど、それぞれ異なる1つの機能をもつ製造装置であり、目的の半導体デバイスの製造に必要な複数の装置を選択し組み合わせることで、半導体製造ラインとなる仕組みだ。
ミニマル装置は2014年から販売が始められた。最近、タッチパネルと制御システムを一体化した新開発のコントローラをミニマル装置に実装することで、高度なセキュリティ対策が可能となった。
「複数のミニマル装置をネットワークでつなげて、一体的に運用できる準備が整いました。最終的に、ミニマルファブをつながる工場として運用し、半導体製造にAIを導入していけるよう、この新棟を拠点に開発を進めていきたいと考えています」
これまで産総研のつくばセンターでミニマルファブの開発に携わってきた池田伸一は、これからは臨海副都心センターを拠点に、新たな開発に取り組んでいくことになる。
人間による条件設定をデータ化し、AIが好適条件を抽出
ミニマルファブの製造装置を動かす際、現状ではオペレーターが細かい製造条件の調整を行っている。例えば半導体の洗浄工程一つとっても、洗浄液の温度や成分、洗浄時間や手順などの条件を設定する必要がある。全工程について、今は人間が条件の洗い出しを行っており、それには膨大な経験に裏打ちされた暗黙知的要素が重要となる。
「製造工程数が数百にもなるLSI(大規模集積回路)などの複雑なデバイスをつくるには、少なくとも100台単位のミニマル装置群を動かす必要があります。全工程について条件出しを行い、連続稼働させたときにデバイスがきちんと製造できるよう調整するには、人間の経験だけに頼っていては限界があります。例えば質の良いデータを取得できる環境を整えた上でこの部分にAIを活用し、各工程内あるいは工程間の製造条件を最適化して自動化していければ、製造現場の省力化に大きく貢献できるでしょう。同時に故障・異常検知、品質の安定化や向上にもつなげていけると思います」
つまり、半導体製造各工程の製造条件について、さまざまなデバイスごとの最適な製造条件データセットを用意し、共有できる形で管理する。そうすれば「今回はこんなデバイスをつくりたい」「前回のこの部分を変えたい」といったニーズに対し、すぐに基本的な好適条件を示すことも可能になる。あとは実際のデバイスに合わせて条件を詰めていくだけでよくなるので、これが実現できればデバイス開発のスピードは格段に上がる。
全工程の条件を大量に洗い出し、データを蓄積していくにはもちろん時間はかかる。その過程では、さまざまな失敗もあるだろう。しかし、AIを使えば、その試行錯誤のプロセス自体も意味のある学習データとなる。
「人間が製造条件を試行錯誤し決定していく場合、その知見はその人の頭の中にだけ蓄積されていきますが、AIを活用すればプロセスのすべてをデジタルデータとして外部に蓄積でき、ノウハウをオープンな場で活かしやすくなるのです」
低コストでデバイス1個から製造可能に
複数の研究領域がサイバーフィジカルシステム研究棟に集約されたことで、領域横断的な新しい動きが起こるかもしれない。例えば、隣接するバイオ実験の関係者からは、化合物の合成に用いるマイクロ流路(石英板上に空けられたマイクロサイズの溝)の作成が可能か、関心が寄せられている。ミニマル装置で微細加工を行えば、大型装置を稼働せずに済むため低コスト・短納期での作成が可能になるからだ。
「ミニマルファブは半導体製造以外の分野にも幅広いニーズがあります。サイバーフィジカルシステム研究棟には装置を気軽に試していただける環境がありますので、装置メーカー、デバイスメーカーはもちろん、多様な分野の企業の方々にこの装置を見ていただき、メリットを実感してほしいです」
池田らは装置自体のブラッシュアップや開発を続けるとともに、この新棟でミニマルファブを動かしながら、AIを用いて製造の自動化を進めるにはどのようなことが必要なのか、どのようなシステムを導入したいのかなどを、企業とともに議論していく予定だ。
「最終的にはここを、研究者らが求める『マイ半導体』をつくれる工場にしたいと考えています。興味のある方はぜひ実物を見にきてください」
人工知能研究センター
つながる生産システム研究チーム
上級主任研究員
池田 伸一
Ikeda Shinichi