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高精度で安定性の高い量子電圧源を開発

高精度で安定性の高い量子電圧源を開発

2018/11/30

高精度で安定性の高い量子電圧源を開発国家標準の技術をより広く産業界で使えるものに!

丸山グループ長の写真
    KeyPoint電子機器の開発には正確な基準電圧源が欠かせない。
    量子電気標準研究グループでは国家標準と同じ技術を用い、原理的に経年変化のない手軽で高精度かつコンパクトな量子電圧源の研究開発に取り組んでいる。
    Contents

    新しい国家標準は変化する社会ニーズに対応

     量子電気標準研究グループの丸山は、産総研に入所以来、ジョセフソン電圧標準の高度化と応用に関する研究開発を行ってきた。

     ジョセフソン電圧標準というのは、マイクロ波をジョセフソン素子(2つの超伝導体の間に起こる量子現象「ジョセフソン効果」を利用する素子)に照射したときに電流‐電圧曲線に現れる階段状の定電圧ステップを利用して、電圧の単位(ボルト)を正確に実現する標準のことだ。原理は1960年代に発見され、日本でも約40年前から直流電圧の国家標準に採用されている。現在も基本原理は変わらないが、ジョセフソン素子の超伝導状態を維持するためには希少資源である液体ヘリウムが必要であり、運用コストや安定供給のリスクが生じること、動作方式が古く産業界の新しいニーズに対応できないことなどが課題となっていた。

     「安心して暮らせる社会や産業のさらなる発展には、持続可能で高精度、かつ社会ニーズに対応できる国家標準が不可欠です。そこで私たちはこのジョセフソン電圧標準を、新しいシステムへとバージョンアップし、より使いやすい国家標準をつくることにしました」

     新たなジョセフソン電圧標準のポイントは、従来より高い温度で動作可能な窒化ニオブ製の超伝導体素子と機械式冷凍機システムを採用することで、これまで冷媒として用いられていた液体ヘリウムを不要としたことだ。さらに、新しい動作方式とそれに対応した素子設計の導入により、任意の電圧値を瞬時に設定可能で、交流電圧などへの応用可能性も広がった。

     ここで用いた新方式の素子や冷凍機システムには、産総研内のナノエレクトロニクス研究部門が20年来研究してきた技術が使われている。丸山は、完成度は高いもののなかなか実用化に結びつかなかったこの技術を、NMIJの精密評価技術と組み合わせて、直流電圧の国家標準に応用したのだ。

     「いわば研究所内で技術の “橋渡し”をしたわけですね。これにより、間接的とはいえ、高度な技術を社会に役立てる道を拓くことができました」

     この標準に対する企業などからの関心は高く、丸山は、役立つ技術をつくれたと実感している。

    企業が手軽に使える量子電圧源を目指して

     さらにこの技術を発展させ、その先に丸山が思い描くのが、「普段、目に触れることのない国家標準として社会に貢献している量子技術を、目に見える形でより広く産業界で使ってもらえるものにしたい」ということだ。

     そのような理念に基づいて産総研で生まれたのが、国家標準と同じ技術を用いて完成した、6桁の精度と超高安定性をもつ量子基準電圧源だ。最大2 Vまでの任意電圧を100万分の1以下の誤差で出力でき、国家標準同様、電圧出力に経年変化は起こらない。冷凍機を小型にしたことで一般的な計測器ラックに収納可能なサイズとなり、一般企業でも負担なく保有できる。スイッチ一つで動作温度まで冷却できる点、素子制御を自動化して専門知識がなくても操作できる点は、広く使ってもらえるものとしたい、量子エレクトロニクスを身近な技術にしたいという丸山の思いに通じる。

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    小型冷凍機(中央の円柱部分)を用いた新しいジョセフソン電圧標準

     この電圧源はすでに産総研発ベンチャーから販売されたが、まだ広く使用されるには至っていない。国家標準の電圧が10 Vであるのに対し、こちらは1 〜 2 Vであるからだ。

     「10 Vの電圧にするとどうしても冷凍機が大きくなってしまうため、現在のものは小型化を優先しています。ただ、近年、冷凍機技術も進歩しつつあるので、今後はより高い電圧でも小型の冷凍機が使えるようになり、小型10 Vの量子電圧源ができるのはそう遠くはないでしょう。また、国家標準自体のさらなる高度化や、現在は直流電圧だけに対応している国家標準の交流電圧への応用展開も進めていきたいと考えています」

     さらに一般企業向けの汎用基準電圧源を多機能かつ高精度化したツェナー標準電圧発生器を、国産技術で製品化することを目指して民間企業との共同開発を進めている。

      「国家標準のための技術の向上に加え、開発した技術が社会実装されることで、NMIJの担う役割の重要性を社会に認識してもらい、理解してもらえるとよいと思っています」

     それにより共同研究や技術コンサルティング制度の活用が増え、産業界の“困ったこと”へのソリューションを提供できるようになれば、産総研はより社会に貢献していけるだろう。丸山は国家標準から企業へのソリューション提供までを視野に入れている。

    計量標準総合センター
    物理計測標準研究部門
    量子電気標準研究グループ
    研究グループ長

    丸山 道隆

    Maruyama Michitaka

    丸山 道隆グループ長の写真

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