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シリコンウエハの厚さを非接触で精密測定

シリコンウエハの厚さを非接触で精密測定

2018/11/30

シリコンウエハの厚さを非接触で精密測定半導体性能の向上に貢献する光干渉計

平井グループ長の写真
    KeyPointシリコンウエハの厚さを高精度に測定する技術へのニーズが高まっている。産総研では国家標準にトレーサブルな複数のレーザー光源2台の光干渉計を用いて、試料を非接触で精密に測定する装置を開発。半導体素子の品質管理性能向上への貢献が期待されている。
    Contents

    シリコンウエハの厚さを正確に測りたい

     長さ測定の基準器の校正を担当している平井の元にはシリコンウエハの厚さ測定についての相談がしばしばあった。

     「半導体業界ではシリコンウエハの寸法の規格が決められており、ウエハの厚さは規格の一つですが、半導体の集積度をさらに向上させるために、薄いシリコンウエハを三次元積層する技術が進んでおり、ウエハの厚さ管理が一層重要になっています。半導体の高性能化に伴い測定結果の信頼性が重要になり、国家標準へのトレーサビリティに対する要求が高まっています」

     シリコンウエハの非接触厚さ測定には分光干渉方式が広く用いられている。これは赤外光を試料に照射し、試料の表面で反射した光と試料の内部を透過して試料の裏面で反射した光という、2面からの反射光の干渉を利用して厚さをはかる方法だ。しかし、この方法では、光が試料を透過するため、その試料の屈折率をあらかじめ知っていなければ、正確な厚さをはかることができない。ところが、屈折率はウエハの製造過程でばらつき、シリコン内の不純物の量によっても変わり、試料ごとの屈折率を正確に測定する技術はない。分光干渉方式の厚さ測定器を使用しているユーザーは、それぞれがシリコン屈折率の異なる文献値を使用している。そのため、厚さ測定結果の信頼性が保証できないことが大きな課題となっていた。

     「内部の屈折率がどうであろうと、光を透過させないで、純粋に幾何学的な厚さを計測できれば問題がないわけです。そこで、国家標準にトレーサブルで、試料の厚さそのものを高精度で測定できる装置を開発しました」と言う平井は、今年、2台のレーザー干渉計から構成される厚さ測定用両面干渉計を完成させた。

    複数波長のレーザーで高精度な測定を実現

     開発された厚さ測定用両面干渉計は、まず、レーザーを試料の両面から当て、表面で反射した光と、参照鏡で反射させた光によって干渉縞を生じさせる。それを2台のCCDカメラで撮影し、2つの干渉縞の画像をもとに、試料の両面それぞれの凹凸形状を計算によって求める。同時に、試料の周囲の何もない部分を通ってきた光と、参照鏡に反射させた光との干渉縞画像も計測し、厚さを測定する際の基準平面を求める。これらの結果を組み合わせて、試料の厚さ分布を算出するというわけだ。

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    今回開発した厚さ測定用両面干渉計
    光源から出たレーザーを試料の両面から当て、表面で反射した光①と、参照鏡に反射させた光②によって干渉縞を生じさせる。それを2台のCCDカメラで撮影し③、2つの干渉縞の画像をもとに、試料の両面それぞれの凹凸形状を計算によって求める。同時に、試料の周囲の何もない空間を通ってきた光④と、参照鏡に反射させた光②との干渉縞画像も計測し、厚さを測定する際の基準平面を求める。これらの結果を組み合わせて、試料の厚さ分布を算出する。

     「光の干渉縞を用いる場合、連続した凹凸のような相対的な形状は正確に測定できますが、干渉縞の周期性の関係で、光源の波長を超える大きな段差や絶対的な長さを高精度に求めるのは難しいという問題がありました。しかしこの装置では、光源に周波数(波長)の異なる3種類の周波数安定化レーザーを用いているため、波長ごとの測定結果の合致するところを見ることで絶対的な長さも求められます」

     用いている周波数安定化レーザーは国家標準にトレーサブルなものであるため、この方法で測定した結果も、国家標準につながった信頼性の高いものとなる。

     「この装置でウエハメーカーのウエハの凹凸形状を校正しておけば、そのウエハはその企業が備える厚さ測定装置を校正するための標準試料として使うことができます。国家標準にトレーサブルな高精度な校正が可能になることで、ウエハの品質向上や、半導体の性能向上に役立てられると考えています」

     今後は異なる測定方式で多様な厚さを測定した場合の測定値との比較を行って、双方の測定方式の精度検証や試料の屈折率の影響を調べるという。また、現在は試料の表面で光を反射させているためにガラス等の透明な試料の正確な計測はできないが、今後は透明な試料についても計測する方法を模索していく。

     さらに、この測定方法は試料の長さの温度変化や経年変化の計測にも応用できる。耐環境性材料などについての信頼性の高い測定は、特に航空宇宙分野でニーズが高まっており、貢献が期待される。

     「私はもともと研究成果を社会に役立てたいという思いから計量研究所(NMIJの前身)に入所したので、こうして産業界に協力できるのはうれしいことです。長さをはかることはとても身近な計量で、国際的にも、また民間でも高い技術レベルを持っているところが多い分野です。それでもなお“産総研は頼りになる”“産総研に相談しよう”と思っていただけるよう、研鑽を積んでいきたいです」

    計量標準総合センター
    工学計測標準研究部門
    ナノスケール標準研究グループ
    研究グループ長

    平井 亜紀子

    Hirai Akiko

    平井 亜紀子グループ長の写真

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