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低コストで製造業のIT化を実現!

低コストで製造業のIT化を実現!

2018/03/31

低コストで製造業のIT化を実現!コンポーネントの組み合わせで貴社にぴったりのシステムを

研究者3人の写真
    KeyPoint コストをかけなくても、製造業のIT化が実現できる「MZ Platform」。業務効率化を進め、製造業の“ものづくり力”アップを後押しする。
    Contents

     

    ITシステムの開発にかかるコストの負担が、製造業、特に資金力と人材が不足しがちな中小企業にとって業務のIT化に取り組む際の大きな障壁となっている。自分たちの手でITシステムを開発できるツールがあれば製造業のIT化が進むのではないか。そんな発想から生まれたのが、専門的なプログラミングの知識がなくても、自社業務に合わせたシステムを自分たちで構築できる「MZ Platform」だ。産総研は、このツールを広く活用してもらうことで、製造業のIT化が進み業務が効率化できること、そしてその結果として日本の“ものづくり力”が強化されることを目指している。

    専門知識がなくても、短時間でITシステムをつくれるツールを開発

     2001年、産総研のものづくり先端技術研究センター(現・製造技術研究部門)は、製造業、特に資金力や人材に乏しい中小企業を支援するツールの開発を目指すプロジェクトを発足させた。日本の製造業が競争力を高めていくためには、IT化によって生産効率を向上させることが不可欠であり、それなくして企業はこれからの時代を生き延びていくことはできないだろう。そんな意識が高まっていた時代だった。

     現在でも中小製造業のIT化は十分とはいえないが、17年前はIT化には程遠い状況だった。プロジェクトの中心的な役割を担ってきた機械加工情報研究グループ澤田浩之は、当時を振り返る。

     「IT化しなくてはと思っても、企業自身が何からはじめてよいのかわからない。だからといって、コンサルタントやシステム開発会社に自社のIT化を外注するのも簡単ではありません。システムの開発や導入には多額のコストがかかるためです。そういったコストの高さがIT化を進めたい企業にとって障壁となっているケースが多数ありました」

     IT化が製造業の生産性向上に有効であるのはいうまでもなく、激しい競争の中で自社が生き残っていくためにも必要だった。では、導入時の負担を軽減してスムーズなIT化を進め、中小製造業の競争力を高めていくにはどうしたらよいのだろうか。

     澤田たちは企業側にITに関する専門知識がなく、自らプログラムを記述しなくとも、用意されたソフトウェアの部品を自社のニーズに応じて組み合せてシステムを構築し、運用できるツールがあるとよいのではないかと考えた。企業にとっては人材の確保が難しく、その上プログラミングの専門知識を身につける時間も負担となるため、その負担削減にも貢献できると考えたのだ。

     「プログラムのコードを一から書くには高度な知識が必要です。私たちは専門知識をもった人材がいない企業でもシステム開発ができるように、さまざまな機能をもったコンポーネント(ソフトウェアの部品)をあらかじめ用意し、それらを組み合わせることで、自社に必要なITシステムを比較的容易かつ短時間で構築できるツールをつくることにしました」と、機械加工情報研究グループの古川慈之も言う。

     そこから生まれたのが、システム開発ツール「MZ Platform」だ。2004年のリリース以来、現在まで900以上の企業・法人等に配布され広く使われている製造業の受注管理や工程・品質管理、日程・進捗管理などを自作するシステムである。

    製造業のニーズはどこに?

     開発の経緯には紆余曲折があった。プロジェクト発足当初、ターゲットにしたのは、コンピューターを用いる設計ソフト「CAD」と、製造ソフト「CAM」だった。中小製造業はこれらへの対応に苦戦しているだろうという予測だった。しかし、この活用支援試作ツールをもって企業をまわってみると、予想したほどのニーズがないことがわかった。実際に使ってもらえるツールでなくては意味がない。改めて現場の抱えるニーズを洗い出してみる必要があった。このとき多くの企業を訪問した素形材加工研究グループの徳永仁史は、企業が共通の課題を抱えていることに気がついた。

     「工程管理や生産管理に困っている、という声がとても多かったのです。帳票や生産管理記録などを紙ベースで行っている企業では、現場の進捗状況を把握するのは簡単ではなかったわけですね。しかも、人が情報を記入・入力するとデータ自体も不正確になりがちでした」

     このような話をまた別の会社ですると「うちもです!」と声が上がる。プロジェクトチームは改めて、生産管理や進捗管理システムの開発にターゲットを切り替えることにした。

     こうして2004年に「MZ Platform」が完成。製造業で必要だと考えられた機能をできるだけそろえ、180種類からスタートし、現在では200種類ほどのコンポーネントを用意している。一つのシステムには一般的に20 ~ 30種類ほどのコンポーネントを用いる。それぞれの業務に必要な機能のコンポーネントを選び、組み合わせて使ってもらうことになる。

     「その企業の従業員がMZ Platformを使って工程管理や生産管理システムを開発すれば、外注に比べて低コストで済みますので、企業がIT化を進めるときの資金的ハードルを下げることができます。このMZ Platformによって日本のものづくりの基盤である中小製造業のIT化が進めば、生産性が上がり、業務改革も果たせ、競争力の維持にもつながるでしょう。名前にある「MZ」とは『ものづくり』の意味です。この名前には、産総研が日本のものづくりに貢献したいという思いを込めました」(澤田)

    事業に合わせてシステム構築カスタマイズも自在

     外部のシステムを導入した場合、自社の既存の業務の流れをシステムに合わせて変えなくてはならないこともある。効率化のために必要なこととはいえ、それまでのやり方を変えることは現場にとっては負担となる。しかし、MZ Platformを使えば、現場にこうした負担をかけずに済むという。

     「自社の業務の形式に合わせたシステムを自在につくれますから、例えば帳票にしてもそれまでの記入形式をそのまま使うことができ、今まで通りの感覚で作業ができます」

     澤田のこの言葉を受けて徳永は、システムを自社で構築するメリットはほかにもあると熱を込める。

     「従業員がシステムを開発すれば、それはつくった人の顔が見える、愛着をもって使えるシステムとなります。しかも、いずれシステムを組み換える必要が出てきても、社内でちょっとした修正や機能拡張に柔軟に対応できます。これはシステムを外注した場合には難しいことです」

    使いこなすためのサポート体制も充実

     もちろん、いくら「比較的容易に」「短時間に」できるといっても、経験のない人が初めてシステム開発に取り組めば、つまずくことも多い。

     「私たちは、少しのつまずきをきっかけにMZ Platformが使われなくなるケースも見てきました。そこから、機能を充実させるだけではなく、現場の方々への研修や開発支援も行う必要があると気づきました」と古川は言う。

     2005年からは普及体制を本格的に整え、全国の公設試験研究機関などの協力も受けながら説明会や講習会を各地で開催している。メールでのサポートや、企業から人材を1カ月程度産総研に受け入れてシステム開発の指導・助言をする技術研修も実施した。現在では、2日程度の短期間の研修や、より企業に密着してシステム開発を支援する有料の技術コンサルティングを行っている。

     「ITに詳しくなくても安心して取り組んでいただけるよう、サポート体制を整えています」(澤田)

    情報の一元化でコスト削減が実現

     MZ Platform活用の成功事例には、例えば、プラスチック成形メーカーの作業実績収集システムがある。それまで紙の帳票やホワイトボードへ手書きで行っていた作業指示や作業実績登録などの情報伝達を、電子化して一元管理するシステムを構築した。これにより従来は半日単位でしか行えなかった進捗管理、数量管理をリアルタイムでできるようになり、納期管理の精度向上や、作業時間の20%削減を実現できた。

     また、ある金型メーカーでは、現場での日報入力負荷の軽減と正確なデータ収集を目指して、バーコードによるリアルタイム日報入力を中心としたシステムをつくった。作業者、工作機械、作業指示書にバーコードを付けて、作業者がそれらをバーコードリーダーで読み取るだけで日報入力が完了する。手間が大幅に減った上、入力データにより各製品、各工程のコストが正確に算出できるようになったため、現在はそれらを工程改善にも活用しているという。

     成功する企業の共通点を聞いたところ、澤田は「問題意識や目的意識が明確になっていること」、徳永は「本気でやる覚悟があること」と答えた。専門知識はいらない、1からプログラミングを学ぶより簡単とはいっても、システムをつくるには、やはり相応の人手や時間がかかるからだ。

     「仕様を決めて実際にシステム開発の作業ができる段階になるまで半年かかることもあります。経営者は性急に結果を求めず、自社のIT化を目指す姿勢をブレさせないことが重要です」(澤田)

    IoT時代に対応する自作キットも提供

     リリースから14年、これまでMZ Platformはユーザーのニーズに対応して新機能を加え続けている。例えば、2011年にはユーザーからの要望に応えてWebアプリケーションの開発機能を追加。その頃からタブレットで使いたいというニーズも出てきたという。こうした新しい動向にも「低コストで簡便に」という基本を踏まえて対応している。

     「さらに現在はIoTへの対応のニーズも出てきているので、IoT化を実現する機能をもつコンポーネントやハードウェアのサンプルも用意しています」(古川)

     今までは情報を人が入力し、次のアクションも人が判断していたが、IoT化されれば機械が自動で情報を収集してサーバーに送り、それを受けて機械が自動でアクションを起こすようになる。こうなれば効率化はいっそう進むだろう。しかしそのためには、情報を取得したり集約したりする多数の機器が必要となり、そのコストから導入をためらう企業も多くなると考えられる。そのため古川は、少しでも全体費用を下げようと、2017年に安価なセンサーや情報収集機器を利用して低コストでIoTシステムを自作できる、いわば“身の丈IoT”用のハードウェアキットを開発。現在は耐久性や運用方法の検証などと並行して普及活動を行っている。 

     最後に、MZ Platformのメリットはコスト面だけにあるのではないと3人は力を込める。

     「自社でシステムをつくることは、自社のITレベルの向上につながります。みずから汗をかくことでITのノウハウが社内に蓄積される、それも大きなメリットといえるでしょう。自社にフィットしたシステムが欲しい、IT化の取り組みを進めたい、そんな企業の皆さん、ぜひMZ Platformをご活用ください。ご相談もお待ちしています」

     中小製造業のITリテラシーが向上すること、そして、それによって生産効率が上がり、日本のものづくり力が強化されること。それこそがMZ Platformの最大の意義なのである。

     社内のIT化に悩んでいる方は、一度話を聞いてみるだけでも自社にあったIT化の有益なヒントを得られるのではないだろうか。

    製造技術研究部門
    機械加工情報研究グループ
    主任研究員

    古川 慈之

    Furukawa Yoshiyuki

    古川 慈之主任研究員の写真

    製造技術研究部門
    素形材加工研究グループ
    主任研究員

    徳永 仁史

    Tokunaga Hitoshi

    徳永 仁史主任研究員の写真

    製造技術研究部門
    機械加工情報研究グループ
    グループ長

    澤田 浩之

    Sawada Hiroyuki

    澤田 浩之グループ長の写真
    産総研
    製造技術研究部門
    MZプラットフォームユーザー会
    • 〒305-8564 茨城県つくば市並木1-2-1 つくば東
    • https://ssl.monozukuri.org/mzplatform/

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