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“橋渡し”だけでなく“ともに橋をつくる”関係を目指したい

“橋渡し”だけでなく“ともに橋をつくる”関係を目指したい

2016/07/31

“橋渡し”だけでなく“ともに橋をつくる”関係を目指したい 産総研は宝の山です。ぜひ一度、産総研に来てください!

研究者の写真
    KeyPoint 産総研の研究者と実際に話してみると、同じ目線で語り合うことができる。
    産総研の強みは研究者そのもの。将来を見せて導いてくれる存在に!
    企業とともに橋をつくり、二人三脚の関係を目指したい。
    Contents

     

    山田由佳さんは「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2014」のリーダー部門に選出されたこともある、パナソニック株式会社(以下、パナソニック)の“名物社員”だ。その山田さんが2015年から産総研のイノベーション推進本部に転籍出向し、産総研と企業との距離を近づける業務を担っている。現在の業務や、企業が期待する産総研の役割などについて、話を聞いた。

    企業人の視点からシーズのかけ算の効果拡大を支援

    ――産総研には、どのような経緯でいらしたのですか。

    山田近年、企業の研究所でもオープンイノベーションが盛んになり、大学や公的研究機関とのコラボレーションを広げようという動きが出てきていますが、パナソニックは、2014年に、先端研究本部の本部長に産総研の辰巳国昭さんをお迎えしました。一方で、産総研側でも、イノベーション推進本部に企業のセンスを取り入れたいということで、以前からパナソニックと人的交流の話があり、人を探していたようです。

     私はパナソニックに就職以来、ずっと先端研究本部(当初は先端技術研究所)で基礎研究に従事してきましたが、その間、産総研(当時は工業技術院)とは何度か共同研究をしたこともあり、2015年、私に白羽の矢が立ったのです。これまでも産総研と企業の間に研究者の行き来はありましたが、辰巳さんや私のような立場で転籍出向するケースは初めてだと聞いています。

    ――現在、産総研でどのような業務を行っているのでしょうか。

    山田産総研の研究は7領域に分かれており、私の所属するイノベーション推進本部は領域間の連携・融合を加速させ、産総研のシーズを社会に広く貢献させていく役割を担っています。その中で私は、融合のテーマをどうつくっていくか、パナソニックをはじめとする大企業との橋渡しをどう進めるかなどを考え、具体化するための仕組みづくりを皆さんと一緒に行っています。

     融合のテーマということでは、例えば所内の研究ユニットから提案される多様な研究テーマの中から、「このテーマとこのテーマを組み合わせると、こう使えるのではないか」というように、一つ一つのシーズから生まれるかけ算の効果を見つけ、大きなテーマとなるよう支援などをしています。

    ――具体的には、どのような形で進められたのですか。

    山田例えば、産総研ではすでに各分野で、さまざまなナノ材料の機能評価技術や解析技術をもっていますが、企業からすると、自分たちの課題には、産総研の技術のうちどれが使えるのか、非常にわかりにくいです。そこで、ラインナップしてパッケージ化し、一つのソリューションとして提示するというプロジェクトの立ち上げを支援しました。このような取り組みにより、産総研の強みである総合力を、より生かせるのではないかと思います。

    イノベーション推進本部内での議論の様子を写した画像
    産総研の技術を外にわかりやすく見せるため、イノベーション推進本部内で議論し、研究者への支援のあり方を検討している。

     一方で、研究者自身はある目的をもって技術開発をしていますが、第三者の視点で見ると、その技術はほかの用途にも使えるということに気付くことがあります。本来の目的以外でも、開発した技術が社会で使われる可能性が大きくなるという気付きを共有したとき、研究者の方の目が輝きます。これを見るのも、楽しみの一つです。

    研究者の顔が見えれば産総研は身近になる

    ――産総研に来る前後で、産総研の印象はどのように変わりましたか。

    山田パナソニックでは本社の研究所にいましたが、社内であっても、事業部からは遠い存在だと思われていました。まして産総研は“国の”研究所で、社会からは、とても偉い先生方がいる組織に見えます。大げさに言えば、「産総研には、家電開発で必要な改良技術のような相談などできない」という感覚さえあります。パナソニックの研究所移転とともに私が関西に異動してからは、共同研究の経験がある私でさえ、産総研に距離を感じるようになったのです。

     しかし中に入ってみると、多くの研究者と同じ目線で語り合うことができるようになりました。ですから、産総研の研究者は、社会から“雲の上”の存在のように見られていると自覚し、意識的に企業人と同じ目線に立ってほしいと思います。実際に研究者の顔が見えてくれば、距離は近くなります。さらに産総研の中に身近な顔ができれば、企業も産総研に足を運びやすくなるので、一人一人の研究者の顔が見える組織になるとよいと思います。

    ――産総研の強みはどのような点だと思いますか。

    山田産総研の強みは多様な技術シーズ、総合力だと言われますが、私は、最大の資産は研究者そのものだと思います。現代は企業であっても、商品だけではなく未来構想を売り物にする時代です。日本の産業界は今、これからのものづくりの方向性を見通すことができずに閉塞感が漂っていますが、この中で産総研の研究者は、将来の可能性を見せて導いてくれることができる存在だと思っています。そういった研究者自身を、産総研のセールスポイントとして示していく工夫があってもよいのではないでしょうか。

    ――産総研に期待することは。

    山田先ほど「研究者の顔が見える組織に」と言いましたが、研究者の顔が見えるようになると、「この人に相談したらこんなことができるようになるかもしれない」と、未来を一緒につくれるという期待がもてるようになります。現在の日本の閉塞感を打ち破り、元気をくれる研究所、未来への期待をもたせてくれる研究所というのが産総研に求める姿です。

     私は産総研に入ったからこそ見えたことがあり、企業との橋渡しもしやすくなっています。今“橋渡し”と言いましたが、本当はむしろ、できたものを企業に渡すより、産総研自身が、企業とともに一緒に橋をつくっていくことが大切だと思っています。

    未来図を描き、企業とともに橋を渡していく

    ――橋を一緒につくるということについて、もう少しお聞かせください。

    山田産総研は、現在もっているシーズの情報を発信し、企業と一緒にものづくりに取り組んでいこうと、イノベーションコーディネータ*1が企業をまわって連携の道筋をつけています。しかし、すでにあるシーズの橋渡しだけで大きな展開が生まれるようなケースは、それほど多くはないでしょう。私は、新たなモノは共創から生まれると考えています。

     産総研と企業が共創していくための第一歩は、まず企業の方に産総研を知っていただくこと。そのため技術シーズを集めたフェアの開催など、知っていただく仕掛けづくりを行っています。産総研は宝の山ですが、外から眺めているだけではその宝をなかなか見つけられないので、さらにいろいろなフェーズで身近に感じてもらう工夫をする必要があると思います。

    ――産総研は企業との共創において、どのような役割を果たすべきでしょうか。

    山田産総研の研究者には、どこに、どのような橋をつくるのかを示し、導いてほしい。今あるもの、できたものを見せるよりも、先への期待を語り、自分がやればこのようなことができるよと、未来を描いていってほしいです。もちろん、研究者がすべて一人で背負う必要はなく、企業などとチームを組んでやっていけばよいわけです。

    ――パナソニックに戻った後、産総研との共同研究などは考えていますか。

    山田もちろん、ともに未来を創造していきたいと考えています。2015年度はパナソニックをはじめとする企業に対し、産総研の認知度を高める活動に力を入れましたが、そのおかげで、私自身、思いがけずパナソニック内のネットワークも広がりました。会社に戻っても、より産総研との縁結びがしやすくなると感じています。

     企業の研究開発は今あるものを改良するやり方が多いですが、現在求められているイノベーションはそのようなものではなく、まだ事業としては存在せず、企業はぼんやりしたイメージしか抱けていないところにこそあるのではないでしょうか。そのようなところにはまだ橋はなく、あるとしても虹のようにぼんやりした橋で、その先に何が見えるかは、一緒に橋をつくってみないとわからないのです。ぜひ企業と産総研が手を取り合い、一緒に橋をつくる研究をしていければと思っています。

    ――最後に、企業の方々へメッセージをお願いします。

    山田山に登らないと見えない景色があるように、つくばに来ないと得られない情報が産総研にはたくさんあります。ぜひ一度、産総研を見にいらしてください。私がご案内します!

     

    人工光合成、熱発電チューブなど、チャレンジし続けるリーダー
    山田さんは、パナソニックのR&D本部先端技術研究所エコマテリアルグループ(現・先端研究本部)で、新規事業に向けた基礎的な研究開発に従事していた。
    2006年にはグループマネージャーに就任し、若手のチャレンジングな研究を後押しする立場に。2009年からは「人工光合成」の研究をスタートさせ、2012年、窒化物半導体の光電極を用いた光合成システムの開発により、植物並のエネルギー変換効率0.2 %という世界最高性能(当時)を達成した。
    翌2013年には、この技術を応用して、都市ガスの成分であるメタンの生成に成功。太陽光を使って二酸化炭素を削減しながらエネルギーを生み出すという、夢の技術の実現に一歩近づいた。
    また、工場やごみ焼却施設の排熱を利用した「熱発電チューブ」の開発にも携わり、この技術で第26回「独創性を拓く先端技術大賞」(日本工業新聞社『フジサンケイ ビジネスアイ』主催)の特別賞を受賞した。お湯を流すだけで発電できる配管は、ごみ焼却施設での実証実験も進め、実用化に向けて取り組んでいるところである。
    リーダーとして次々と新たな仕掛けを打ち出した山田さんは、2013年12月に「ウーマン・オブ・ザ・イヤー 2014」(日経BP社『日経WOMAN』主催)のリーダー部門に選出されるなど、大きな注目を集めている。

    実験風景

    *1: 産総研の役職の一つ。民間企業でのビジネス経験や産総研での研究活動などの経験を生かして、事業化の視点から産総研のシーズと企業のニーズを結びつけ、骨太な共同研究・事業開発を提案する役割を担っている。[参照元に戻る]

    イノベーション推進本部
    総括企画主幹
    (パナソニック株式会社より産総研へ転籍出向中)

    山田 由佳

    Yamada Yuka

    山田 由佳総括企画主幹の写真

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    • 〒305-8560 茨城県つくば市梅園1-1-1 中央第1

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