意欲ある優秀な学生を雇用し研究と生活を応援
意欲ある優秀な学生を雇用し研究と生活を応援

2015/09/30
意欲ある優秀な学生を雇用し研究と生活を応援働きながら能力を伸ばす産総研リサーチアシスタント制度
産総研は2014年4月、優れた研究開発能力をもつ大学院生を契約職員として雇用する「リサーチアシスタント(RA)制度*1」を創設した。これにより博士号取得前の大学院生も雇用の対象となり、産総研が行う国や企業との共同研究開発プロジェクトに参画するなどして、主体的な研究活動を行うことができる。RAを受け入れている研究グループに、研究活動の内容とRA制度活用の意義を聞き、そこで働く大学院生たちの思いを取材した。
研究者として産総研の研究開発に参画
現在、産総研の情報技術研究部門 高機能暗号研究グループにはリサーチアシスタント(RA)が在籍し、ほかの大学院生*2や産総研の研究者とともに研究に取り組んでいる。
「私がまだ一研究員だった数年前から、優秀な学生たちと交流したいと考えていました。研究を推し進めるうえで産総研の戦力になることはもちろん、彼らにとってもメリットが大きいと感じていました。個々の学生が一人で研究しても入ってくる情報は少ないし、誰かに聞けばすぐにわかることも時間をかけて調べなくてはならない。皆で集まって情報交換するほうが効率もよく、たがいに刺激になってよいと考えたのです」と、研究グループ長の花岡は言う。
RAは、どのように研究にかかわっているのだろうか。
「暗号理論研究は“紙とペン”の作業が中心で、経験以上に頭の回転が必要とされる面があります。博士号取得前であっても、頭の回転が速い大学院生であれば研究開発の強力な推進力となり得ます。産総研に集まった彼らが、たがいに切磋琢磨しながら暗号に関する理論的な研究を進めてくれることで、私たちの研究グループの研究開発力を向上させ、“暗号に関して頼れる集団”であることをより一層強く示すことができるのです」
「研究の内容によっては、企業やほかの研究機関との共同研究でも、大学院生に積極的に加わってもらうようにしています。適切な役割を与えることで、大学院生も強力な戦力になります。企業の方も、能力のある大学院生であれば、自立した一人の研究者として認識してくれます」
レベルの高い仲間に囲まれ自分自身も向上できる
RA制度の導入により、産総研、大学院生、双方にメリットが生まれている。産総研としては、「大学院生を補助的な役割ではなく、一人の研究者として雇用できるため、主体的かつ自由闊達に研究に取り組んでもらえることの意義が大きいです。学生と密接に連携することで多くの優れた成果にもつながっています。次世代を担う人材の獲得という面でも、重要な意味をもっています」と花岡は話す。
学生にとっては、暗号理論分野の第一線で活躍している研究者たちと日常的に交流をもち、指導を受けながら研究を進められることが、最大のメリットだろう。また、研究活動に対して報酬が出る環境は、経済的に学生を支えるだけではなく、研究に対する強い意欲と責任感を与えることにもなる。
RA大畑幸矢は、大学でセキュリティや通信を扱う研究室に所属しているが、そこには周囲に暗号研究に取り組んでいる人はいないと言う。
「産総研では、同じ専門の研究者からアドバイスしてもらえることが、とてもありがたいです。最近の情報系研究のスピードは速く、国際会議での発表後に論文を読むだけでは遅く、常に情報をアップデートして自分の研究に反映させていかなければなりません。そのような世界で研究していくにあたり、産総研にはレベルの高い研究者が周りに数多くいますので、とても楽しく研究できています」
また、RA石田愛も「産総研に来たことで、博士号取得前であっても、一人の研究者としての自覚をもたねばと思うようになりました。一研究者として主体的に研究に取り組めることはうれしいですし、やりがいにもなっています」と語る。
産総研では基礎研究から実用化まで、一連の流れを見据えての研究を重視していることもあり、ほかでは得難い視点を学べる機会にもなっている。
RAも取り組む高機能な暗号技術開発
ここで、この研究グループでの研究内容を少し紹介しよう。
暗号技術は安全な情報システムの根幹を支える重要な要素技術である。ネットショッピングやオンラインバンキング、交通系ICカードなど、日常的にさまざまな場面で使われ、産業にも直結している。現代の多様化・複雑化したネットワーク社会においては、単に情報を読まれないだけでなく、それぞれの場面に応じた高機能な暗号技術が必要になっているのだ。
たとえば、クラウドストレージを介したデータ共有などでは時として「無関係な人には読まれたくないが、自分に利益をもたらす人にだけは読んでもらいたい。ただし、誰に読んでもらうと利益になるのか、自分ではわからない」という状況が生じる。そのような、過去には想定されていなかった状況でも使える暗号技術を先回りしてつくっていく必要がある。
この研究グループでは研究の方向性を二つ設定しているという。
「一つは、シーズになる技術をつくり、暗号理論に関する知見の高さをアピールしていくこと。暗号技術は、企業、政府機関を問わず、多くの組織で必要とされていますが、暗号技術だけではビジネスになりにくいため、民間企業は研究体制を維持しづらいのです。私たちは、公的研究機関としての立場を生かして、国際的な研究競争を通じて最先端の知見を蓄え、理論研究を推進しています」
とはいえ、優れた技術シーズもそのままでは使えない。
そこで二つめとして、社会ニーズに応える研究がある。
「外部からの依頼に対しては、これまでに開発した技術をそのまま出すのではなく、ニーズを聞き、これまでの私たちの知見を総動員して、ゼロベースで依頼者が求めるものをつくっていきます」
シーズになる技術をつくり、それを発展させる一方で、社会のニーズを貪欲に取り込み、日本の社会や産業に必要な暗号技術を世に送り出していく。これを実現する高い技術レベルの一端をRAも担っている。将来、この研究グループから世界を変えるような研究成果が飛び出すかもしれない。
*1: 産総研リサーチアシスタント制度。産総研が2014年4月に創設。優れた研究開発能力をもつ大学院生を契約職員として雇用する制度。この制度により、博士号取得前の大学院生であっても、産総研に雇用され、経済的な心配なく研究に専念できます。また、産総研が実施している研究開発プロジェクトに参画して実践的な研究経験を積むことができ、その研究成果を学位論文にも活用できます。産総研は、意欲ある大学院生が自らの研究開発能力をみがき、研究開発のプロフェッショナルとなる道を拓くことを応援し、若手研究者を育成します。[参照元へ戻る]
*2: 今回の取材では、日本学術振興会の特別研究員として採用され、同研究グループでRAとともに研究活動を行っている2名の大学院生にもご協力いただきました。RAと同様に、博士号取得前の段階から産総研で研究に携わることで感じたことや思いをお話しいただきましたので、ともにご紹介します。[参照元へ戻る]
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