ポスター発表をしていた技術研修生(大学院生)にも取材させていただきました。
「Emopathy:寄り添いインタラクションによる心理的健康促進システム」
末永 悠之介さん(立命館大学)
メンタルヘルスの不調を抱える人が増えていることから、メンタルヘルスによいとされる日常的に自身の感情を振り返るシステムについて紹介していた末永さん。
スマートウォッチで絵文字を選択して感情を記録するので、負担が少なく継続しやすい。
記録した情報を誰かと共有することで、プラスの効果を生み出すのではないかと考え、ポジティブな感情を共有するとお互いがポジティブになり、ネガティブな感情の時にポジティブな感情を共有されると励まされたり苦痛が軽減されたりすることから、スマートウォッチを通して人と人の感情を繋ぐシステム作りに取り組んでいるそうです。
末永さんにとっての人間拡張とは:人間の可能性を広げられる技術。情報技術を使って遠く離れた人同士でも感情を気軽に伝えあい、共感することができます。
「ロボットの受容を高める動作と声がけ手法の検討」
佐藤 巧馬さん(立命館大学)
生成AIの発展によりロボットと人間が協働するようになると言われているが、そのためには解決しなければならない課題が多いと話す佐藤さん。
ユーザーがロボットに声がけしてからロボットが反応して動き出すまでに生じるタイムラグが会話に違和感を生むため、それを軽減するシステム作りに取り組んでいるそうで、視線の動かし方で解決する手法を提案していました。
また、感情記録アプリについてフィードバックを継続してみてもらう方法としてロボットによる声がけの仕組み作りを検討していると教えてくれました。
佐藤さんにとっての人間拡張とは:意識しなくても自然とメンタルヘルスのいい結果が得られるような技術。人間があまりやりたくないことを自然とできるようなシステムを作りたいですね。
「画像認識AIにおける脆弱性を軽減するための画像のエンコーディング」
桐山 大輝さん(東京農工大学)
AI技術が普及していくなかでその影響力が大きいことから、画像認識AI における脆弱性を軽減するための研究を進めてきた桐山さん。
画像認識AI に悪意ある攻撃を加える敵対的攻撃に対する問題解決について、パンダの画像に特殊なノイズを少しだけ加えた画像を画像認識AI に認識させると、パンダをテナガザルと分類するなど意図しない予測結果が生み出されると説明し、90%以上の精度を誇る Transformer でも敵対的攻撃によって精度が下がることを挙げ、その摂動の成長を抑える方法として Arb-Tiと呼ばれるエンコーディング手法を紹介していました。
桐山さんにとっての人間拡張とは:ヒトの身体的な機能の向上と同様に、AIを利用して難しいことに対する理解が容易になれば、それは人間拡張の一つの形だと思っています。
柏の葉高校情報理数科1年生がデモ発表 スライドリフトを使った地域貢献
HARCの研究者が携わった授業の一環で、生徒さん達が遠隔操作できるドリフトする車椅子(スライドリフト)を使って、これをどのように制御して、どうやって遊んだら、地域の役に立つだろうかを考え、発表していました。
2つのグループから話を聞くことができましたので、ご紹介します。
ルン葉
線の上をなぞって、車いすを操作するゲームで速さと正確性を競います。
1回目は車いすに乗ってコースを移動する感覚を覚え、2回目は車いすを降りて目隠しをした状態で移動します。
コースから外れた時間とゴールした時間を足した合計タイムで競うゲームです。
車いすから降りて、感覚を頼りに線の上を移動する感覚は、点字ブロックの上を移動する感覚に共通する部分があるのではないかと思っています。
この競技を通し、車いすのイメージを楽しいものに変えたり、ハンディキャップのある方達への理解を深めたりすることで、個々がより深く支援できるようにしたいと考えました。
コントローラーのセンサを傾ける方向に進み、傾ける大きさで速度が変わる簡単な操作で体感いただけます。
SHOOTING MASTER
小回りが利き、機動力のある車いすの特徴を利用し、広めのフィールドでボールを投げて的に当て、得点を競う遊びを考えました。
操作方法は、フットペダル(足元に2個のペダル)を用意し、両方を同じ力で踏めば前進、片方だけ踏めばその方向に回る仕組みです。
足の不自由な方にも参加してもらえるように、フットペダルの位置は自由に変えられるようになっています。
スプリングも簡単に取り換えられる構造なので手による操作もできるようになっています。
車いすはこういう使い方もできるというイメージの訴求になればと思います。
また班の中に車いすを使った経験のあるメンバーがいて、小回りが利かなくて坂道を登るのも大変だったという話から、電動であれば小回りも利いていいだろうということで、これを作りました。
「人間拡張から人間社会の拡張へ」
HARCS2024の締めは、蔵田武志副研究センター長による講演でした。
社会課題解決をミッションとする産総研にあって、ネクストステージは個々の人間拡張にプラスして、社会自体(グループやコミュニティ、多種多様なステークホルダー、そして社会全体へ)の拡張が研究対象となっていくだろうと語りました。
人間拡張研究センターシンポジウム HARCS2024 取材レポ「人間拡張とは」①