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産総研:柏センター ニュース お知らせ

2024/12/17

【HARC】人間拡張研究センターシンポジウム HARCS2024 取材レポ「人間拡張とは」①


産業技術総合研究所 情報人間工学領域 人間拡張研究センター(Human Augmentation Research Center, 以下HARC)のシンポジウムが2024年11月28日(木)、柏の葉カンファレンスセンターとオンラインによるハイブリッド形式で開催されました。
2018年11月にスタートした人間拡張研究センターは、今年度で一旦終了となる節目でのシンポジウムです。

持丸正明研究センター長


持丸正明研究センター長は総括とした講演の冒頭、「人間拡張とは何ですか?」という問いに対し、「人に寄り添い、人を高める技術と位置付けました」と話し始めました。
人単体の時よりも、その技術を身に着けることで、体や心が増強され生身の人間が増強される技術です。

HARCはセンサ、バーチャルリアリティ、ロボット、生体力学、心理学、サービス工学、デザインといったメンバーで構成され、「人間拡張」という技術にフォーカスして、介護(介護する人の機能を拡張して負担を軽減する)・健康増進(モチベーションの向上)・労働(技術スキルの支援とエンゲージメントの向上)を出口とした研究をしてきました。
センシング技術を活用し、仮想空間にあるデジタルヒューマンモデルに翻訳、その結果をバーチャルリアリティやロボットを使って人に介入することで、人の機能の状態を変える人間拡張という技術。
開発したデバイスや技術を製品として市場に出すだけではなく、その技術に付加価値を持たせ新たなサービスを社会実装していくエコシステムの創出に、HARCは取り組んできました。

研究チーム紹介のコーナーでは、8つある研究チーム(スマートセンシング研究チーム・ウェルビーイングデバイス研究チーム・生活機能ロボティクス研究チーム・運動機能拡張研究チーム・認知環境コミュニケーション研究チーム・スマートワークIoH研究チーム・サービス価値拡張研究チーム・共創場デザイン研究チーム)の研究チーム長たちが各チームの研究テーマとその取り組みを紹介しました。
写真は、スマートワークIoH研究チームの一刈良介研究チーム長のプレゼンの様子です。

一刈良介研究チーム長


シンポジウムのインタラクティブセッションでは、ポスター発表・デモ発表の様子をライブ配信し、オンライン参加者に向け持丸研究センター長が実況中継していました。

ライブ中継する持丸研究センター長


研究者&研究者の卵インタビュー 「あなたにとっての人間拡張とは?」
インタラクティブセッションでポスター発表していた研究者たちに、研究の紹介と「あなたにとっての人間拡張とは」を教えてもらいました。
「ウェアデバイス実現のためのセンサウエアの作製とその特性」
泉 小波さん
着ることで体の変化を見るニットセンサを開発している泉さん。
呼吸すると胴回りが太くなったり細くなったり変化する、歩いたりジャンプするとその変化のリズムが変わる、そんな腹囲の変化を数値としてデータ化し分析することができます。
「遠く離れて住むお母さんが元気にしているかを知れるセンサを作りたい」から始まった泉さんのウェアデバイス研究は、現在、パンツ、スカート、ワンピースなど多様なニーズに応えることで毎日着てもらえるように、色々な素材で同じように動くセンサ作りへと展開しています。

泉小波さん

泉さんにとっての人間拡張とは:スーパーマンになるための技術
「空手の蹴りの速度が測れるので、このセンサを使って空手で鍛えたいですね」

 

「Smart Textile-Based Interaction for Modulating Emotional Facial Expressions 」
Achour-Benallegue Amelさん 
アートインタラクションが表情をコントロールすることで、感情に影響を与えるシステムを紹介していたAmelさんは、柔らかく美しい触覚デバイスを使用して、(オブジェの)顔の表情をニュートラルから笑顔に積極的に変えることで、体験する人の感情状態にポジティブな影響を与えると話し、さらに顔の表情を観察することは、感情的な模倣や伝染を引き起こすため、笑顔を見るとその笑顔を自動的に模倣する傾向があり、それがフィードバックループを生み出し、観察者に同様の感情的な体験をもたらすと説明してくれました。
泉さんのセンサ技術を活用したAmelさんのポケットセンサは、物を入れるという自分の動作で画像を笑顔にし、その笑顔につられて自分も笑顔でハッピーになる素敵な技術です。
Amelさん

Amelさんにとっての人間拡張とは:センサやテクノロジーなど、人間の身体以外のものがインタラクションすることで、人間のできることが変わっていくこと

 
「人間拡張に資するウェアラブル全個体電池」 
鈴木宗泰さん
ウェアラブルデバイスを作ったり使ったりする人たちに向け、電池をより身に纏いやすくしたいと、薄くて軽く折りたためる電池を目指して研究している鈴木さん。
手始めにリチウムイオン電池の電解液を固体ポリマーに置き換え、ペラペラな薄くて曲げられる電池を作ることに成功しました。
試作品を評価し新たな課題を得た鈴木さんは、現在、色々な方たちと連携しながら、その構造の全てを一から見直して材料研究から始めることで、より安全でフレキシブル、充電時間も短く、強力なパワーを持つ電池を作っているところです。

鈴木宗泰さん

鈴木さんにとっての人間拡張とは:(こどもたちのための)未来の常識

 
「環境の湿度変化で発電する湿度変動電池」
駒﨑 友亮さん
太陽電池の使えない場所でも発電できて、どこでも使える便利な電源となる湿度変動電池の研究をしている駒﨑さん。
湿度は昼と夜で毎日変化するため、その変化を使って発電する電池を開発しました。
インフラや農業などのモニタリングなど、データを取得する際のセンサの電源として活用を考えているそうです。
現在はひとつの素子で数㎼の出力が可能ですが、今後、この出力をさらに上げ、耐久性を高め、より長期間使えるように研究を進めていると話してくれました。

駒﨑友亮さん

駒﨑さんにとっての人間拡張とは:技術を使って人間をもっとより良い形にアップデートし、その技術も含めてアップデートしていくこと



人間拡張研究センターシンポジウム HARCS2024 取材レポ「人間拡張とは」②へつづく

 
国立研究開発法人産業技術総合研究所