発表・掲載日:2023/10/10

次世代プロトン伝導セラミック燃料電池の発電性能を飛躍的に向上

-発電効率70%が実現可能で、カーボンニュートラルに貢献-

ポイント

  • 電解質の内部短絡抑制と緻密薄膜化により発電性能が飛躍的に向上
  • 実験データを再現できる計算モデルを構築し、発電効率70%以上の実現可能性を確認
  • 超高効率発電技術の実現に向けた一歩

概要

国立大学法人 横浜国立大学 荒木拓人教授、李坤朋IAS助教、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 極限機能材料研究部門 島田寛之上級主任研究員、水谷安伸招聘研究員、国立大学法人 宮崎大学 奥山勇治教授は、プロトン伝導セラミック燃料電池(PCFC)の発電性能を飛躍的に向上し、実験データを再現できる計算モデルを構築し、発電効率70%以上が実現できることを明らかにしました。

PCFCは他の燃料電池よりも高い発電効率が理論的に可能です。ところが、実際のPCFCでは電解質が正孔を伝導して内部短絡し、発電効率が低下する欠点があります。今回、電解質の内部短絡抑制と電解質薄膜化により、高性能なPCFCを実現しました。そして、PCFCの効率を高精度かつ簡易に予測できる計算モデルを構築し、実験結果を再現することで、発電効率70%が実現可能なPCFCの最適構成や作動条件などを見出しました。

なお、この技術の一部は、2023年9月27日に「Energy Conversion and Management」に掲載されました。

図1

図1 燃料電池の発電効率の推移


開発の社会的背景

燃料電池は、水素などの燃料が持つ化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換できるため、火力発電などで用いられる熱機関よりも高い発電効率が得られます。その中でも、セラミックス材料から成る固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、家庭用発電機として発電効率55%(低位発熱量(LHV)基準)を達成し、普及が進んでいます。しかし、酸化物イオン(O2−)の伝導により、発電中に水蒸気が燃料側の電極(燃料極)で生成し、燃料が希釈されて使い切れないという問題がありました。これに対し、プロトン(水素イオン、H+)が伝導するPCFCでは、水蒸気が空気側の電極(空気極)で生成するため、燃料が希釈されることなく使い切ることができるようになり、さらなる発電効率の向上が期待されます。

 

研究の経緯

これまでに、NEDO「エネルギー・環境新技術先導研究プログラム(2017~2018年度)」において、プロトン伝導性電解質材料の基礎物性評価、PCFC製造プロセス技術の開発、理論値を用いたPCFCの発電効率の試算などを行ってきました(2018年7月4日 産総研プレス発表)。

PCFCは他の燃料電池よりも高い発電効率となることが期待されています。しかし、電解質がプロトンだけでなく正孔を伝導して内部短絡し、発電効率を低下させることが問題でした。また、従来のPCFCの発電効率の計算では、電解質膜厚などの構成が内部短絡に及ぼす影響を正確に評価することが困難でした。

今回、NEDO「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業」の委託を受け、内部短絡を抑制できるPCFCを開発し、さらに内部短絡の影響も含めて実験データを再現できる計算モデルを構築して、PCFCの発電効率を算出しました。

 

研究の内容

PCFCの内部短絡は、電解質を薄膜化したときにより顕著になります。そこで、高いプロトン伝導性を有するイッテルビウム添加ジルコン酸バリウム(BaZr0.8Yb0.2O3−δ、BZYb)を電解質に選定し、材料組成などの制御により、正孔伝導の影響を低減しました。また、BZYb電解質の製造プロセスの最適化などにより、約5μmの電解質でも内部短絡を抑制することができる緻密薄膜化技術を確立しました。さらに、ナノ複合電極技術(産総研プレス発表 2016年11月9日)を適用することで、従来よりも100~150℃低い作動温度550℃でも出力密度約0.6 W/cm2を示すPCFCを開発しました(図2)。

図2

図2 PCFCの模式図(左)とプロトン伝導性電解質の走査型電子顕微鏡像(右)

内部短絡は、電解質膜厚などに依存し、発電効率に大きく影響します。そこで、電極反応や電解質内の物質移動を表現する数式に、内部短絡の影響を組み込むことで、PCFCの出力密度や発電効率を再現できる計算モデルを構築しました。さらに、実験により取得したプロトン伝導性電解質の材料物性などを上記の計算モデルに入力することにより、より正確な計算を可能にしました。この計算モデルを用いることにより、大掛かりな実証実験を行わなくても、さまざまな条件下でのPCFCの発電効率を簡易に予測できるようになり、電解質膜厚などPCFCの最適な構成や作動条件を推定することが可能になりました。

計算モデルから算出した値と今回開発したPCFCの測定値は、高い精度で一致しました。計算モデルを基に、電解質膜厚や作動温度、燃料利用率などの条件を設定して発電特性を推定した結果、開発したPCFCは70%を超える発電効率が実現可能であることを明らかにしました(図3)。

図3

図3 実験データを基にした計算モデルにより得られたPCFCの発電効率

今後の予定

今回の計算モデルで、作動温度500℃であればPCFCで発電効率70%が実現可能であることが明らかとなりました。今後は、電極材料の改良などによって、実際に500℃で高効率発電できることを実証し、PCFCの社会実装を進めていきます。

 

本研究への支援

本成果は、NEDOの委託業務「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/共通課題解決型基盤技術開発/超高効率プロトン伝導セラミック燃料電池デバイスの研究開発(JPNP20003)」により得られました。

 

論文情報

掲載誌:Energy Conversion and Management
論文タイトル:Ultra-elevated power density and high energy efficiency of protonic ceramic fuel cells: numerical and experimental results
著者:李 坤朋、島田 寛之、奥山勇治、水谷 安伸、荒木 拓人
DOI: 10.1016/j.enconman.2023.117678


用語解説

プロトン伝導セラミック燃料電池(Protonic Ceramic Fuel Cell:PCFC)
プロトン伝導セラミックス電解質を空気極と燃料極で挟み込む構造を有する燃料電池。空気極に空気や酸素を、燃料極に水素などを供給することで、電解質中をプロトン(水素イオン、H+)が移動し、電子が外部回路を流れることで電気を取り出すことができる。[参照元へ戻る]
プロトン伝導性電解質材料
プロトンが伝導するセラミックス材料。電解質は空気極側と燃料極側のガスセパレータの役割も兼ねているため緻密体とする必要がある。BaZrO3系やBaCeO3系の材料が代表的。[参照元へ戻る]
発電効率
投入した燃料が有する化学エネルギーに対して得られた電力エネルギーの比率。高温で作動するPCFCやSOFCでは、小型でも高い発電効率が得られやすい。[参照元へ戻る]
低位発熱量(Lower Heat Value:LHV)
燃料を完全燃焼させた時に発生する水蒸気の凝縮熱を含めない発熱量。[参照元へ戻る]
固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)
ジルコニア(ZrO2)やセリア(CeO2)などのセラミックスを電解質に用いた高温型の燃料電池。一般的に650~800℃で作動し、酸化物イオン(O2−)が電解質内を伝導する。[参照元へ戻る]
内部短絡
電解質をイオンだけではなく、正孔が移動することにより、電解質内部で電気的に短絡すること。電子リークとも呼ばれ、発電効率の低下を招く。[参照元へ戻る]
燃料利用率
燃料電池に投入した燃料に対する発電に使用した燃料の比率。発電効率は燃料利用率に比例することから、燃料が希釈されずに高燃料利用率が実現可能なPCFCは、燃料電池の中でも最も高い発電効率が期待される。[参照元へ戻る]

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