国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質情報研究部門【研究部門長 牧野 雅彦】は、地球観測衛星データを処理した付加価値プロダクト「ASTER-VA」を、平成28年4月1日から無償で一般に提供する(https://gbank.gsj.jp/madas/)。
産総研は、米国航空宇宙局(以下「NASA」という)が運用する地球観測衛星TERRAに搭載された経済産業省開発の光学センサーASTERで観測された衛星データを、NASAからインターネット回線を通じて取得・処理し、わかりやすいインターフェースで提供する。ASTER-VAは、産総研独自の擬似天然色画像合成技術を適用した画像データのほかに、地質情報を含む地図との重ね合わせのために地形の凹凸やずれをあらかじめ補正(オルソ補正)したデータ、標高データで構成される。また、様々な地理空間情報の閲覧ソフトウェアなどで使用できるように、二種類のファイル形式から選択することができる。
ASTER-VAは全世界のデータを備えており、防災や環境、農林水産業など広範な分野で利活用できる。また、利用制限のない公的データ(知的基盤データ)として、地理空間情報を活用したビジネスでの利用も期待される。
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付加価値プロダクトASTER-VAのデータ生成・配信の仕組みと活用イメージ |
人工衛星に搭載したセンサーから地球表面付近を観測する衛星リモートセンシング技術は、地球を広範囲に同じ指標(センサー)で継続して測定できることから、地球規模の環境影響評価や、台風や地震など大規模災害時の被害推定などに広く利用されている。
一方で、過去に撮影した衛星データには限りがあり、特に2000年代初頭から10年以上の長期にわたって観測を行っている例は少ない。地球観測衛星として最も長期間運用され、2008年からは衛星データが無償公開されているランドサットも2003年にセンサーの不具合により観測データの一部に欠損が生じた。こうした背景から、ランドサットと同様の性能を持つ無償で利用可能な衛星データへの潜在的な需要が高かった。
産総研は、ASTERセンサーの開発段階から携わり、運用を開始した2000年から15年以上にわたり、ASTERから得られるデータを保管してきた。また、地質情報研究部門と情報技術研究部門は、GEO Grid(地球観測グリッド)プロジェクトの一環として、データ処理、配信、アクセス技術のプロトタイプシステムを開発し、石油資源探査の技術開発やASTERを利用した地震や火山などの地質災害モニタリング研究を行ってきた(2005年10月21日 産総研プレス発表、2007年5月17日 産総研主な研究成果)。
防災対策や資源探査のみならず、多様なビジネスにおいて、こうした地理空間情報の活用を推進するためには、ASTERから得られる従来のデータに、産業ニーズに対応した付加価値をつけた高品質なデータを知的基盤として広く公開する必要があると考えられる。そのため、今回、NASAとの国際協力のもと、幅広いビジネスで利用できるASTER付加価値プロダクトASTER-VAを提供するシステムの研究開発を実施することとした。
開発したシステムは、付加価値プロダクトASTER-VAを作成するシステムとASTERの運用・データ処理・配信を行うシステムで構成される。
1.ASTER-VA作成システムと提供するデータの種類
ASTERは設計上、青バンドの情報を持たない。そのため、青色を推定して擬似天然色画像を合成する独自技術を開発し、人間が目視で判読しやすい天然色データに変換する機能をシステムに搭載した。これにより、例えば森林地域がより自然に近い緑色となる(図1)。また、衛星データは他の地理空間情報と重ね合わせるためには地形補正が必要なため、全てのASTERデータに地形補正(オルソ補正)を施して地理空間情報と容易に重ね合わせができるようにした。
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図1 ASTER-VAの静岡県御前崎沖のデータ(左が天然色化前、右が天然色化後) |
また今回提供を開始する地球観測データの空間分解能は、これまで無料で自由に利用できるランドサットのデータの空間分解能よりも高く、バンド数も多い。可視光線領域・近赤外線領域で15 m(3バンド)、短波長赤外線領域で30 m(6バンド)、熱赤外線領域で90 m(5バンド)である(無料公開中のランドサット8号の場合、可視光線領域~中間赤外線領域で30 m、9バンド(バンド8のみ15 m)、熱赤外線領域で100 m、2バンド)。
また、これらの衛星観測データに加えて、ASTERデータから作成した標高データも提供する。
2.ASTERの運用・データ処理・配信システム
産総研は、NASAと経済産業省との包括的協力協定に基づき、2014年12月より一般財団法人 宇宙システム開発利用推進機構(JSS)と協力し、正式なデータ処理機関としてNASAと米国地質調査所(USGS)にデータを提供するシステムを構築し、ASTERデータの処理を行っている。また、定常運用時のセンサー機器のモニタリングや緊急観測計画を含む長期観測計画についてもNASA、JSSと協力し、運用を行っている。
今回このシステムに蓄積したASTERデータをさらに付加価値処理してASTER-VAデータとしたが、ユーザーは観測日時や画像にかかっている雲の量の多さなどを指定してデータを検索できる(図2)。検索結果は、該当する画像が画面左側にサムネイルで表示され、必要なデータをダウンロードできる。また、Overlayをクリックすると選択したASTER-VA(擬似天然色画像)を地図上に表示できる(図3)。
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図2 画像検索画面のレイアウト
1) 画像の取得時期(開始年月日と終了年月日)を入力し、2) 検索したい画像データの観測範囲を決めた上で、3) Search(検索)をクリックする。 |
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図3 検索結果画面 |
ASTER-VAデータは、KML形式とGeoTIFF形式のいずれかを選択でき、形式を問わず、簡単な操作でダウンロードできる。
KML形式のASTER-VAデータはGoogle Earth™等で表示でき、オルソ補正済みで、地表面の状態を視認しやすくするための擬似天然色画像合成技術が適用されている。また、衛星画像閲覧ソフトウェアを用いるとタブレット端末やスマートフォンでも閲覧できる。KML形式のASTER-VAデータには、標高データは含まない。
GeoTIFF形式のASTER-VAデータには、後方視データ(バンド3B)を除く、全てのオルソ補正済みデータと標高データ(空間分解能30 m)が含まれる。GeoTIFF形式のASTER-VAデータには、擬似天然色画像技術を適用した画像は含まない。
ASTERは、当初の設計寿命であった5年を大幅に上回る15年以上の観測実績があり、今後も長期観測が可能な状況である。この貴重なデータを有効に活用するために、ハードウェア(ASTERセンサー)と、アーカイブを含む運用の効率化と配信に係る研究開発をJSSとの共同研究計画に基づき進める。また、ASTERを用いた新たなビジネス創出を希望する企業との共同研究を推進する。