発表・掲載日:2007/05/17

高性能光学センサ(ASTER)衛星画像でフルネーズ火山噴火に伴う火口の陥没量等を推定(フランス領レユニオン島)

-産総研、高性能光学センサ(ASTER)衛星画像の解析で遠隔地の火山観測に貢献-

ポイント

  • フルネーズ火山噴火に伴う火口の陥没量を衛星観測によって推定
  • 噴出した溶岩の面積を衛星観測によって推定
  • 新たな溶岩によって埋め立てられた海域の面積を衛星観測によって推定

概要

 産総研は、NASAのTerra衛星に搭載された経済産業省開発の高性能光学センサ(ASTER)を使って、インド洋の火山島であるフランス領レユニオン島フルネーズ火山(南緯21度13分51秒、東経55度42分45秒、標高2632m)で発生した噴火に伴う火口の陥没量や噴出した溶岩の堆積面積の推定に成功した。これらの観測結果は、火山の噴火機構の解明や火山災害軽減に役立つ。また、これらの観測結果を火山災害軽減のためフルネーズ火山観測所に提供した。



背景・経緯

 産総研はASTERを使って世界の活火山を観測・解析しており、取得した衛星画像をデータベース化して公開している(https://gbank.gsj.jp/vsidb/image/ )。衛星情報による遠隔地の火山活動の迅速かつ正確な把握は、火山防災上きわめて重要である。

 現地からの情報によるとレユニオン島のフルネーズ火山は2007年3月に南東山腹から噴火し、4月には大量の溶岩が噴出し、それが海岸まで到達し海面を埋め立てた。また4月7日には山頂火口が長さ1000m幅700mにわたって最大340m陥没したことが報告されたが、遠隔地であることから噴火の詳細についての情報は十分ではなかった。

研究の内容

 産総研はASTERを使って世界の900以上の活火山を観測しているが、フルネーズ火山は世界でも最も活発な火山の一つであることから、重要な観測対象として年間昼間8回、夜間10回の観測要求を資源・環境観測解析センターに提出しているところであり、同火山の2000年、2001年、2004年、2005年、2006年の噴火でもASTERを用いた観測を行ってきた。

 本年4月フルネーズ火山が噴火し溶岩噴出と火口陥没が発生したとの情報から、産総研は資源・環境観測解析センターと協力して4月25日から5月6日まで、昼間6回、夜間2回の緊急観測を実施した。5月6日の観測で得られたフルネーズ火山の火口の画像【図1a】から数値地形情報(DEM)を計算し、過去の画像【図1b】から得られたDEMと比較したところ、火口が最大320m陥没しおり、陥没した体積は約9.6×107m3であることが明らかになった【図1c】【図2】。5月4日の夜間観測では新たに堆積した溶岩の分布を熱異常として捉えることに成功した。【図3】は2005年6月8日の昼間に観測された画像に5月4日の夜間観測で得られた熱異常分布を重ねたものであり、フルネーズ火山の南東山腹から東側に長さ約4 km幅約1.5km面積約3.85km2の熱異常が見られる。これは新たに堆積した溶岩に対応すると思われる。この面積に溶岩の厚さを掛ければ溶岩噴出量を推定できる.3月18日と5月6日の画像を比較したところ、新たな溶岩によって埋め立てられた海域の面積は約0.52km2であることがわかった【図4】。

 火口の陥没と山腹の噴火は何らかの因果関係があると考えられ、この因果関係を解明する手がかりとして、陥没量と溶岩噴出量の特定は重要な意味を持つ。フルネーズ火山観測所の現地調査によれば、最大陥没は340m、陥没の体積は5×107m3、新たに堆積した溶岩の面積は4km2、新たな溶岩によって埋め立てられた海域の面積は約0.32km2である。ASTERによる観測と比較すると、最大陥没量と新たに堆積した溶岩の面積はほぼ一致したが、陥没の体積は約1/2倍、新たな溶岩によって埋め立てられた海域の面積は約1/2である。これらの相違については現地との情報交換により検証していく予定である。

図1
図1 フルネーズ火山の噴火前後の可視近赤外 (VNIR)画像。
(a) 2007年5月6日撮影(噴火後)、中央に火口が見える。(b) 2005年6月8日撮影(噴火前)。(c) 両画像から計算した数値化地形情報(DEM)の差分。火口に楕円形の凹部が見える。


 

図2
図2 フルネーズ火山の噴火前後の東西方向地形断面図。
赤い線は2007年5月6日(噴火後)の数値化地形情報(DEM)の断面図(左目盛り)。青い線は2005年6月8日(噴火前)の数値化地形情報(DEM)の断面図(左目盛り)。黒い線は両者の差分(右目盛り)、中央に最大320mの凹部が見える。

図3
図3 5月4日の夜間観測で得られた熱異常。
2005年6月8日に観測されたフルネーズ火山の可視近赤外 (VNIR)画像に、 2007年5月4日の夜間に得られた熱赤外 (TIR) 画像から求めた地表温度分布の内、25℃以上の地域を重ねたものである。赤い部分は植生で覆われた地域、白い部分は雲、黒い部分は古い溶岩が分布する地域である。地表温度が25℃以上の地域では、青→緑→黄色→オレンジとなるに従って温度が高い。

図4
図4 新たな溶岩によって埋め立てられたレユニオン島東海岸
(a) 2007年3月18日の可視近赤外 (VNIR)画像、(b) 5月6日の可視近赤外 (VNIR)画像。中央やや下の黒い部分が新たな溶岩、右側の黒い部分は海、その他の黒い部分は古い溶岩、白い部分は雲、赤い部分は植生。
 

今後の予定

 産総研は、引き続きASTERによる観測およびその解析研究を実施し、噴火活動を監視する。今後、国内において、今回のような噴火の可能性は高く、産総研はこれらの事態に備えてASTERを使った活火山の観測・解析を継続する予定である。

問い合わせ

(研究担当者)
独立行政法人 産業技術総合研究所 地質情報研究部門 地質リモートセンシング研究グループ
主任研究員 浦井 稔
〒305-8567 茨城県つくば市東1-1-1 中央第7
TEL: 029-861-3843 FAX:029-861-3788
E-mail:urai-minoru*aist.go.jp(*を@に変更して使用して下さい。)

独立行政法人 産業技術総合研究所 地質調査情報センター 地質調査企画室
主幹 下司 信夫
〒305-8567 茨城県つくば市東1-1-1 中央第7
TEL: 029-861-2388 FAX:0298-56-8725
E-mail:geshi-nob*aist.go.jp(*を@に変更して使用して下さい。)



用語の説明

◆ASTER
ASTERは経済産業省が開発し、米国NASAなどと協力して1999年12月に打ち上げられたTerra衛星に搭載された地球観測センサ。可視から熱赤外域を合計14バンドで観測できる。雲があると観測できない。 16日に最低1回ずつ昼と夜の観測が可能。[参照元に戻る]
◆可視近赤外センサ (VNIR)
ASTERを構成するセンサの一つ。可視光から近赤外域を3つのバンド観測し、植生や溶岩、変色海水等の分布を観測できる。また、直下視と後方視の望遠鏡が装備されており、この二つの望遠鏡により、同一軌道上におけるステレオ画像の取得が可能である。[参照元に戻る]
◆ 熱赤外センサ (TIR)
ASTERを構成するセンサの一つ。熱赤外域を5つのバンドで観測し、地表温度を観測できる。[参照元に戻る]
◆ 数値化地形情報 (DEM)
デジタル化された地形データのこと。VNIRのステレオ画像からDEMを計算することができる。このDEMの高さの精度は通常15mである。[参照元に戻る]