国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)ナノチューブ実用化研究センター【研究センター長 畠 賢治】CNT用途チーム【研究チーム長 山田 健郎】小橋 和文 主任研究員、ラスチェスカ カロリーナ アーズラ 産総研特別研究員(現:技術研究組合 単層CNT融合新材料研究開発機構 パートナー研究員)は、アルミ電解コンデンサーと同等な性能(作動電圧4 V、静電容量30 μF、充放電速度(緩和時定数)数 ms)を持ちながらも体積が1/1000となる超小型のカーボンナノチューブ(CNT)集積化マイクロキャパシターを開発した。
キャパシター電極材料として有望な、スーパーグロース法で作製した高純度で比表面積の大きい単層CNTを用いて、リソグラフィーによるCNT膜電極微細加工技術と電極隔離技術を開発し、超小型で集積化されたキャパシターを開発した。今回開発したCNT集積化マイクロキャパシターは、アルミ電解コンデンサーの代替、電子機器の軽薄小型化、超小型電子機器の電源への応用が期待される。
なお、この研究の詳細は、ドイツの学術誌Advanced Energy Materialsに近く掲載される。
|
アルミ電解コンデンサー(右)と同等の性能をもちながら体積が1/1000のCNT集積化マイクロキャパシター(左) |
電子機器の発展は、トランジスタ、レジスター、インダクターなどの構成部品の小型化によって達成されてきたが、アルミ電解コンデンサーだけはいまだにサイズが大きく、小型化が望まれている。アルミ電解コンデンサーは高速で充放電できるため、電子機器の回路の中で整流素子として主に使われてきた。一方で、キャパシターは、アルミ電解コンデンサーほど充放電は早くないが、容量が大きく寿命が長いため、無停電電源装置(UPS)やバックアップ電源などに使用されてきた。
近年、CNTやグラフェンなどの比表面積が大きいナノカーボンを電極材料とした薄型のマイクロキャパシターが、アルミ電解コンデンサー並みの早さで充放電できることが分かり、アルミ電解コンデンサーを代替し、小型化することが期待されている。しかし、マイクロキャパシターは、単体では作動電圧が低いため、必要な作動電圧をもたせるには、複数のマイクロキャパシターを接続・集積化する必要がある。集積化を行うには、電極の微細加工や各電極の隔離などが課題であり、実現が困難であった。
産総研は、スーパーグロース法による単層CNTをキャパシターの電極に用いることで、従来の材料をしのぐ高エネルギー密度・高パワー密度を実現し(2010年1月4日産総研プレス発表)、高電圧・安定動作を実証してきた(2010年6月21日産総研主な研究成果)。また、スーパーグロース法、CNT高密度化法と、半導体のリソグラフィー技術を融合させて、CNTデバイスの集積化の研究開発に取り組んできた。その結果、3次元で複数のCNTが高密度に配向したCNTカンチレバーや3次元のCNT配線など(2008年5月5日産総研プレス発表)CNTデバイスの集積化を可能にするCNT微細加工技術が開発された。
この優れたキャパシター特性を示すスーパーグロース単層CNTを電極材料とし、リソグラフィーによりCNT膜をキャパシター電極に微細加工する技術を開発することで、小型で軽量かつ高性能な、今回のCNT集積化マイクロキャパシターの開発に至った。
なお、本研究開発は、国立研究開発法人 科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「プロセスインテグレーションによる機能発現ナノシステムの創製」研究領域の研究課題「自己組織プロセスにより創製された機能性・複合CNT素子による柔らかいナノMEMSデバイス」(平成20~25年度)の支援を受けて行った。
今回開発したのは、集電体配線が載ったシリコン基板上のCNT膜をリソグラフィーによって、くし型マイクロキャパシター電極形状に微細加工する技術と、各CNT電極を直列で接続するための電極の隔離壁を構築する技術である。図1にCNT集積化マイクロキャパシターの製造法を示す。
|
図1 リソグラフィー技術によるCNT集積化マイクロキャパシターの製造法 |
8 mmx10 mmのシリコン基板上でこのCNTマイクロキャパシター100個を直列に接続し100 Vでの充放電動作を実証した。水系電解質を使用した場合、CNTマイクロキャパシター単体では1 Vまでしか充放電できないが、複数を直列に接続して集積化することで、小型で100 Vという高電圧で動作できる。さらに4インチシリコンウエハー上に4700個のCNTマイクロキャパシターを集積化し(図2)、リソグラフィーによる量産化の可能性を示すことができた。また、このCNT集積化マイクロキャパシターは、集積度、電極デザイン、直列並列といった接続様式の設計により、作動電圧、容量、出力、充放電速度が制御できる。
|
図2 100個を直列接続して集積化したCNTマイクロキャパシター(左上)の100 V充放電動作の実証(左下)と4インチシリコンウエハー上に4700個を集積化したCNTマイクロキャパシター(右) |
今回開発したCNT集積化マイクロキャパシターは、他のエネルギーデバイス(既存のキャパシター、マイクロキャパシター、アルミ電解コンデンサー、電池)と性能を比較しても(図3)、体積あたりのパワー密度(出力)とエネルギー密度(容量)を兼ね備えており、特にアルミ電解コンデンサーと比較すると、同等な出力をもちながらも体積は1/1000である。このCNT集積化マイクロキャパシターは、用途に応じて必要なスペックを満せる自由度の高い設計が可能であり、高性能エネルギーデバイスとして有望である。
|
図3 CNT集積化マイクロキャパシターと他エネルギーデバイスの性能比較 |
今後は、電子機器関連の産業界、特にコンデンサー、キャパシター、電池、半導体メーカーに対してニーズ調査を行うとともに、この技術に興味を持った企業と連携した開発を行う。さらに、CNTマイクロキャパシターは集積度・電極デザインの設計により作動電圧、容量、出力、充放電速度を幅広く制御できることを明らかにしていくとともに、半導体バックエンドなどでの量産化技術の開発に取り組み、用途の開拓を進める予定である。