独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)ナノシステム研究部門【研究部門長 山口 智彦】ナノ光電子応用研究グループ 永宗 靖 主任研究員、同部門 太田 敏隆 上級主任研究員、計測フロンティア研究部門【研究部門長 山内 幸彦】時崎 高志 副研究部門長は、シャープ株式会社【電子デバイス事業本部 副本部長 兼 センシングデバイス事業部長 本道 昇宏】(以下「シャープ」という)と共同で、赤外線カラー暗視撮影用の撮像素子を開発した。
今回開発した撮像素子は、産総研が独自に開発した暗闇でもカラー動画が撮影できる技術による撮影映像の高精細化・高フレームレート化ができる新方式の撮像素子(図1)である。また、単板方式による撮影に適用できるため撮影装置の小型化も可能となる。さらに、量産による低価格化も可能である。撮影装置の小型化や低価格化を進めることで、赤外線カラー暗視撮影技術の適用範囲の拡大や新規アプリケーションの開拓などが期待される。
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図1 パッケージ化された赤外線カラー暗視撮影用撮像素子 |
監視カメラ・防犯カメラなどのセキュリティーカメラの市場規模は、2014年には世界で1千万台を超えると予想されるなど、急拡大している。一方、世界のセキュリティーカメラ市場にはすでにアジアメーカーの廉価製品も流通しており、価格競争では人件費の高い日本のメーカーは苦戦すると想像される。廉価製品との差別化を図るため、日本の最先端技術を用いた高性能で高付加価値のセキュリティーカメラの開発が望まれている。
産総研は、これまで、赤外線照明だけを用いて被写体のカラー動画を得ることができる赤外線カラー暗視撮影技術を開発してきた(2011年2月8日、2012年12月3日 産総研プレス発表)。これは、物体の可視光領域の反射特性と赤外線領域の反射特性の間にある弱い相関関係に基づいて表色処理を行い、可視光下での被写体の色と同一かそれに近い色によるカラー画像を得る技術である。しかし、これまで試作してきた3CCD方式(3板方式)などの赤外線カラー暗視カメラは、やや大型で汎用の用途には向いていなかった。
そこで、産総研はシャープと共同で独自の最先端ナノテクノロジーを用い、カメラの小型化が可能なカラー暗視カメラ用の撮像素子の開発を進めた。
図1は、今回開発した撮像素子の外観である。樹脂モールドパッケージとカバーガラスリッドによりパッケージ化された計35個の撮像素子が、静電気防止トレーの各区画に収められている。パッケージの上面サイズは約10 mm × 10 mmである。なお、今回開発した撮像素子は、HD720(1280 × 720画素)の高画質で30 fpsの滑らかな赤外線カラー動画を撮影できる。
図2は、今回開発した赤外線カラー暗視撮影用の撮像素子を用いて作製した赤外線カラー暗視カメラである。カメラ本体のサイズが約55 mm × 60 mm × 90 mm、重量が約250 gと小型・軽量であり、持ち運びまたは設置も容易なため、さまざまな用途に応用できる。
図2(a)は、アイボリー色のカメラ本体の左部と上部にそれぞれズームレンズと赤外線照射機が装着され、雲台上に固定されたカメラである。図2(b)は、モニター、録画機、バッテリーを追加した録画用のセット一式である。このセットで暗闇でも距離5 m程度までの被写体の動画撮影・録画が可能である。
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(a)(b) |
図2 今回開発した赤外線カラー暗視カメラ |
図3は、このセットを用いて夜間屋外を撮影した動画のスナップショット(1フレーム)である。ここで、図3(a)、(b)、(c)は赤外線を照射しないで撮影した画像で、肉眼に近い映像となっている。一方、図3(a')、(b')、(c')はそれぞれに赤外線を照射して撮影した画像である。図3の左右の画像を比較すると、左の画像で見えなかった所が、右の画像では明瞭に見え、カラー暗視撮影できていることがわかる。
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(a)(a') |
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(b)(b') |
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(c)(c') |
図3 夜間屋外撮影例、(a), (b), (c)は赤外線照射なし、(a'), (b'), (c')は赤外線照射あり |
現在、今回開発した撮像素子の一層の高性能化を進めており、シャープ、株式会社ナノルクス研究所により、2014年度中の製品化に向けて、より高度化された赤外線カラー暗視カメラや赤外線照射機などを開発中である。