独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)ナノシステム研究部門【研究部門長 八瀬 清志】ナノシステム計測グループ【研究グループ長 時崎 高志】永宗 靖 主任研究員は、新たな原理による暗視カラー撮像技術を開発した。
この技術は、独自に開発した高感度赤外線撮像技術と高速画像処理技術を用いることによって、暗闇でも被写体のカラー動画像をリアルタイムで撮像することができる技術である。この技術を応用することによって、視認性の高いセキュリティーカメラを提供することが可能となり、より安全な社会の実現に貢献するものと期待される。
なお、この技術の詳細は、平成23年2月16~18日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催されるPrintable Electronics 2011で発表する。
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図1 (a)従来技術による暗視撮像例 (b)今回の研究開発による暗視撮像例
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近年の防犯意識の高まりにより、防犯カメラや監視カメラなどのセキュリティーカメラの需要がますます高まってきた。しかし、従来の赤外線暗視撮像技術による撮像、表示、録画は、モノクロ、モノカラー(単色)あるいは疑似カラーであり、画像の視認性の面で問題があった。そのため、モニター監視者の疲労軽減や犯罪検挙率向上の観点から、より高性能な暗視カメラなどの開発が急務であり、視認性の高い撮像技術が望まれている。
産総研では、長年にわたって高感度光検出素子や高感度撮像技術の開発を行ってきた。今回、これらの開発によって培ってきた技術を、赤外線撮像装置に応用することにした。新しく動作原理や信号処理法の開発を行うことなどによって、これまで、モノクロ、モノカラーまたは疑似カラーでしか表示できなかった赤外線画像を、演色性をもつカラー画像として撮像できる視認性の高い赤外線撮像装置を実現するための技術開発に取り組んだ。
この技術は、暗闇における被写体に赤外線を照射し、被写体に反射された赤外線を独自の高感度赤外線撮像技術および高速画像処理技術により検出し、可視光下での被写体の色と同一または近似した色によるカラー動画像として、リアルタイムで撮像、表示あるいは録画することのできるこれまでにない新しいタイプの撮像技術である。
図1は、暗闇における被写体(左から、赤、緑、青のイーサーネットコネクタキャップ、赤色のジョンソン端子、緑色のバナナジャック)の赤外線撮像例である。図1(a)は従来の撮像技術による撮像、図1(b)は今回開発した撮像技術による像である。ここで、従来技術による画像が緑色のモノカラーであるのに対し、この技術による画像はカラーであり、視認性が飛躍的に向上している。さらに可視光下での色や金属光沢もよく再現されていて、従来の技術にはなかった演色性をもつ画像が得られることがわかる。
図2は、紙に印刷した白抜き文字を赤、緑、青の各色の塗料で着色したものを被写体として撮像したものであり、図2(a)は蛍光灯照明下における通常のカラー画像例、図2(b)は今回開発した撮像技術による暗闇における赤外線暗視撮像例である。表色に改善の余地はあるものの、この場合も可視光下における被写体の色をかなり再現できていることがわかる。
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図2 (a)蛍光灯照明下における通常のカラー撮像例 (b)今回の研究開発による暗視撮像例
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図3は、暗闇における被写体(緑色のバナナジャック、青色のイーサーネットコネクタキャップ、手)の撮像例であるが、肌色もよく再現されているのがわかる。
今回開発した赤外線暗視カラー撮像技術による画像は、従来のモノクロ、モノカラー、疑似カラーの画像と比較して情報量がはるかに多い。例えば、防犯カメラで撮像、記録された画像から、犯人の帽子やカバン、着衣の色などが特定できれば、犯罪検挙率の向上にもつながると期待される。また、画像のカラー化によって視認性が向上するため、モニター監視者の疲労・負担を軽減できることも考えられる。この技術は、例えば、夜間の動物観察、車載用アシストカメラなど、さまざまな分野への応用が期待される。
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図3 今回の研究開発による暗視撮像例
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今後は産総研技術移転ベンチャーである株式会社ナノルクス研究所へ技術移転し、今回開発した技術による撮像装置を高性能化、高耐久性化、小型化させて、一般使用に耐え得る製品として市販する予定である。
この技術に興味をもった企業を求め、共同で各種の応用開発を行いたいと考えている。