独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)ナノシステム研究部門【研究部門長 山口 智彦】ナノ光電子応用研究グループ 【研究グループ長 時崎 高志】永宗 靖 主任研究員、同部門 太田 敏隆 主任研究員は、3CCD方式によるフルハイビジョン規格の赤外線カラー暗視撮影技術を開発した。
この技術は、産総研が独自に開発した暗闇でもカラー動画撮影ができる技術をもとに、3個のCCD撮像素子を用いた赤外線撮影法と画像処理法を採用することにより開発した、暗闇でも鮮明な高フレームレートのカラー動画を撮影できる技術である(図1)。この技術開発は、夜間撮影に対応できる放送用カメラ、車載カメラ、防犯・監視カメラなどへの応用が考えられる。
なお、この技術の詳細については、平成24年12月5~7日に千葉県千葉市の幕張メッセにて開催されるSEMICON Japan 2012で展示とデモンストレーションが行われる。
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図1 今回開発した赤外線カラー暗視カメラにより撮影された暗闇中の被写体の撮像例。 |
暗闇の中での撮影には赤外線暗視カメラが広く使われているが、従来はモノクロの映像しか撮影できなかった。セキュリティー、車載カメラ、夜間動物観察などの、暗視撮影を必要とする分野では、より詳細な映像情報を得るためにカメラのハイビジョン化が進められてはいるが、依然としてモノクロ映像が利用されている。一方、赤外線だけを利用して、可視光で見た映像に近いカラー画像が撮影できれば、これまでとは質的に異なる情報が得られ、前述の分野などでの展開が期待される。
産総研では、高感度光検出器・撮影技術の開発を行ってきた。その中で、赤外線撮影から物体の色を再現できる画像処理技術の開発を進めており、これまでに、モノクロでしか表示できなかった赤外線画像を可視光下で見た色に近いカラー画像として撮影できる赤外線カラー暗視カメラの原理を実証した(2011年2月8日 産総研プレス発表)。今回、この技術をさらに高度化して、高精細なデジタル放送にも使える、高解像度の赤外線カラー動画が撮影できる装置を開発した。
この技術では、暗闇にある被写体に赤外線を照射し、被写体から反射してきた赤外線を独自の高感度赤外線撮影技術により検出し、弱いながらも存在する物体の可視光領域における反射特性と赤外線領域における反射特性の相関関係に基づいて、表色処理を行うことによって可視光下での被写体の色と同一かそれに近い色によるカラー動画を得る、これまでにない新しい撮影技術である。図2は今回開発した赤外線ハイビジョンカラー暗視カメラである。既存の放送用ハイビジョンカラーカメラをベースとして、筐体のサイズや重さを増大させないで、内部に赤外線カラー暗視用の装置も組み込んである。このカメラは、可視光照明下では通常のハイビジョンカラーカメラとして動作し、暗闇の中ではカメラ上部に取り付けられた赤外線投光器で赤外線を投射して赤外線映像を撮影し、カメラ内部の画像処理系によりカラー化する。より高精細で、しかも高速に画像処理を行うために3CCD方式の撮影方法を開発し、これまでの赤外線カラー暗視画像の撮影速度10フレーム/秒から30フレーム/秒と、標準的なテレビカメラと同じ撮影速度に高速化した。また、撮像素子をVGAクラス(画素数640×480)からフルハイビジョンクラス(画素数1920×1080)にして、ハイビジョンのカラー映像を撮影できる。
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図2 開発した赤外線ハイビジョンカラー暗視カメラ。上部の黒いブロックが赤外線投光器。 |
図1は、今回開発した赤外線ハイビジョンカラー暗視カメラを用いて、暗闇の中で赤外線照明だけを用いて撮影した映像である。今回開発した新方式でも、前回産総研で開発したカメラと同様に可視光照明下の物体の色をよく再現できている。なお、図3(a)に、前回開発したカメラにより撮影できる範囲を示した。今回開発したカメラにより、より広範囲の映像が得られることが分かる。さらに、図3(b)は図3(a)の一部を拡大した画像であり、図3(c)は図3(b)と同じ画像を前回開発したカメラの解像度に変換して示した画像である。このように、新たに開発した赤外線カラー暗視カメラにより、より高精細な映像を撮影できるようになった。
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図3 (a)前回開発したカメラによる撮影範囲を示した画像。 (b)その一部を拡大したもの。(c)前回開発したカメラの解像度に変換して示したもの。 |
これまでの産総研の赤外線カラー暗視カメラでは10フレーム/秒で撮影されているため、速く動く被写体に対しては、像の流れが起きてしまうことがあった。これに対して、今回開発したカメラでは標準的なテレビ放送と同様の30フレーム/秒で撮影できるため、より自然な動画映像を撮影できる。
今回開発したハイビジョン赤外線カラー暗視撮影技術により得られた映像は、従来の暗視カメラで得られるモノクロ画像と比較して、カラー化することによって情報量がはるかに多くなり、また撮影速度が30フレーム/秒に改善されているため、動きの激しい対象の映像にも対応できる。例えば、動物の行動を昼間から夜間にわたってハイビジョンカラー映像として撮影・記録することも可能である。また、この技術は色判別も可能な高精細防犯カメラ、視認性を高めた車載カメラ、医療・介護用の保安カメラなどへの幅広い応用も期待される。
今回開発した技術を民間企業へ技術移転し、撮影装置を高性能化・高耐久性化させたのち実用化する予定である。また、小型化をさらに進めて放送用カメラ以外への応用を展開していく予定である。この技術に興味をもった企業を求め、共同でさまざまな応用展開を図りたいと考えている。