独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)ナノチューブ応用研究センター【研究センター長 飯島 澄男】畠 賢治 首席研究員、スーパーグロースCNTチーム 桜井 俊介 主任研究員らは、最先端研究開発支援プログラム(FIRST)のプロジェクト「グリーン・ナノエレクトロニクスのコア技術開発」(中心研究者:横山 直樹)の一環で、半導体型単層カーボンナノチューブ(CNT)を選択的に成長させる技術を開発し、さらに半導体型単層CNTの選択率向上による薄膜トランジスタの特性向上を実証した。
半導体型CNTはその高い特性から次世代のトランジスタ材料として注目を集める一方、合成時に金属型のCNTが混ざってしまう問題がトランジスタの実現を妨げていた。今回、化学気相堆積(CVD)法によって単層CNT薄膜を合成する際に、合成前の金属触媒の状態を水蒸気によって調整することで、最大98 %の高い選択率で半導体型単層CNTを合成する技術を開発した。合成されたCNT薄膜をチャネル層として用いた電界効果トランジスタは、半導体型単層CNTの選択率が高くなると特性が向上し、これまでより短いチャネル長で高いオン・オフ比とオン電流、移動度を示した。今回開発した合成技術は、従来の合成後の分離技術と組み合わせることで半導体型単層CNTの選択率をさらに高められる可能性があり、単層CNTのトランジスタ応用への貢献が期待される。
なお、この技術の詳細は、2014年3月3日~5日に国立大学法人 東京大学(東京都文京区)で開催される第46回フラーレン・ナノチューブ・グラフェン総合シンポジウムで発表される。
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開発した半導体型単層CNTの選択的合成プロセス |
半導体型の単層CNTは、その高い移動度などから、大規模集積回路(LSI)を低消費電力化できる、新しい超低消費電力トランジスタの材料として期待を集めている。また、その高い柔軟性から、従来の半導体材料では達成できない、曲げ・伸縮・印刷による作製が可能な半導体デバイスの材料としても注目されている。しかし、単層CNTには炭素原子の並び方によって半導体的な性質を示すものと金属的な性質を示すものがある。半導体型単層CNTに金属型単層CNTが多く混入すると、CNT電界効果トランジスタは本来の特性を発揮できず、一般的な半導体のトランジスタより特性が劣り、用途も限られてしまう。金属型単層CNTと半導体型単層CNTの構造の違いはわずかであり、従来の単層CNT合成技術では半導体型CNTと金属型CNTの作り分けが極めて困難であった。また合成後に単層CNTの混合物を金属型と半導体型へ分離する技術も開発されている(2013年12月19日 産総研プレス発表)が、1 %程度の金属型CNTが残存してしまう点や分離プロセスに伴うコストなどの問題があった。
産総研は2004年に短時間で大量に単層CNTを合成できるスーパーグロース法を開発し、さらに、より高い性能を示すCNTを量産するため、構造の制御されたCNT合成技術開発を進めている。
平成22年度からは、内閣府と独立行政法人 日本学術振興会によって運営される最先端研究開発支援プログラム(FIRST)のプロジェクト「グリーン・ナノエレクトロニクスのコア技術開発」(中心研究者:横山 直樹)の助成により、半導体型CNTの選択的成長技術の研究開発とそのデバイス用途への検討を行ってきた。
CVD法は最も広範に用いられている単層CNTの合成法であり、加熱された炉内、還元雰囲気中で、基材に担持された金属触媒微粒子を調整し、これに炭化水素を供給してCNTを成長させる。今回は、成長するCNTの構造との関係が強い金属触媒微粒子の構造に着目し、これをCNTの成長前に炉内のガス雰囲気で調整する方法を考案した。すなわち、鉄触媒の微粒子に水分と水素の混合ガスを供給して触媒を調整し、混合ガス供給を停止した直後に原料である炭化水素ガスの供給を開始して単層CNT薄膜を合成する。図1に今回開発した半導体単層CNT選択的合成プロセスを示す。水分・水素量を最適化して、最大で98 %の高い選択率で半導体型単層CNTを合成できた。この選択率は、半導体CNT選択的合成技術の中で最高の値である(従来は97 %)。
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図1 開発した半導体CNT選択的合成プロセスの模式図 |
今回開発した手法により合成された単層CNT薄膜では、単層CNTのネットワーク構造が形成されている。このような薄膜をチャネル層として用いた電界効果トランジスタを試作した。従来のCNT合成技術によるCNT薄膜には金属型CNTが多く混ざっており、これを用いたトランジスタでは回路のショートを防ぐために100 µm程度のチャネル長が必要だったが、半導体型単層CNTを選択的に成長させたCNT薄膜を用いたトランジスタは5 µmという短いチャネル長でも、オン・オフ比10,000以上、移動度17 cm2/Vs、オン電流1.3 S/mと、従来技術によるCNT電界効果トランジスタを大きく上回る特性を示した(図2)。
この結果は、半導体型単層CNTの分離技術を組み合わせて半導体型単層CNT純度をさらに向上させれば、電界効果トランジスタ特性のさらなる向上が可能であることを示している。これらにより、単層CNTが酸化物半導体など従来の材料特性を上回ることは十分可能と見込まれ、従来にない柔軟性や集積度を持つフレキシブル電子デバイスやLSIの次世代材料への応用の実現が期待される。
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図2 作成した単層CNT電界効果トランジスタの伝導特性 |
左:ドレイン電流-ゲート電圧、右:オン電流-オン・オフ比プロットによる過去のCNT電界効果トランジスタとの特性比較。図2右は右上にくるほど優れたトランジスタであることを示している。 |
今後は、半導体型単層CNTの成長選択性を維持しながらより高収量・高密度に合成する技術開発を進める。将来的には塗布技術などと組み合わせて高集積フレキシブル回路の実現や、次世代LSI材料への応用を目指す。