独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)先進製造プロセス研究部門【研究部門長 三留 秀人】機能モジュール化研究グループ 淡野 正信 研究グループ長、鈴木 俊男 研究員らは、日本特殊陶業 株式会社(以下「日本特殊陶業」という)の協力のもと、450~550℃での低温作動が可能な小型チューブ型固体酸化物形燃料電池(SOFC)を利用したマイクロ燃料電池モジュールの開発に成功した。このモジュールはミリメートルからサブミリメートル径の小型チューブ型SOFCを利用したもので、550℃以下の低温領域でも2W/cm3の発電電力密度を持つ1cm3クラスのマイクロ燃料電池モジュールである。
SOFCは種々の燃料電池の中で最もエネルギー変換効率が高く、全て固体材料で構成できるため高い信頼性があり、取り扱いが容易で、炭化水素系燃料の使用も可能という優れた特長がある。しかし、これまでのSOFCは800~900℃の動作温度が必要なため大型・定置用電源といった分野での利用に限られており、低温作動が可能で小型・可搬型電源に利用できるSOFCの実現が強く望まれていた。
産総研はこれまで日本特殊陶業と共同でキューブ型マイクロSOFCを開発してきたが、超小型発電モジュールとしてのニーズにも対応できるようにモジュール構造やセラミック電極構造を最適化し、今回のマイクロ燃料電池モジュールの開発に成功した。このモジュールは、多孔質体の中に空気を送り込むための動力がほとんど不要で、自然拡散による空気供給が可能であるため、飛躍的なシステムの効率向上や小型化が可能である。この技術により、小型移動電子機器用の電源としての幅広い応用が期待できる。
本成果は、2009年2月18日~20日に東京ビックサイトで開催されるnano tech 2009、および2009年2月25日~27日に同じく東京ビックサイトで開催されるFC EXPO 2009にて発表予定である。
新開発のマイクロSOFCモジュール
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マイクロSOFCモジュールの性能試験結果
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燃料電池は燃料と酸素の化学反応から直接電気エネルギーを取り出すことができ、CO2を排出せず、しかも高いエネルギー変換効率を有することから、次世代のクリーンなエネルギー源として、実用化に向けた研究開発が活発に行われている。燃料電池は構成材料によって、固体高分子形(PEFC)、溶融炭酸塩形(MCFC)、リン酸形(PAFC)、固体酸化物形(SOFC)等に分類される。その中でPEFCは動作温度が100℃と低温であるため家庭用や自動車用の燃料電池として、実用化の段階にまで進んできている。
一方、SOFCは最も高い発電効率を有し、全て固体材料で構成できるため信頼性が高く、取り扱いが容易で、炭化水素系燃料の使用も可能という優れた特長をもっているものの、動作温度が800~900℃と高温であることから、従来その用途は大型発電設備などに限られていた。
しかし、エネルギー変換効率が高く、多様な燃料が利用可能であるという大きな利点があるため、家庭用分散電源、移動電子機器用電源、自動車補助電源(APU)等にも利用できるように、動作温度が500~700℃で、急速起動・停止運転が可能な高性能SOFCの実現が強く望まれていた。
電気化学的に物質やエネルギーを変換するセラミックリアクターは、SOFCを構成する最も重要な要素である。このセラミックリアクターのセルをマイクロ化し高集積化することによって、熱衝撃にも強い高性能なセラミックリアクターが実現できると考えられる。これをSOFCに適用することによって作動温度の低温化、急速起動運転が可能になるものと考え、動作温度が650℃以下においても高出力で熱衝撃にも強いSOFCを実用化させるための研究を行った。
動作温度を下げるために、これまでにもいくつかのセラミック電解質材料や電極材料が開発されてきており、動作温度も500~600℃にまで下がっていた。しかし、一般的なセル構造である平板型セルにおいては急速起動・停止運転の際の熱ひずみの問題が大きな障害となっており、抜本的な解決策が必要であった。
そこで産総研では、日本特殊陶業と共同でチューブ構造を有するマイクロSOFCおよび集積技術の開発を進め、これまでに急速起動運転ができるセルバンドルの作製に成功している(2007年3月29日 プレス発表)(図1)。
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図1 従来のキューブ型マイクロSOFC
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これらは主として数100W~kWクラスのシステムへの適用を目標として開発が進められてきたものであり、数W~数10Wクラスの小型燃料電池システムの構築に必要なマイクロSOFCモジュールに関しては、さらなる技術課題を解決する必要があった。この技術課題の中で、セルの高集積化は空気通路の確保、熱バランスとのトレードオフとなるため、その最適化が最も重要な課題となっていた。
なお、本研究は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構プロジェクト「セラミックリアクター開発」の一環として実施されている。
産総研は日本特殊陶業の協力のもと、セラミックリアクターとして機能するサブミリメートル径の高性能チューブ型SOFCを用いた低負荷型のマイクロSOFCモジュールの開発に成功した(図2)。これはマイクロSOFCバンドルの内部構造および配列を最適化することによって、空気供給動力の最小化および熱バランスの制御を容易にする構造としたもので、自然拡散による空気の供給によっても高い性能を発揮するモジュールとなっている。燃料はマニホールドからスタックに供給され、空気はモジュール面内を流れ、自然拡散によってスタック内に供給される。
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図2 新開発のマイクロSOFCモジュール
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使用したチューブ型マイクロセルは直径0.8mmのチューブ形状を有し、電解質材料にセリア系セラミックス、燃料側電極材料にニッケル-セリア系セラミックス、空気側電極材料にランタンコバルト-セリア系セラミックスを用いている。これらのマイクロチューブセルを、ランタンコバルト系セラミックスで作製した多孔質構造体の中に集積し、マイクロバンドルとした。図3は実際に作製した10x10x2mmのマイクロSOFCバンドル(直径0.8mmのマイクロチューブセルを5本集積)が3段直列に接続されたスタック(0.6 cm3)である。
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図3 マイクロSOFCスタック(0.6 cm3)
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このスタック構造体に燃料マニホールドを装着することでマイクロSOFCモジュールを構成した(図4)。
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図4 マイクロSOFCモジュールの外観
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このモジュールに450~550℃の水素を流し性能試験を行った結果、0.88~2.2W/cm3(450~550℃:スタック体積当り)の発電電力密度が得られた(図5)。
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図5 マイクロSOFCモジュールの性能試験結果
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このスタックの重量はわずか2g程度であり、重量あたりの発電電力出力についても、優れた性能を示した。本開発のマイクロSOFCモジュールを使用すれば、必要な電力に応じてモジュールを積層することにより、数十Wクラスまでのシステム構築が可能になると考えられるため、小型電子機器等の可搬型ポータブル電源への応用が期待できる。
今後は、今回開発したマイクロSOFCモジュールを用いて、さらなる集積化やモジュール構造の最適化について検討するとともに性能実証試験等を行い、耐衝撃性があり、急速起動・停止運転が可能な高出力・小型・高効率SOFCシステム(図6)の実現に向けた研究開発を推進していく予定である。
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図6 10Wクラスモジュールの概念図
(全体容積で20cm3程度)
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