独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)先進製造プロセス研究部門【部門長 神崎 修三】機能モジュール化研究グループ【研究グループ長 淡野 正信】の鈴木 俊男 研究員らは、500~600℃の低温作動が可能な小型チューブ式の固体酸化物型燃料電池(SOFC)の開発に成功した(図1、2を参照)。SOFCは高い温度で動作する電池にも関わらず全てを固体材料で実現できるため、信頼性が高く、取り扱いも容易という優れた特徴がある。しかし、これまでのSOFCは800~900℃の動作温度が必要なので適用分野が限られており、低い温度で動作可能なSOFCの実現が望まれていた。
産総研では、SOFCの電解質材料に低温での酸素イオン伝導度が高いセリア系イオン伝導体セラミックスを用い、これをミリ~サブミリ径のチューブ形状にすることで、燃料の反応効率が向上するとともに、耐ストレス性を向上させ、熱ひずみに弱いとされていたセリア系セラミックスの破損問題を解決した。更には、発電出力効率も従来のセリア系に比べ飛躍的に高めることに成功した。今後、この技術の完成により、家庭用分散電源、移動電子機器用電源や自動車等の補助電源等としての幅広い応用が見通せるようになった。
本成果は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」という)プロジェクト「セラミックリアクター開発」で得られたもので、2006年1月25日から開催の“FC EXPO2006”及び2006年7月に行われる「7th EUROPEAN SOFC FORUM</」で発表予定である。
図1 チューブ型マイクロSOFC
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図2 マイクロSOFCによる発電実証試験結果
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燃料電池は小型でも高い効率が実現できるため地球温暖化の原因の1つと言われるCO2の発生を大幅に削減できるので、固体高分子型(PEFC)、溶融炭酸塩型(MCFC)、リン酸型(PAFC)、固体酸化物型(SOFC)等、種々の方式が開発されている。PEFCは動作温度が100℃程度であり家庭用や自動車用の燃料電池として注目されているが、燃料電池の中で最も効率が高いのはSOFCである。SOFCは我が国が得意とするセラミックス技術を利用する燃料電池であるが、これまでのSOFCは動作温度が800~900℃と高温であり、大型発電設備への応用などに限られていた。そこでSOFCを家庭用分散電源、移動電子機器用電源、自動車等の補助電源等に応用できるように、動作温度が500~600℃のSOFCの実現が望まれていた。
電気化学的に物質やエネルギーを変換する高効率セラミックリアクターは、燃料電池に限らず、環境汚染物質の分解浄化フィルター等、多様な応用が可能な技術として期待されている。特に、セラミックリアクターを固体酸化物型燃料電池(SOFC)として使うと、燃料電池として最も高い効率を示すが、動作温度が800~900℃と高いため、応用は大型発電設備用に限られていた。しかし、SOFCの高効率な特性を有効に生かすには、家庭用分散電源や移動電子機器用電源、自動車等の補助電源等の分野で実用化が不可欠とされている。これを受けて、産総研はNEDOプロジェクト「セラミックリアクター開発」(平成17~21年度)の一環として、動作温度が500~600℃で、高出力で熱歪にも強いSOFCを実用化させる研究を行ってきた。
動作温度を下げるためには、これまでにもセリア系セラミックスやランタンガレート等のセラミック電解質材料が開発され、動作温度も500~600℃に下がっていた。しかし、動作温度を下げても頻繁に起動・停止が必要な機器には、依然、熱歪問題は大きな障害で有り抜本的な解決策が必要であった。
そこで、産総研では、ミクロなチューブ構造のセルを開発し、セルにかかる熱歪を抜本的に小さくする方法の検討を行ってきた。
産総研は、セラミックリアクターとして機能するミリ~サブミリオーダー径の高性能チューブ型マイクロSOFCの開発に成功した(図1参照)。これはSOFCを超小型化することにより、熱ひずみの問題を解決したものである。動作温度を500~600℃に下げることが可能なセリア系セラミックスは機械的強度に脆く微細に加工することは、従来、不可能とされていた。今回、燃料側電極材料にニッケル-セリア系セラミックスを、空気側電極材料にランタンコバルト-セリア系セラミックスを用い、微細構造制御を可能とするマイクロチューブ製造技術及び緻密膜コーティング技術を発展・高度化することで、セリア系セラミック電解質の微細加工を実現すると同時に、燃料の反応効率を大幅に向上させる電極構造の最適化に成功した。
実際に作製したマイクロSOFCは、長さ1cm程度、直径が0.8~1.6mmのマイクロチューブ構造体であり、例えば、1.6mm径のマイクロチューブに450~570℃で水素を流通した結果、0.17~1W/cm2(450~570℃)の電力が得られた(図2参照)。この値は、これまでのセリア系セラミックSOFCの単位電極面積あたりの燃料電池特性として世界最高レベルであった。
本開発のマイクロSOFCは、例えば0.8mm径の場合では1cm3当たり約100本のマイクロSOFCが集積可能であり、これらの発電性能として1cm3当たり7W(500℃作動時)、15W(同550℃時)の特性が期待できることから、SOFCの家庭用分散電源や移動電子機器用電源、自動車補助電源等への応用に向けて道を拓くものと考えられる。
今後は得られたチューブ型マイクロSOFCの集積化について検討を行い、多数のマイクロチューブを正確に並べた立方体ユニット(キューブ)の作成や、各チューブへの燃料ガス供給や電力回収を行う接続部分(インターフェース)の精密作製技術を確立し、最終的には、耐衝撃性、急速運転に対応した小型高効率のスタックモジュールの製造技術開発を検討していく (図3参照)。
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図3 今後の展開
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