独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)ナノカーボン研究センター【センター長 飯島 澄男】と日機装株式会社 【代表取締役社長 甲斐 敏彦】(以下「日機装」という)は、共同研究によってそれぞれの有する単層カーボンナノチューブ(SWCNT)合成に関する要素技術を融合させて、SWCNTの量産プラント開発に成功した。この量産プラントは2006年に産総研が開発したSWCNTの合成法である改良直噴熱分解合成法を基にして、日機装が独自の量産化技術を組み合わせることによって従来の約30倍のスケールアップを実現したもので、量産化によって高品質、高純度のSWCNTが安価に入手可能になる。日機装では2007年3月から量産SWCNTのサンプル配布を開始する予定であり、これを起爆剤にして産総研・日機装と電気・機械・機能素材メーカー等との新たな共同開発が連鎖的に立ち上がればSWCNTの産業応用開発のスピードを大幅に速めることができ、SWCNTを利用したナノテク技術や省エネ技術の開発に道を拓くと期待される。
この成果の一部は2007年2月13日~15日に開催される第32回フラーレン・ナノチューブ総合シンポジウムで発表する。
カーボンナノチューブ(CNT)は、図2のように構造によって多層(MWCNT)と単層(SWCNT)の2種類に分かれ、その優れた物理特性から広い分野の応用が期待されており、ナノテクノロジーの最も有望なキーマテリアルのひとつとして多くの研究が世界的に行われてきた。これらのうちMWCNTに関しては、日機装は気相流動法の開発に成功し、量産化を行っている。しかしながら、SWCNTに関しては量産化が遅れており、品質のバラツキが多く見られたり、不純物が多く見られたり、多くの欠陥を持っていたりとさまざまな問題があり、このような状況が実用化研究の阻害要因であった。また、CNTは精製する際に多くの欠陥ができてしまうため、高純度高結晶性の再現性の高いCNTの提供が必要であると認識されてきた。特にSWCNTは半導体特性や光の過飽和吸収など光学特性において他材料にない特性を持つことから、応用研究に対する高純度のSWCNT提供が世界的に求められてきたが、これまで高品質のSWCNTの量産化がネックとなっていた。
産総研と日機装は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」という)の「ナノカーボン応用製品創製プロジェクト」(平成14年~平成18年)において、日機装の要素技術である気相流動法をベースにSWCNTの量産技術に取り組んできた。このNEDOプロジェクトの中で産総研は従来の気相流動法を進化させた改良直噴熱分解合成法を考案し、小規模の装置で精製が不要となるほどの高純度SWCNTができることを確認し、2006年の5月に発表した。また、日機装は同じくNEDOプロジェクトにおいて、自社の従来法によるSWCNTの量産を目指して大型反応炉を建設したが、本格的な量産化は実現することができず、今後の課題として残されていた。
産総研と日機装は2006年6月から、上記の産総研が開発した改良直噴熱分解合成法について日機装の静岡製作所内の大型反応炉(図3)を用いてSWCNTの量産に関する共同研究を行い、この度、大型装置でも実験室規模と同様な高純度SWCNTが高効率で生産できることを確認した。
本共同研究は産総研と民間企業との連携・共同研究開発によって、産総研発の最先端技術を社会に還元する方法を模索するためのモデルケースとしても重要である。
このたび産総研と日機装は共同研究によって、産総研発のSWCNT合成技術である改良直噴熱分解合成法を基礎として日機装のプラント開発力やスケールアップ技術を組み合わせて、従来の約30倍のスケールアップを実現したSWCNT量産プラントを開発した。今後、量産化によって高純度、高品質のSWCNTが安価に入手可能になる。
量産SWCNTの特徴は以下の通り。
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高品質。ラマン分析によって得られる評価基準であるG/D比が200以上(従来品:100以下)であることから、アモルファスカーボンや欠陥も少なく、結晶性が高いことがわかる。
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高純度。従来の気相流動法では熱重量測定で不純物が20%程度であったものが、改良直噴熱分解合成法では5%以下となった。
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直径のバラツキが少ない。
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再現性が高い、など。
従って本技術開発によって得られる量産SWCNTは、工業製品として重要な、品質が高く、再現性があり、バラツキが少ないという基本的な条件を満たす製法である事が確認された。さらに触媒やアモルファスカーボンも少なく、精製がほとんど不要であることも分かった。また原料の炭素源がSWCNTに変換される合成炭素収率は従来法(1%以下)を大きく上回る10%を超える収率となった。
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図5 熱重量分析結果
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図6 ラマン分析結果
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産総研並びに日機装は、今後さらにコストを引き下げるために、より高効率、高生産性の合成技術開発を目指し研究を続けるとともに、工業的な利用を促進するために、CNTが持つ表面の超疎水性を表面修飾することで他の材料と結合しやすい材料としたり、バンドル(束状)を解す界面制御の研究を進める。
この成功を基に日機装は2007年3月より 高品質・高純度SWCNTのサンプル提供を開始する予定であり、用途開発や周辺技術開発を希望する多くの企業、研究機関と共同でSWCNT応用製品の開発を早めることが出来ると期待される。