独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)光技術研究部門【部門長 渡辺 正信】平賀 隆 主任研究員は、大日精化工業 株式会社【取締役社長 高橋 靖】、株式会社 トリマティス【代表取締役 島田 雄史】、株式会社 スペースクリエイション【代表取締役 青木 邦章】、株式会社 インターエナジー【代表取締役社長 益田 康雄】、日星電気 株式会社【代表取締役社長 河野 勝男】と共同で、病院や放送局などで必要とされる大容量画像データの伝送に最適な「大容量高速データ配信システム」を開発した。
現行のパケット方式通信(イーサネット)は汎用性に優れてはいるが、大容量画像データを扱う通信では待ち時間が多く遅くなってしまう。
本システムは、光制御型光スイッチと「光-電子/電子-光」変換を行うトランシーバーを組合せている。これにより、端末PCハードディスクのデータ伝送速度である1.5Gbpsの高速性を最大限に生かせる光通信を可能とし、使用感も中央のデータサーバーがあたかも自身の端末PCに接続されているかのようである(図1参照)。
本システムは、1月17日-19日に開催されるエレクトロテストジャパン、および1月24日-26日に開催される第7回ファイバーオプティクスEXPO(いずれも、東京ビッグサイト)にて実際に作動させ展示を行う。
|
図1 本システムの構成
|
医療機関や放送局などにおける画像データの活用はめざましい。特に、医療機関においては、MRIやX線CTで大量の断層写真を撮影し、端末機器を使用した3次元画像表示やその回転表示により、患部の詳細な検討や患者への説明に活用される。各種の検査装置により撮影された画像データはデータサーバーに保存され、臨床医による解析や、診療室での説明に用いられている。このように、大容量画像データがネットワーク経由で伝送されるようになり、使用に際してストレスを感じさせない高速・大容量ネットワークへの要望が高まっている。そのために、基幹線で用いられている方式と同様のパケット通信方式が導入されているが、装置価格が高い、消費電力が大きいなど、コスト的な負担も多く、大規模病院を除き導入は進んでいない。
産総研と大日精化工業株式会社は、2003年2月有機薄膜光学素子が制御光を選択吸収することによって薄膜素子内で起こるマイクロ熱レンズ効果(微小円錐レンズが形成される)と穴開きミラーを利用する光制御型光スイッチを開発した。
2004年7月には装置サイズを「手のひらサイズ」に小型化した。また、現在のデジタル信号光として光通信で用いられている波長帯1.31µm帯及び1.55µm帯での動作を可能とした。これにより家庭内や事務所、病院などの構内ネットワークにおける新しい通信システム構築の可能性を示した。
今回、光制御型光スイッチ(図2、3参照)を複数個組み合せて光ファイバー網を構築することにより、大容量データを伝送する光ネットワークを開発した。電子部品を用いないために、電磁ノイズの発生を嫌う病院内、周囲の電磁ノイズにより電子機器が障害をうけるような工場、高レベル放射線を扱う施設における光ネットワークとして期待されている。
図2 光制御型光スイッチ外観
|
|
図3 光制御型光スイッチ内部
|
今回開発した「大容量高速データ光配信システム」は、現行のシリアルATA(eSATA)ハードディスクのデータ伝送速度である1.5Gbpsの高速性を最大限に活用するために、データサーバー(eSATA HDD)の出口で、電子→光変換を行い、光信号(1.31µm帯及び1.55µm帯)のまま各端末PCに配信する。いずれかの端末PCが、イーサネットを経由して、自身の端末PCに接続すべき旨の接続指令を送出(検出)すると、自身に接続されている光スイッチには、端末PCから制御光(波長0.98µm)が照射され、光配信ネットワークのスイッチ切替えが行われる。これによって、その端末PCにデータサーバーからの送信データが格納される。データサーバーと端末PCとの間で光ファイバー線路だけでデータ通信を行うので、高速に送受信できる。各端末PCから見ると、データサーバーはあたかも自身の端末PCに接続されているかのように使える。
|
図4.今回開発した、医療機関などの構内データ光配信用の大容量高速データ配信システム
|
現在広く基幹線で用いられている通信方式はイーサネット(パケット方式通信)であり、市内の公衆電話回線網もIP電話(パケット方式通信)に替りつつある。通話やパソコン通信などのように接続時間が長い割にデータ伝送量が少なく、かつ遠距離間で通信を行う場合にはパケット方式通信が有利である。
これに対して、画像などの大容量データを短時間で伝送する必要がある構内通信の場合には、専用回線を用いた回線交換方式が有利となる。例えば、本システムでCD1枚相当のデータ(約650MByte)を伝送するのに要する時間は数秒である。これに対して、最良の回線状態で100Mbpsのイーサネットでは1分程度、1Gbpsのイーサネット(ギガイーサネット)でも30秒程度の時間がかかる。共用回線を用いたパケット方式通信の場合、回線の混雑状況により通信速度は大きく変わる。複数のユーザーが同時に大容量データをイーサネットで伝送すると他のユーザーの通信速度も非常に遅くなる(輻輳現象)、輻輳現象を防ぐには帯域制御など複雑な仕組みが必要となる、などの欠点を有している。本システムでは、特定ユーザーが数秒間通信回線を占有する(即ち、「話し中」となる)が、終了後直ぐに開放されるので輻輳現象なしに他のユーザーが使用可能となる。
本システムによる通信インフラを活用した大容量高速データ光配信は、構内データ伝送システムに最適であり、患者情報漏洩の危険性が低いことから、中規模病院などへの普及が期待される。
なお、本研究開発は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)の独創的シーズ展開事業(権利化試験;平成17~18年度)による支援を受けて行ったものである。
現在、千葉県の中規模病院で実証実験中であり、また放送局などでの実証実験も計画中である。これらを基に、2~3年後の実用化を目指している。