NEDO技術開発機構、産総研および日本ロボット工業会は、NEDO技術開発機構プロジェクト「ロボットの開発基盤となるソフトウエア上の基盤整備」の成果であるロボット用ミドルウエア(RTミドルウエア)をベースにしてロボット技術の国際標準化活動を進めてきました。RTミドルウエアとはロボットシステムの機能要素(センサ、サーボ、モータ等)の通信インターフェースを標準化して、ユーザの幅広いニーズに合わせた新しいロボットシステムを容易に構築するための基盤技術です。このたび、米国アナハイムで開催されたソフトウエア技術の国際標準化団体OMGの技術会議において、日本の提案をベースとして米国の協力を得て策定してきた国際標準仕様原案が採択されました。これは、わが国のロボット技術の国際標準化活動の第一歩とも言うべき大きな成果であります。これにより、将来、ロボット技術の標準化が進むことで膨大な費用が必要であったロボット開発のコストが削減され、日常生活で使われる多種多様なロボットが手の届く価格で商品化されることが期待されます。
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構【理事長 牧野 力】(以下「NEDO技術開発機構」という)、独立行政法人産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)および社団法人日本ロボット工業会【会長 井村 健輔】(以下「日本ロボット工業会」という)は、NEDO技術開発機構標準化推進事業「ロボットオープン化のためのRTミドルウエア技術の標準化研究」(2005年度~2007年度)において、多種多様なロボット技術の統合を図るRTミドルウエア技術の普及を目指して、日本ロボット工業会に設置したRTミドルウエア国際標準化調査専門委員会【委員長 水川 真(芝浦工業大学 教授)】にて日本主導での戦略的な標準化推進戦略を議論しつつ、ソフトウエア技術に関する非営利国際標準化団体OMGに加盟してロボット技術の国際標準化活動を進めてきました。
芝浦工業大学【学長 平田 賢】の 水川 真 教授と産総研知能システム研究部門【部門長 平井 成興】の 神徳 徹雄 主任研究員のリーダシップのもとに、米国や韓国のOMG加盟組織と協力してOMGの中にロボット技術の標準化を検討するグループを設立するとともに、定期的に開催されるOMG技術会議に専門家を派遣して、ロボット用ソフトウエアのモジュール化に関する標準仕様案の策定を進めてきました。
このたび、2006年9月25日から29日にかけて米国・アナハイムで開催されたOMG技術会議において、日米協力で策定したロボット用ソフトウエアのモジュール化に関する国際標準仕様(原案)がOMG標準仕様案として採択されました。この仕様案は今後約一年間かけて文書化作業が進められ、2007年の秋にはOMGのホームページで正式な標準仕様文書として公開される予定です。OMGの標準仕様は、誰でも無料で参照でき、仕様に準拠したソフトウエアを自由に開発して販売することができます。
今回採択された標準仕様に準拠したソフトウエア開発することで、インターフェース仕様の枠組みが統一され、ロボット用モジュールとしての相互運用性が高まり、将来的には異なるベンダが開発したモジュールを組み合わせてロボットシステムを構築できるようになることが期待されます。今後、この枠組みの上に、音声認識モジュール、画像認識モジュール、ロボットの位置認識モジュールなどの様々な機能を持つモジュールの標準インターフェース仕様の策定が進められて行く予定です。
我が国のロボット産業は、自動車産業、電機産業等の製造業を中心に、工場における産業用ロボットが普及することにより拡大発展してきました。今日、我が国は世界の産業用ロボットの大半を生産する「ロボット大国」であり、国際的にもトップレベルのロボット技術を蓄積しています。
一方、少子高齢化の進展による労働力不足や要介護者の増加といった課題が顕在化する中、解決の手段として、病院、福祉施設、家庭などの製造現場以外で活用される生活支援ロボットを開発、実用化することが期待されています。しかしながら、現時点では、これらロボットの開発は本格化しているとは言い難い状態にあります。
その要因としては、個々のロボット毎に信頼性、安全性、操作性、快適性の向上などの技術課題に対して様々な取り組みが行われてはいるものの、各々のロボットの構成要素とソフトウエアの開発が個別開発になっているため、現段階ではこれらの取り組みの成果を相互に共用することが難しく、ロボット開発が非常に非効率なものとなっていることがあげられます。
2001年5月に日本ロボット工業会が取りまとめた「21世紀におけるロボット社会創造のための技術戦略調査報告書」では、このような問題を解消し、製造現場以外で活用される多種多様なロボットの実用化、製品化を進めていく手法として、アクチュエータ、センサ、制御プログラム等といった様々なロボットの構成要素をモジュール化し、これらを統合することでロボットの構築を可能とするロボット構築手法を基盤技術として位置付け、この技術をベースとして分業体制を導入してロボット産業のビジネスモデルを変革させることで新産業を創出する施策が提言されました。
この提言を背景に、2002年度から3ケ年計画でNEDO技術開発機構プロジェクト「ロボットの開発基盤となるソフトウエア上の基盤整備」(以下「RTミドルウエアプロジェクト」という)【プロジェクトリーダー 谷江 和雄 (首都大学東京 教授)】が実施されました。このプロジェクトでは、様々なロボットのコンポーネントを分散オブジェクトモジュール化し、ネットワークを介してこれらの統合を可能とするソフトウエア上の技術基盤の構築を行いました。これにより、ロボット要素モジュールを統合する新たなロボット開発手法、およびロボット技術の共有化による効率的な開発が可能となる共通基盤技術としてRTミドルウエアのコンセプトを検証することが出来ました。今後はこの成果を活用して、中小・ベンチャー、異業種を含む多様な企業、研究開発機関等におけるロボット開発を活性化し、製造現場以外におけるロボットの活用の拡大につながることが期待されます。
一方、海外においても、米国で一般向けロボティクス・イベントのRoboNexusが毎年定期的に開催され、また、韓国でもロボット技術の標準化を国策として推進する体制が構築され、中国でも近々ロボット技術の標準化に関するワークショップが開催されるなど、ロボット技術に関する関心が世界的にも高まってきています。開発者ごとに独自のルールでロボットの設計が行われている現状では、開発された技術を組み合わせた効率的なシステム構築が難しいことから、ロボット技術の統合を図るためにロボット開発用ミドルウエアの世界的な標準化が期待されており、国際的な協力関係を構築しつつも、戦略的な標準化推進が求められています。
【研究開発】
RTミドルウエアプロジェクトでは、ユーザの多様なニーズに応えられるロボットシステムの実現を目指して、様々なロボット構成要素に分散オブジェクト技術を適用してソフトウェアレベルでモジュール化し、システム設計者となるインテグレータがユーザの要求に応えるロボットやシステムを、モジュール化された機能部品を組み合わせることによって比較的容易に構築することを可能とする技術開発の研究を実施してきました。ユーザの幅広いニーズに合わせた新しいロボットシステムを容易に構築するためのソフトウエア基盤技術として、ロボットシステムの機能要素をモジュール化するRT(Robot Technology)ミドルウエアを研究開発しました。RTミドルウェアプロトタイプとしてOpenRTM-aist-0.2.0を研究開発して評価協力者に無償配布してプロジェクト成果の普及を図るとともに技術的なフォードバックをいただいてきました。現在、OpenRTM-aist-0.2.0は企業・研究機関・大学からプログラム使用同意書を提出いただいた100名近いユーザがおり、ユーザの手による様々なデバイスのコンポーネント化などが進められ、既にいくつかの導入例が学会発表されています。
プロジェクトではRTミドルウエアのコンセプトを検証するために、実時間制御が求められるロボットアーム制御システムや、将来有望なアプリケーション例として生活を支援するロボットシステム(RTスペース)という2つのプロトタイプシステムを開発して、開発されたRTミドルウエアの効果を確認してきました。
(産総研プレス発表:「オープンなロボットアーキテクチャを実現するRTミドルウエアを開発-新たな生活支援ロボット産業創出を目指して-」2005年2月24日参照)
【国際標準化】
ロボット産業のビジネスモデルを変えるRTミドルウエアのコンセプトを実現するためには技術を普及させる標準化が不可欠との判断から、RTミドルウエアプロジェクトでは研究開発と並行して国際標準化を開始いたしました。日本ロボット工業会に設置したRTミドルウエア普及調査研究専門委員会内に標準化ワーキンググループ【主査 水川 真(芝浦工業大学教授)】を組織し、2004年4月にセントルイスで開催されたOMG技術会議にオブザーバ参加して、標準化プロセスに関する調査を実施したところから始まりました。
OMGの標準化へのプロセスはISOやIECのように提出された標準化案を審議するのとは異なり、ある技術に興味を持つ団体、メンバ間での議論を通して次第に共通認識を作りだし、それぞれのアイディアを生かした合意ベースの標準化案を作り出して標準化が進められております。このコンソーシアム標準方式は技術の効用への理解者を増やしつつ、それをできるだけ早く標準に持って行く場合に適していると考えて、OMGに日本の主要メンバが正式加盟して、本格的な国際標準化活動を開始いたしました。
RTミドルウエアプロジェクト終了後の2005年度からは、NEDO技術開発機構標準化推進事業「ロボットオープン化のためのRTミドルウエア技術の標準化研究」において、定期的に開催されるOMG技術会議に専門家を派遣して標準化活動を継続してきました。厳密に定められたOMGの標準化プロセスに従って、標準仕様公募(Request for Proposal)を取りまとめて2005年9月のアトランタ技術会議にて発行し、その公募に対して産総研と米国のソフトウェアベンダーであるReal-Time Innovations社の2組織が標準仕様の一次提案を行いました。その後、提案者同士が合意形成のための議論をつづけて、統一標準仕様案をまとめて2006年6月のボストン会議に提出し、技術的な審査を受けて仕様案の修正を行い、2006年9月のアナハイム会議において修正した統一標準提案が採択されました。
関係諸氏のご協力をいただいて順調に進展してきたロボット技術のコンポーネント化に関する標準化活動の約2年半の主要な活動経過は以下の通りです。
-
2004年4月 セントルイス会議:標準化プロセス調査開始
-
2004年8月 モントリオール会議:フォーラムを開催してロボット技術に関心を持つOMG組織を調査
-
2004年11月 ワシントン会議:OMGに加盟して、標準化活動を開始する。
-
2005年2月 バーリンゲーム会議:フォーラムを開催し、ロボット技術グループ(Robotics-DSIG)を設立
-
2005年4月 アテネ会議:ロボット技術のコンポーネント化に関する標準仕様提案公募(RFP)の審議
-
2005年9月 アトランタ会議:ロボット技術のコンポーネント化に関する標準仕様提案公募(RFP)発行
-
2005年12月 バーリンゲーム会議:ロボット技術部会(Robotics-DTF)への昇格承認
-
2006年2月 タンパ会議:応募された2組織の一次提案のプレゼンテーション
-
2006年6月 ボストン会議:合意形成された統一標準提案の審議
-
2006年9月 アナハイム会議:統一標準仕様提案の採択
プロジェクト終了後も産総研が開発したRTミドルウエアのメンテナンスは続けられており、2006年11月15日の産総研知能システム研究部門研究成果展示会(つくば)に合わせて、今回採択された標準仕様に準拠させつつ機能拡張したRTミドルウエアOpenRTM-aist-0.4.0(β版)を評価協力者にリリース予定です。
今回採択された標準仕様に準拠したソフトウエア開発することで、インターフェース仕様の枠組みが統一され、ロボット用モジュールとしての相互運用性が高まり、将来的には異なるベンダが開発したモジュールを組み合わせてロボットシステムを構築できるようになることが期待されます。今後、この枠組みの上に、音声認識モジュール、画像認識モジュール、ロボットの位置認識モジュールなどの各応用分野の様々な機能を持つモジュールの標準インターフェース仕様の策定が進められ、今後、OMGに設立したロボット技術部会(Robotics-DTF)において、ロボット技術に求められる国際標準仕様として具体的な標準仕様の議論が本格化していく予定です。
このRTミドルウエア技術は、科学技術振興調整費プロジェクト「分散コンポーネント型ロボットシミュレータ」、科学技術振興調整費プロジェクト「環境と作業構造のユニバーサルデザイン」、NEDO技術開発機構プロジェクト「次世代ロボット共通基盤技術」などの多くのプロジェクトに導入され、プロジェクト成果をRTミドルウエアのRTコンポーネントとして提供することで手軽に使えるRTコンポーネント群の充実を図るとともに、各応用分野の標準仕様案が策定される予定です。これらのプロジェクト参加企業を初めとして、国際標準化活動への参加企業が益々増えていくことが期待されます。