独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)活断層研究センター【研究センター長 杉山 雄一】は、学校法人鶴学園 広島工業大学【学長 茂里 一紘】(以下「広島工業大学」という)、国立大学法人 京都大学【総長 尾池 和夫】【以下「京都大学」という)およびパキスタン地質調査所等と共同で、2005年10月8日にパキスタン北部で発生した地震(マグニチュード7.6)地域の現地調査を実施し、長さ約65km、最大変位量5.5m(上下成分)に及ぶ地震断層の全容をはじめて確認した。
産総研は、活断層・地震に関する研究の一環として、日本国内だけでなく、海外で発生した大地震についても緊急調査を実施している。近年では、2004年スマトラ沖地震津波、2003年イランのバム地震の緊急調査を実施した。また、旧通商産業省 工業技術院 地質調査所では、1999年トルコのイズミット地震および1999年台湾の集集(Chi-Chi)地震の緊急調査を実施した。
産総研は、2006年1月18-19日にイスラマバードにてパキスタン地質調査所が主催した国際会議「2005年10月8日パキスタン地震に関する国際会議-その意義と災害軽減」に職員4名および産学官制度来所者2名(広島工業大学、京都大学から各1名)を派遣するとともに、そのうちの4名が、パキスタン地質調査所およびオレゴン州立大と共同で、同地震に伴う地震断層について、1月20-22日および1月24-28日に延べ8日間の現地調査を実施した。
調査の結果、長さ約65kmにわたって地震断層が地表に出現したことを確認し(図1)、同地震の地震断層の全容をはじめて明らかにした。
このうち、北西部から中部にかけての主要部の約50km区間は逆断層成分が卓越する変位量の大きな地震断層で、上下成分で最大5.5m(北東側隆起)、水平成分を含めると最大約9mの変位が計測できた。また、いくつかの調査地点では、わずかな右横ずれ成分も認められた。なお、この主要部では、北西部と中央部の間で断層線の屈曲を伴う不連続が認められた。
南東部では、地震断層の連続性は不明瞭であるが、山間部の2カ所において数10cm以下のわずかな右横ずれ変位を伴う地震断層が発見できた。
以上の地震断層の分布から、この地震では、北西部と中部のそれぞれ長さ約20-30kmの断層が大きな変位を伴って破壊し、また南東部でもやや小規模な変位を伴う断層の破壊があったことが推定できる。
地震断層の主要部は、既に報告されていた既存の活断層(Nakata他、1991;中田・熊原、2005,2006)に沿って出現していた。また、地震断層の分布と変位量は、人工衛星による観測データの解析結果から推定された地震に伴う地殻変動の分布と規模、および地震波形から解析された震源過程とも、おおむね一致した。
地震による被害がとくに甚大であったBalakot(バラコット)の市街地やMuzaffarabad(ムザファラバード)北方の集落は、いずれも地震断層の直上あるいは極めて近接した地域に立地している。また、地震断層付近では周辺と比べて家屋の倒壊率が高くなる傾向が認められた。これらは、断層変位による地盤の変形が被害を大きくしたほか、断層の近傍で揺れが大きかったことを示唆する。
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図1 現地調査で確認された2005年パキスタン地震の地震断層
赤丸が調査地点.数字は上下変位量.
活断層(赤線)の分布は、中田・熊原(2006)に基づく。
地形陰影図の作成には、ASTER衛星画像によるDEMを使用。
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図2 Muzaffarabadの南東方約5km(図1の地点3)で計測された現河床の上下変位5.5m.
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写真
A:Balakot市街地の地震断層.手前の畑が撓曲変形.上下成分2.6~2.8m.(図1の地点1)
B:Muzaffarabad北方の地震断層.上下成分4.0m以上.(図1の地点2)
C:最大の上下変位量を計測した河床の変位.上下成分5.5m.(図1の地点3)
D:地震断層主要部の南東端付近で見られた河川敷の変位.上下成分2.0m.(図1の地点4)
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地震断層の全容が明らかになったことを受けて、3月に地震断層の主要部の約50km区間について、広島工業大学、京都大学、パキスタン地質調査所と共同で、全区間を実施踏査することにより、地震断層の詳細を解明する予定である。