横河電機株式会社(本社:東京都武蔵野市 代表取締役社長:内田 勲)は、このほど独立行政法人産業技術総合研究所(本部:東京都千代田区 理事長:吉川 弘之 以下「産総研」)と共同で、産総研にある時間周波数国家標準と横河電機(蘇州)有限公司の所有する社内標準器との間で遠隔校正の実証実験を行い、成功しました。日本国外から日本の国家標準との遠隔校正を行ったのは、初めての事例です。
横河電機(蘇州)で生産する記録計、流量計は、時間周波数が精度の基準となります。日本向けの製品には、日本の時間周波数国家標準とのトレーサビリティが要求されるため、製品を校正する測定器の基準となる横河電機(蘇州)の社内標準器は、定期的に日本の国家標準と比較校正しなければなりません。
しかし、標準器を校正するには、標準器の長距離輸送、煩雑な通関や支払い手続きなどにより、長い期間(3カ月程度)と多くの労力が必要になります。標準器の数が増えるにしたがって、校正のための労力が増加し、専任の担当者が必要とされるようになりました。
この問題を解決するため、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託で産総研が開発した遠隔校正(e-trace)技術を利用しました。ユビキタス(いつでも、どこでも、だれでも)で安価という特長を備えた遠隔校正技術は、課題解決方法として最適ですが、海外からの国家標準受給は例がないため、実証実験を行いました。
中国江蘇省蘇州にある横河電機(蘇州)とつくばの産総研との間で、GPSを利用した時間周波数の遠隔校正実証実験を行いました。この実験は、産総研計測標準研究部門時間周波数科周波数システム研究室と横河電機技術開発本部計測標準センターとの共同研究として行われました。
遠隔校正の原理は、つくばにある国家標準とGPSの時刻差、横河電機(蘇州)の社内標準器と前述GPSと同じGPSの時刻差を測り、この二つの時刻の差から双方の周波数の差を求める、というものです。
実験は成功し、つくばに設置された国家標準によって横河電機(蘇州)の社内標準器を蘇州に設置したままの状態で校正できることを証明しました。この結果、今後は時間周波数については、横河電機(蘇州)の社内標準器を移動することなく、日本の国家標準に合わせることができるようになります。産総研との間で依頼試験契約を締結することで、今後は月に1度の頻度で校正証明書が発行されるようになります。
横河電機にとって、課題であった標準器の長距離輸送、煩雑な通関や支払い手続き、長い社内標準器不在期間がすべて解決されることになります。また従来1年程度だった校正間隔が1カ月となったことで標準器の精度も上がり、製品品質や業務効率の向上、製品の原価低減が実現できます。
横河電機では、今後、中国へ進出した日系企業への校正サービス提供のため、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の協力を得て、国際規格ISO17025によるe-traceの校正事業者資格取得を目指します。また、温度、流量など遠隔校正による計測標準の種類の拡大も図っていきます。
産総研では、今回の遠隔校正実証実験の成功は、日本国内のみならず、海外に出ている日本企業への計測標準供給をe-trace方式で出来る事を実証した点で画期的であると考えています。これからは、時間・周波数のみならず他の標準量にもe-trace方式を拡大し、産業インフラとして世界最高レベルの標準供給整備を図って行きます。