独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)計測標準研究部門【部門長 小野 晃】は、産総研が開発した「タンデム型低コヒーレンス干渉計」を利用した測定法を用いて、長さ10mの単一モード光ファイバーを通しての遠隔精密長さ計測に成功し、長さ標準器(ブロックゲージ等)の遠隔校正の可能性を示した。
従来、長さ標準器の校正のためには、器物そのものを標準研究所や校正機関(以下「標準研等」という)に送らなければならないが、送付の際に紛失や破損の可能性があり、また、往復に要する時間もかかる。今回、開発した計測技術を用いれば、器物はユーザーの測定室に設置したままで、標準研等から光ファイバーを通して送られてくる光で器物を照明し、反射光を検出器で検出するだけで国家標準にトレーサブルな長さの値が得られることになる。
今後、本測定技術の不確かさをさらに向上させ、同時に開発している光通信帯域での「波長安定化光源」と組み合わせた上で、外部機関との遠隔校正実証実験を行う予定である。
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遠隔校正装置の一例
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現在、長さ標準は、計量法トレーサビリティ制度(JCSS)において、国家標準である「よう素安定化He-Neレーザ」を頂点とする「実用安定化レーザ」や「光波干渉測長計」と、人工物標準である「端度器」や「線度器」等によって供給されている。特に、端度器の1つである「ブロックゲージ」は、実用長さ標準として一番多く利用されている標準器である。これら人工物標準器の校正のためには、標準器であるブロックゲージそのものを、産総研や認定事業者(21社)とユーザとの間で運送しなければならないが、送付の際に紛失や破損の可能性があり、また、往復に要する時間もかかる。現在、我が国ではブロックゲージの校正が年間十数万本も行われていることを考えると改善すべき課題である。さらに、長さの計測においては、数え切れない件数が実行されており、現在の社会通念になりつつある、「速く」「安く」「正確に」の方向とはかけ離れていた。
平成13年度より、産総研を中心とした、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)【理事長 牧野 力】からの委託研究『 計量器校正情報システムの研究開発(e-traceプロジェクト) 』が発足した【平成13-17年度】。このプロジェクトの中では、多くの計量標準の中から8つの分野を例として選定し、新しい概念のトレーサビリィ制度の構築を目標とした。この8分野は大きく分けて4つに分類される。「1.光ファイバー利用」「2.電波周波数利用」「3.インターネット利用」「4.標準器の可搬型化(コンパクト化、耐振動)」である。電波周波数利用は、GPSにみられるように空中伝搬による周波数標準の伝送であり、インターネットを利用する技術は、標準器そのものの伝送でないが、遠隔校正の実現である。光ファイバー利用は、伝送されるレーザ光(正確には光コムなどを利用)に周波数や波長の情報を入れる方法である。
今回の成果は、干渉光を光ファイバーで伝送させる方法であり、世界で初めての提案・実験である。これが実現すると、現在の情報化社会にマッチングしたトレーサビリティ制度が確立されるだけでなく、一般ユーザが行っている計測の信頼性が向上し、安く敏速に計測器・標準器が実現できる可能性がある。さらに、家庭のメジャーへの応用も期待される。
波長幅が広い光(白色光や低コヒーレンス光と呼ばれる)を干渉計の光源として用いると、干渉計中の光路長差がゼロのときのみ干渉縞が発生し、光路長差が大きいときは干渉縞は現れない。そのような干渉計を白色干渉計、あるいは低コヒーレンス干渉計と呼ぶ。光路長差の大きな低コヒーレンス干渉計を2つ直列に配置すると、単独の干渉計では干渉縞が発生しないが、(1番目の干渉計の短い方の光路+2番目の干渉計の長い方の光路)=(1番目の干渉計の長い方の光路+2番目の干渉計の短い方の光路)のとき、全体の光路長が等しくなり、干渉縞が発生する。つまり、2つの干渉計の光路長差が一致して補償しあうときのみ、干渉縞が発生する。2つの干渉計を単一モード光ファイバーで接続すれば、遠く離れた干渉計の光路長差を比較することができる。1番目の干渉計が標準研等に置かれ、光路長差を与えられると、その光路長差の情報が、光ファイバーを通じて光のままで遠方のユーザーへ送られる。2番目の干渉計をユーザーの測定室に置き、被測定器物で光路長差を与える。標準研等の精密な移動ステージを動かし、干渉縞の発生する位置を検出すると、被測定器物の長さが標準研等の精密な移動ステージで校正されることになる。
これまでに長さ10mの単一モード光ファイバーを用いて、原理実証実験を行った。 呼び寸法が10mmまでのブロックゲージを用い、従来の手法で校正された値と比較して、比例項補正後0.14µmの標準偏差を得ている。現在、3kmの光ファイバーを用い、呼び寸法が50mmまでのブロックゲージを校正し、高精度化を目指した改良を行っている。
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二番目の干渉計の光学系の写真 |
装置の改良とともに、光源の高度化や信号強度劣化への対策技術開発も行い、外部機関との遠隔校正実証実験を行う予定である。