独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)グリッド研究センター【センター長 関口 智嗣】と次世代半導体研究センター【センター長 廣瀬 全孝】は、NECエレクトロニクス株式会社【代表取締役社長 戸坂 馨】(以下「NECエレ」という)と東京電力株式会社【取締役社長 勝俣 恒久】(以下「東電」という)とで、ツイストペア線を用いて10ギガビット/秒のイーサネット伝送を行う「10GBASE-T」規格の信号方式における誤り訂正符号であるLDPC符号(Low Density Parity Check Code)の有効性について、産総研のAISTスーパークラスタを用いて実証することに成功しました。
このLDPC符号は、2004年7月に米国ポートランドで開催されたIEEE標準化委員会(IEEE802.3an)に、NECエレ、東電、産総研の三者共同で提案され、出席者の採決により満場一致でIEEE標準規格に採択されました。これにより、10GBASE-Tの標準化が大きく前進することになりました。
NECエレ、東電、産総研認定ベンチャー企業である株式会社進化システム総合研究所【代表取締役社長 吉井 健】(以下「進化システム」という)、産総研は、これまでそれぞれの立場から10GBASE-Tの標準化提案を行ってきました。しかし、誤り訂正符号では同じくLDPC符号を支持していたことから協力し合い、今回のNECエレ、東電、産総研による共同提案に至りました。
10GBASE-Tは、LANを束ねるネットワーク機器やサーバ機の相互接続、また将来のパソコン接続のためのネットワーク規格であり、今後、巨大市場を形成することが期待されています。しかし、10GBASE-Tの標準化では、伝送信号の誤り訂正符号については採択に至る方式がなく、標準化が進んでいませんでした。今回、IEEE標準化委員会(IEEE802.3an)で標準規格として採択された誤り訂正符号は、LDPC符号と呼ばれるもので、データ伝送エラーの復号能力が高く、また計算プログラムを並列に実行することによる高速処理が可能であり、10GBASE-T規格の誤り訂正符号として最適なものです。LDPC符号が標準規格として採択されるためには、その有効性を示すために、IEEE標準化委員会(IEEE802.3an)より、計算機シミュレーションにより、エラーフロアが存在しないことの実証を要請されていました。この計算にはNECエレの試算で通常のパソコンで約7年半の計算時間が必要と見積もられましたが、産総研が行ったプログラムの最適化による高速化とAISTスーパークラスタの使用により、これを2週間に短縮することに成功し、LDPC符号ではエラーフロアが存在しないことが明らかになりました。この成果をIEEE標準化委員会(IEEE802.3an)で標準規格としての提案を行い、LDPC符号が標準規格に採択されました。
誤り訂正符号は10ギガビット/秒のイーサネット用LSIを開発する上で大きな開発要素となっています。したがって今回の提案で誤り訂正符号がLDPC符号に決まったことで、LSIメーカーは開発を加速化でき、10GBASE-Tの実現がより現実的となってきました。LDPC符号は当面、IP通信のバックボーンやインターネットデータセンター(IDC)向け用途として、将来的にはパソコン接続用として、巨大市場を形成することが期待されています。
現在、光ファイバを用いた10ギガビット/秒のイーサネットは広域通信用に用いられていますが、ツイストペア線を用いるイーサネット規格の10GBASE-Tは光通信モジュールが不要であり、機器製造コストを抑えられるほか、ケーブルの取り扱い等工事のしやすさといった利点も持っております。また、ツイストペア線を用いたイーサネットは、オフィスや家庭などに、もっとも普及しそれだけに市場規模も大きなものであるため、その実現が大いに期待されており、現在、IEEE標準化委員会(IEEE802.3an)において10GBASE-Tの標準化の検討が行われています。
しかし、10GBASE-Tのような高速な伝送システムは、ノイズの影響を受けやすく、その結果通信エラーが生じるため、伝送路で生じた通信エラーを発見し、訂正するための誤り訂正符号が必要となり、従来の方法とは違う新しい誤り訂正符号方式の標準化が必要でした。10GBASE-Tの場合、これまでよりも高い周波数の信号をイーサネットのケーブルに通すために、雑音の影響や高周波成分の減衰が大きく、したがって、従来よりも伝送エラーの発生が高くなります。この伝送エラーの問題を解決するために、伝送エラーが起きた場合でも、誤り訂正符号によって、元のデータを復号することが必要です。従来も誤り訂正符号は用いられてきましたが、10GBASE-Tの場合には、これまでよりもさらに能力の高い誤り訂正符号が必要とされます。しかし、これまでIEEE標準化委員会(IEEE802.3an)では誤り訂正符号について採択に至る方式がなく、標準化が進んでいませんでした。
これまで、NECエレ、東電、進化システム、産総研は、それぞれの立場から10GBASE-Tの標準化提案を行ってきました。10GBASE-Tにおいて、NECエレは、シングルキャリア方式をベースとし、LDPC符号の採用を主張していました。また東電、進化システム、産総研は、本年3月からマルチキャリア方式をベースとし、LDPC符号の採用を主張していました。誤り訂正符号ではLDPC符号という点で共通した主張であることから、共同でLDPC符号を標準化しようとの運びとなりました。
10GBASE-Tの標準規格を制定するIEEE標準化委員会(IEEE802.3an)では、昨年11月に誤り訂正能力が高く、並列化による高速処理に向くLDPC(Low Density Parity Check Code)と呼ぶ誤り訂正符号化方式がIntel社によって提案されましたが、エラーフロアが存在しないことを実証できず、標準化採択までには至っておりませんでした。産総研とNECエレは、これを証明するためのプログラム開発を行い、AISTスーパークラスタによる大規模な計算機シミュレーションを実施し、LDPC符号の有効性を示すことに成功しました。
LDPC符号において、エラーフロアが存在しないことを示すためには、ビットエラー率(Bit Error Rate)が10のマイナス12乗といった伝送エラーが極めて小さい状況での計算機シミュレーションが必要であり、エラーフロアがないことの十分な実証を行うためには、データビット列として10の14乗ビットもの膨大なデータを通信路に流すシミュレーションを行う必要がありました。従来のNECエレによる計算機シミュレーションの結果から、この計算に通常のパソコン(Xeon クロック周波数3.06GHz)では約7年半の計算時間が必要と見積もられました。
産総研が行ったプログラム実行順の最適化とAISTスーパークラスタの一部256台(Xeon 3.06GHz 2wayプロセッサ/ピーク演算性能1.57 TFLOPS)を使用した並列処理により、計算時間を2週間に短縮することに成功し、LDPC符号ではエラーフロア-が存在しないことが明らかになりました。
NECエレ、東電、産総研は、この成果を2004年7月14日に米国ポートランドで開催されたIEEE標準化委員会(IEEE802.3an)で発表し、標準規格としての提案を行いました。翌日15日の動議で、満場一致によりLDPC符号が標準規格に採択されました。
今回、10GBASE-Tの誤り訂正符号としてLDPC符号が採択されたことにより、10GBASE-Tの標準化が大きく前進することとなります。
10GBASE-Tは、当面はIP通信のバックボーンやインターネットデータセンター(IDC)向け用途として、LANを束ねるネットワーク機器やサーバ機の相互接続に用いられるものの、数年後にはパソコン用接続としても用いられる可能性があり、巨大市場を形成することが期待されています。
なお、進化システムは東電と10ギガビットイーサネットに関する共同研究契約を今年4月に締結しています。