独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)は、国内最高の総演算性能を持つクラスタ計算機「AISTスーパークラスタ1)」を平成16年3月末に導入し、このたび運用を開始しました。AISTスーパークラスタは、Linuxをオペレーティングシステムに用いた、全体で14.6TFLOPSの総演算性能と9.6TBのメインメモリ、803TBのストレージを持つクラスタ計算機です。世界最高速の計算機である地球シミュレータの約1/3のピーク性能を低コストで実現しています。
AISTスーパークラスタは、全体の計算性能を重視した「P-32クラスタ部」、個々の計算機毎のメモリ容量を重視した「M-64クラスタ部」、複数の独立した計算処理を同時に処理することを目指した「F-32クラスタ部」の3種類のクラスタ部と20TBの「ストレージ部」から構成されています。これらは10ギガビットイーサネットで相互に接続され、用途に応じて各部を使い分け、あるいは組み合わせて使用することにより最適な性能が得られます。
AISTスーパークラスタの導入目的は下記の通りです。
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グリッド技術を用いた高性能計算環境の構築
AISTスーパークラスタをグリッドに計算能力を提供する基盤システムとして利用し、高性能なグリッド計算環境を構築する。
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大規模クラスタシステム構築、運用技術の確立
クラスタ計算機は、多数のPCを組み合わせて高性能計算環境を安価に実現できるため広く使われるようになってきた。しかし、1,000台規模の大規模クラスタの構築、運用技術は確立していない。異なる構成のクラスタ部を組み合わせたAISTスーパークラスタを用いて、様々な運用形態の試験と運用技術の確立を行う。
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ナノテクノロジーおよびバイオインフォマティクスのための計算資源
物質の界面や表面などナノスケールで生じる現象の挙動解析など物質材料分野の研究や、たんぱく質等の生体物質の挙動解明など生命科学に関する研究のための計算資源として利用する。
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分野横断的かつ国際的な研究推進や産学官連携を担う中核システムとしての利用
グリッドコンピューティングの一つの資源として利用するなど、国際的研究や産学官連携研究のための計算基盤として用い、諸外国との共同研究や産業界活性化を進める。
1)AISTスーパークラスタ http://unit.aist.go.jp/tacc/ci/supercluster.html
AIST Super Cluster(英語版)http://unit.aist.go.jp/tacc/ci/en/supercluster.html
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AISTスーパークラスタ全体構成図
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AISTスーパークラスタは、産総研 グリッド研究センター【センター長 関口 智嗣】が中心となって仕様の策定を行い、P-32およびM-64クラスタ部は、日本アイ・ビー・エム株式会社【代表取締役 社長執行役員 大歳 卓麻】が、F-32クラスタ部およびストレージ部は、日本SGI株式会社【代表取締役社長 CEO 和泉 法夫】が納入しました。
AISTスーパークラスタの各部は以下の構成をとっています。
(1) P-32クラスタ部
Opteronプロセッサ(クロック周波数2.0GHz)を有するIBM社製e325サーバー1,072台をギガビットイーサネットと
Myrinetでつないでいます。全体で8.6TFLOPSの総演算性能と、6.4TBのメインメモリ、565TBのストレージを持ち、多くのプロセッサが頻繁に通信しながら処理を行う必要がある用途に適しています。P-32クラスタ部は、2003年11月の科学技術計算向け計算機の性能ランキング
Top500リストで世界第11位に相当する6.155TFLOPSの
Linpack性能を達成しました。これは使用したプロセッサの総演算性能の75%に相当する非常に高い値となっています。
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P-32クラスタ部構成図
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(2) M-64クラスタ部
Intel社製
Itanium2プロセッサ(クロック周波数1.3GHz)を有する同社
Tiger4サーバー132台をギガビットイーサネットと
Myrinetでつないでいます。全体で2.7TFLOPSの総演算性能と2.1TBのメインメモリ、117TBのストレージを持ち、個々の計算ノードに多くのメモリが必要である用途に適しています。M-64クラスタ部は、2003年11月の科学技術計算向け計算機の性能ランキング
Top500リストで世界第65位に相当する1.616TFLOPSの
Linpack性能を達成しました。
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M-64クラスタ部構成図
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(3) F-32クラスタ部
Intel社製
Xeonプロセッサ(クロック周波数3.06GHz)を有する
Linux Networx社製
Evolocity2eサーバー268台をギガビットイーサネットでつないでいます。全体で3.3TFLOPSの総演算性能と1.1TBのメインメモリ、99TBのストレージを持ち、相互通信の少ない用途に適しています。F-32クラスタ部は、2003年11月の科学技術計算向け計算機の性能ランキングTop500リストで世界第39位に相当する1.997TFLOPSの
Linpack性能を達成しました。
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F-32クラスタ部構成図
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(4) ストレージ部
ストレージ部は、20TBの実効容量を持つディスクアレイをクラスタファイルシステムで共有し、8台のNFSサーバーを介してAISTスーパークラスタ全体に共有ストレージを提供します。100TBの容量を持つバックアップテープライブラリを有しています。
AISTスーパークラスタは、ネットワーク上の情報を柔軟にアクセスできるグリッド技術を用いた高性能計算環境の基盤システムであり、国内における最大級のクラスタ計算機として構築されました。クラスタとしての利用を容易にするSCoreクラスタシステムソフトウェア2)、グリッドで広く使われているGlobusツールキットなどのソフトウェア環境をユーザに提供します。
グリッド技術の研究においては、グリッドミドルウェアなどの基盤ソフトウェアの開発環境およびビジネスグリッドにおける実証システムとしての利用が期待されています。
また、新物質材料の設計などのナノテクノロジー分野や、生体物質の挙動解明などのバイオインフォマティクスの分野においては、このような大規模なクラスタで計算科学的手法を用いることにより、研究開発が飛躍的に進展することが期待されています。
さらには、大規模クラスタ計算機での計算を望む企業などとの産学官連携を図る基盤システムとして積極的に利用することにより、産業界の活性化が進むものと考えています。
2)SCoreクラスタシステムソフトウェアの標準機能のうち、Omni OpenMPを除く