発表・掲載日:2004/03/25

マグネシウム合金の新しい加工技術(加工機)の開発に成功

-マグネシウムの需要拡大と地球温暖化防止に活路-

ポイント

  • 製品歩留まりが従来プロセス(ダイカスト法)の50%から90%以上に向上
  • 固体と液体の共存状態で加工するため、酸化しやすい液体が少なく、マグネシウム合金の酸化燃焼による危険性が大きく減少
  • 溶解炉や保持炉が不要になるため、省エネルギー効果が増大
  • マグネシウム合金溶湯の防燃のための地球温暖化ガス(SF6ガス)が不要
  • 固液共存状態での加工によるため、鋳造欠陥が減少でき製品品質が向上

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)基礎素材研究部門【部門長 鳥山素弘】、エスイピ株式会社【代表取締役社長 山田 藤夫】(以下「エスイピ」という)、株式会社 名機製作所【代表取締役社長 酒井 康一】(以下「名機製作所」という)は共同で、名機製作所の射出成形技術に、エスイピが開発したホットランナノズルを用い、産総研が開発した固液共存状態での成形加工技術を利用することにより、ダイカスト法の欠点である低い製品歩留まりを向上させると共に、マグネシウム合金の溶解炉・保持炉を不要にする、「ランナレス射出成形法」の開発に成功した。

 この技術によって、製品歩留まりを90%以上にすることが可能になると共に、高い製品品質を得ることが可能になり、また、液体状態での酸化燃焼の危険性が著しく低減できることから、安全に操業でき、高効率で高い省エネルギー効果の観点からも今後のマグネシウム合金の実用化を推進していく上で極めて有意義なプロセスとなることが期待される。

 なお本技術開発は、経済産業省 中部経済産業局が進める「東海ものづくり創生プロジェクト(産業クラスター計画)」の活動の一環から生じたもので、平成14年度地域新生コンソーシアム研究開発事業「軽金属の省エネルギー型高効率射出成形加工技術の開発」に採択され、財団法人 科学技術交流財団からの委託を受けて平成15年度までの2年間行った。

ランナレス射出成形機の写真
ランナレス射出成形機


研究の背景

 マグネシウム合金は実用金属の中で最も軽量であり、比重はアルミニウム合金の2/3、鉄の1/4程度である。このため高比強度軽量材料としての特徴を活かして、自動車等の輸送機器の軽量化への有効化が期待され、材料開発と成形・加工の両面から研究開発が進められている。また、リサイクル性も良いため、循環型社会の構築に適した材料と位置づけられている。

 一方、現在のマグネシウム合金製部材の製造は、ダイカスト法が主流である。しかし、この方法では液体状態のマグネシウム合金を高速・高圧で金型に圧入するため、ランナゲートオーバーフローと言った製品以外の部分が、製品と同じか、あるいはそれより多い量できてしまう。これらは製品ではないので、大半が再度溶解されることになる。従って、ダイカストで製品を製造した場合には、実際に製品になる部分は半分以下となる。このため、1個の製品を製造するための溶解エネルギーや再度溶解するためのエネルギーが無駄になってしまう。

 また、溶融したマグネシウム合金は非常に活性であるため、大気に触れると激しく酸化して燃焼するため、ダイカスト法は大変危険な作業でもある。これを防止するために、SF6ガスというガスが防燃のために使用される。しかし、このガスは地球温暖化系数が非常に高い(20000強)ため、今後の使用は禁止される方向にある。

 そこで本研究開発では、ダイカスト法のように完全には溶解せず、半分溶けた状態で金型に圧入して成形する方法として、「ランナレス射出成形法」を開発した。この方法では、射出成形機のノズル部に工夫を加え、固体のマグネシウム合金素材をこの機械に装填し、固液共存状態の温度まで自動的に加熱され、ピストンにより金型へ加圧圧入される。溶けたマグネシウム合金が空気に触れることがないため、酸化による燃焼がなくなり、SF6ガスを使用することなく安全な操業ができる。また、固液共存状態のマグネシウム合金は金型に加圧圧入されるため、鋳造欠陥の少ない精度の高い高品質な製品ができる。

研究の経緯

 本研究は、経済産業省 中部経済産業局が進める「東海ものづくり創生プロジェクト(産業クラスター計画)」の活動の一環から生じたもので、平成14年度地域新生コンソーシアム研究開発事業「軽金属の省エネルギー型高効率射出成形加工技術の開発」に採択され、産総研 基礎素材研究部門、エスイピ、名機製作所の各社が、財団法人 科学技術交流財団からの委託を受けて平成15年度までの2年間行った。

 産総研 基礎素材研究部門では、マグネシウム合金の固液共存状態で成形加工する技術の開発を行ってきており、名機製作所の射出成形技術に、エスイピが開発したホットランナノズルの技術を用い、産総研が開発した固液共存状態での成形加工技術を適用することにより、ランナ、ゲート、オーバーフローといった余分な部分を限りなく少なくし、マグネシウム合金の溶解炉・保持炉を不要にする、「ランナレス射出成形法」の開発の成功に至った。

研究の内容

 名機製作所は樹脂用の射出成形機に関して持っているポテンシャルで、マグネシウム合金用の射出成形機をエスイピと共同で開発した。エスイピはマグネシウム合金用の射出成形機に対して、ホットランナノズル技術を適用し、ランナレス射出成形技術を確立した。産総研は、固液共存状態における成形加工技術をランナレス射出成形技術に対して確立することにより、マグネシウム合金の溶解炉・保持炉を不要にし、高い製品品質を可能にするランナレス射出成形法の完成に寄与した。

 この技術によって、製品歩留まりを90%以上にすることが可能になると共に、高い製品品質を得ることが可能になった。また、液体状態での酸化燃焼の危険性が著しく低減できることから、安全に操業でき、高効率で高い省エネルギー効果の観点からも今後のマグネシウム合金の実用化を推進していく上で極めて有意義なプロセスとなることが期待される。

今後の予定

 現在、名機製作所においてランナレス射出成形機の量産機の設計・製作に取りかかっており、性能テストを完了後、製品化に向けた量産試作に移る予定である。

 本開発機をマグネシウム合金製品の製造に使用することにより、省エネルギーで高効率、かつ安全な製品製造が可能になる。自動車部品以外にも、携帯電話やノートパソコンやデジタルカメラ等の弱電分野製品、輸送機器関連部品、産業機械部品等、多方面の製品製造に大きく寄与することが可能である。


自動車用プロペラシャフト固定台の写真

自動車用プロペラシャフト固定台
(800g/個、200トンマシン製)
従来法を用いた場合600トン程度の
ダイカストマシンが必要
 
自動車用コンプレッサーエンドハウジングの写真
自動車用コンプレッサーエンドハウジング
(190g/個)、200トンマシン製
 

用語の説明

◆製品歩留まり(ぶどまり)
材料を種々の加工方法で製品にした場合、投入した材料と製品になった材料との割合をいう。歩留まりが100%というのは、投入した材料が全て製品になったもので、最も効率がよい。歩留まりが50%というのは、投入した材料の半分しか製品にならなかった場合で、残りの半分は、捨てられるか、またはリサイクルされる。加工エネルギーとしては、歩留まりが悪いほど、製品を作る際に無駄になっていることになる。[参照元へ戻る]
◆ダイカスト法、ランナ、ゲート、オーバーフロー
アルミニウム合金やマグネシウム合金等の溶融金属を、ピストンにより高速高圧で金型内へ加圧圧入することにより、製品を作るための一般的な方法。溶融金属が金型で急冷されるために、できた製品の組織が非常細かくなり、高い特性が得られると共に、表面性状の非常に良い製品が得られる。しかし、溶融金属を金型の端から端まで流すために、「ランナ」という金型までの通り道や「ゲート」という金型へ入るための流れ口や金型内を流れ出た金属がたまる「オーバーフロー」といった余分なものができてしまう。ダイカスト法では、一般的に、これらの量が製品とほぼ同じかあるいはそれより大きくなってしまう。[参照元へ戻る]
◆固液共存状態
金属材料が完全に溶けた状態と、完全に固まった状態との間の状態が固液共存状態である。純金属では、一定の温度で液体から固体に変化するが、この温度では固体と液体が共存する。また、合金になると液体から固体へ変化する温度に幅ができ、純金属に較べて広い温度範囲で、固体と液体が共存する。液体状態では水と同じように流動性が高いので、鋳型内を簡単に流れることができる。しかし、固液共存状態になると液体中に固体が分散してくるので、ペーストやコンクリートのように流動性が悪くなり、そのままでは鋳型内を流れにくくなる。しかし、コンクリートやペーストもよくかき混ぜると流れやすくなる。
これと同じことが金属の固液共存状態でもおこる。固液共存状態の方が鋳造欠陥が出にくくなるので、製品を作るのにはよいが、流動性が悪くなる点をかき混ぜる様なことを加えて改善してやる必要がある。[参照元へ戻る]
◆射出成形機(技術)
プラスチックのチップ(小片)が、それをためたホッパーからシリンダーへ運ばれ、シリンダー内にあるスクリューで加熱されながら加圧されて、金型内へ圧入されてプラスチックの部品として製造される装置。この装置を使用して部材を製造する技術が射出成形技術。スクリューは鉄でできており、マグネシウム合金は鉄とは反応し難いので、最近この装置はそのままマグネシウム合金チップを利用した部品の成形装置として代用されている。この方法はチクソモールディングと呼ばれており、チップを使用するための問題点も多い。今回開発した射出成形機は、スクリューを使用せず、マグネシウム合金インゴットをそのまま加熱加圧する。[参照元へ戻る]
◆エスイピ株式会社
本プロジェクトのとりまとめを担当している。エスイピがアルミニウム合金について5年間程掛けて開発してきた技術シーズに対して、産総研及び名機製作所が、それぞれの得意とする技術ポテンシャルで協力・支援することにより、技術シーズの実用化を目指した。今回、ホットランナノズル技術を射出成形機に適用し、マグネシウム合金に対するランナレス射出成形技術の確立に至った。[参照元へ戻る]
◆ホットランナノズル
射出成形機でプラスチックを金型に圧入する際に、射出成形機から金型に至る部分(ランナ)を、樹脂が溶けた状態に保つための加熱保持する方式をホットランナといい、金型へ圧入する部分をホットランナノズルという。ホットランナから製品部への入り口を、直接製品上に配置することにより、製品を取り出す場合に、製品以外の不要なものを一切伴わない。今回は、マグネシウム合金の成形に際してもこのシステムを取り込むことにより、ランナレス射出成形法を確立した。[参照元へ戻る]
◆東海ものづくり創生プロジェクト(産業クラスター計画)
多種多様な厚みのある産業集積を有する東海地域(愛知県、岐阜県、三重県)において、有望な産業・企業群が、地域経済を支え、世界に通じる産業・企業を連続的に生み出していくことを目指し、経済産業省 中部経済産業局が推進するプロジェクト。産学官の広域的な人的ネットワークにより、一歩進んだものづくりを目指す企業の諸課題(技術・経営情報・販路等)の克服を支援し、世界に通用する新事業が次々と展開される高度なものづくり産業クラスターを形成するものである。[参照元へ戻る]


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