独立行政法人産業技術総合研究所 基礎素材研究部門【ユニット長 五十嵐 一男】機能付与リサイクル技術研究グループ【馬渕 守、千野 靖正】は、愛中理化工業(株)、伊藤忠ポリマー(株)との共同研究により、工業部品の特性として必要な潤滑性・耐摩耗性・非粘着性を兼備しつつ、マグネシウム合金の耐食性を保証するノンクロム表面処理を低コストで実現することに成功した(特許出願中)。この表面処理のポイントは、これまでのマグネシウム表面処理技術にはなかったテフロン処理を応用した点にある。以前、本共同研究グループでは、耐食性および意匠性の向上を目指して樹脂・金属蒸着膜・樹脂の3層構造を有する「AIコーティング」を開発した。今回新たに開発した新被膜は、以前開発した処理に比べ意匠性は低いものの、同程度の耐食性を低コストで実現する「“汎用型”AIコーティング」である。すなわち、軽量、低環境負荷、低コストが必須の課題とされる輸送機器(自動車等)へのマグネシウム合金適用に拍車をかけるキーテクノロジーになり得る可能性を秘めている。
21世紀の自動車を含む輸送機器には低負荷環境性、乗員安全性が今まで以上に望まれており、軽量かつ比強度・比剛性特性に優れるマグネシウム合金を適用する試みが近年活発に行われつつある。マグネシウム合金を構造部材として利用する上での大きな課題の一つに耐食性の低さが挙げられる。現在、クロメート処理、陽極酸化処理等が耐食性を与えるための表面処理法として利用されている。しかし、これら従来の表面処理法は環境に有害なクロムを含んでいること等が問題点として指摘されている。また、表面処理プロセスが煩雑であることがマグネシウムのコスト高の一因になっている。
独立行政法人・産業技術総合研究所基礎素材研究部門機能付与リサイクル技術研究グループでは、愛中理化工業(株)、伊藤忠ポリマー(株)との共同開発により、工業部品の特性として必要な潤滑性・耐摩耗性・非粘着性を兼備しつつ、マグネシウム合金の耐食性を保証するノンクロム表面処理を低コストで実現することに成功した(特許出願中)。この表面処理のポイントは、これまでにマグネシウム表面処理技術にはなかったテフロン処理を応用した点にある。以前、本共同研究グループは家電製品等の意匠性を必要とするマグネシウム合金成形材を対象に、樹脂・金属蒸着膜・樹脂の3層構造を有する「AIコーティング」を開発した。今回新たに開発した新被膜は、以前開発した処理に比べ意匠性は低いものの、同程度の耐食性を低コストで実現する「“汎用型”AIコーティング」であり、適応範囲は広範囲に及ぶものである。
図1に「“汎用型”AIコーティング」の概要を示す。詳細は公表できないが、下地処理を施したマグネシウム合金にテフロン処理を施すことにより本被膜は形成される。本技術のブレイクスルーポイントは、特殊な下地処理によりマグネシウム合金とテフロン処理膜の密着性を飛躍的に向上させた点にあり、わずか3工程(機械的下地処理、下地塗装処理、テフロン塗装処理)により被膜の形成が可能であることから、大幅な低コスト化が実現できた。
「“汎用型”AIコーティング」を施したマグネシウム合金試作品を図2および図3に示す。本被膜は約150µmの厚みを有しており、硬度は鉛筆硬さで2H以上を有する。また、約1週間の塩水噴霧試験に耐えると同時に、マグネシウム合金表層はテフロン特有の潤滑性、耐摩耗性、非粘着性を有する。
以上のことから、本技術は軽量、低環境負荷、低コストが必須の課題とされる輸送機器(自動車等)へのマグネシウム合金適用に拍車をかけるキーテクノロジーになり得る可能性を秘めている。
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図1 「“汎用型”AIコーティング」の模式図 |
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図2 「“汎用型”AIコーティング」を施したマグネシウム合金試作品(携帯電話用ハウジング)。(マグネシウム合金試作品は日精樹脂工業製マグネシウム合金専用射出成型機FMg3000による成形品を拝受) |
図3 「“汎用型”AIコーティング」を施したマグネシウム合金試作品(家電製品構成部品) |