発表・掲載日:2025/03/24

ダイヤモンドパワーデバイスのアンペア級の高速スイッチング動作を確認

-次世代モビリティのパワーユニット駆動に向けたダイヤモンドパワー半導体-

ポイント

  • ダイヤモンドMOSFETのアンペア級高速スイッチング特性を世界で初めて実証
  • 2.5アンペアの動作電流で立下り、立上り時間が19ナノ秒、32ナノ秒の高速動作であることを確認
  • 次世代パワーデバイスとして期待されるダイヤモンド半導体およびパワーユニット駆動回路の研究開発を大きく前進

概要図

開発したダイヤモンドパワー半導体チップ
※原論文の図を引用・改変したものを使用しています。


概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)先進パワーエレクトロニクス研究センター 新機能デバイスチーム 梅沢 仁 上級主任研究員、牧野 俊晴 研究チーム長、竹内 大輔 副研究センター長は、株式会社本田技術研究所(以下「Honda」という)との自動車駆動に向けた高電圧・大電流対応ダイヤモンドパワーデバイスに関する共同研究により、大電流動作を可能とするダイヤモンドMOSFET(金属-酸化膜電界効果型トランジスタ)デバイスを開発し、アンペア級の高速スイッチング動作を世界で初めて実証しました。

ダイヤモンド半導体は次世代のパワーデバイスや高周波かつ高出力で動作するデバイスとして期待されています。高い絶縁破壊電界や物質中最大の熱伝導率、大きなバンドギャップにより高温環境下でも高い電流と大きな電圧を安定して取り扱うことが可能であり、低いエネルギー損失や小型・軽量なパワーエレクトロニクス機器の実現が期待されています。より高効率な電力変換技術の実現に貢献すると考えられており、特に、電気自動車や再生可能エネルギー、宇宙産業などの分野での応用検討が進められています。

本成果は、これまで産総研で行われてきたダイヤモンド半導体デバイス試作技術とHondaによるデバイス応用技術を組み合わせて行われた研究によるものです。

今後、ダイヤモンドの材料優位性が発揮される超高出力密度動作や高周波動作の実現など新たな研究テーマへ発展する研究開発を進め、ダイヤモンド半導体の優位性を検証するとともに高い電圧で大きな電流の動作が可能なダイヤモンド半導体を開発し、次世代モビリティのパワーユニットへ搭載して動作実証を行うなど社会実装を目指します。

なお、本研究成果の一部は、2025年3月10日に「Applied Physics Express (APEX)」にオンライン掲載されました。 また4月にシアトルで開催される2025 MRS Spring Meeting & Exhibitで発表されます。


開発の社会的背景

カーボンニュートラルの実現に向けて、自動車や電力網などで使われる高い電圧と大きな電流、きめ細かい制御で高効率に扱う新しいパワーエレクトロニクス技術の研究が盛んに進められています。現在、シリコン(Si)や炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)などの半導体材料が実用化されていますが、これらの半導体は負電荷の電子が動くn型伝導を基本としています。これらの半導体は正電荷の正孔が動くp型伝導性は低いため、自由でかつ信頼性の高いパワー回路の設計において技術的な課題を残しています。そのため、さらなる高耐電圧・低損失化を目指し、新しいp型パワー半導体材料の研究が進められています。その中で注目されているのが、p型伝導が得意であり、5.5eVの大きなバンドギャップや物質中最大の熱伝導率、高い絶縁破壊電界を持ち、究極の次世代半導体と呼ばれるダイヤモンド半導体です。

しかし、ダイヤモンドは半導体としての結晶作製や加工が難しい材料です。その上で、ダイヤモンド半導体の実用化には、アンペアレベルの大電流を扱いながら高速スイッチングを実現できるデバイスが求められています。

 

研究の経緯

産総研はダイヤモンドを半導体材料として使うための研究開発に長年取り組んでいます。今回、われわれは大電流化のために従来よりも大型の基板上への試作プロセスと並列化技術の開発を行い、大電流で高速スイッチングを可能とするダイヤモンドトランジスタの試作に成功し動作実証に至りました。 

 

研究の内容

本研究ではハーフインチサイズの単結晶ダイヤモンド基板上に、水素終端(H-terminated)による二次元正孔キャリアガスを用いたp型パワーMOSFETを多数作製し、並列動作可能な配線作製プロセスを確立してアンペア級の動作が得られるダイヤモンドMOSFETチップを開発しました(図1)。図2に示すゲート幅(WG)が1020 µmの単一素子の特性からは明瞭な飽和特性が得られており、同一基板上に作製した素子の性能が高い歩留まりで作製されていることも確認しています。また、314個の単一素子のソース、ゲート、ドレイン電極をそれぞれ並列接続し、総ゲート幅を約32 cmにまで並列接続した素子の駆動電流は2.5アンペアであり、この素子にダブルパルス法によるスイッチング速度の評価を行ったところ、立下り時間と立上り時間はそれぞれ19ナノ秒、32ナノ秒であることが確認されました(図3)。これまでダイヤモンドパワーデバイスのスイッチング特性はダイオードでの実証(2012年12月25日 産総研プレス発表)やミリアンペア級の素子で試験が行われていましたが、本研究成果は並列接続したダイヤモンドパワースイッチングデバイスが世界で初めてアンペア級の高速スイッチング動作できることを確認したものであり、今後のダイヤモンド半導体の実用化に向けた大きな一歩です。

図1

図1 開発したアンペア級ダイヤモンドMOSFETチップ(314素子を並列接続)の全景
※原論文の図を引用・改変したものを使用しています。

図2

図2 ダイヤモンドMOSFETの単一素子性能
WG: ゲート幅、VGS: ゲートーソース間電圧
ドレイン電流の飽和特性が見られることは、良好な動作特性が得られていることを示す。
※原論文の図を引用・改変したものを使用しています。

図3

図3 開発したアンペア級ダイヤモンドMOSFETチップのスイッチング特性(左:立下り、右:立上がり)
IL: 負荷電流、ID: ドレイン電流、VGS: ゲートーソース間電圧、VDS: ドレイン電圧
VGSを-10 V(トランジスタがオン状態)と+18 V(トランジスタがオフ状態)の間でスイッチすることでトランジスタが導通状態(IDが立ち上がって流れる状態)と非導通状態(IDが立ち下がって流れない状態)にスイッチします。
※原論文の図を引用・改変したものを使用しています。
 

p型ダイヤモンド半導体としてアンペア級動作を世界で初めて実証した今回の成果は、次世代パワー半導体の回路設計に新たな自由度を与え、社会実装に向けた開発の加速につながる技術的道筋を与えます。

 

今後の予定

今後、耐電圧の改善、素子単体の高電流密度化などを行い、より大電力を扱える素子の研究と実用化開発を進め、モビリティの多様性やカーボンニュートラル社会の実現、社会全体でのエネルギー総量の低減や高効率化への貢献に向けて研究開発を行います。

 

論文情報

掲載誌:Applied Physics Express(APEX)
論文タイトル:Ampere-class double pulse testing of half-inch H-terminated diamond MOSFET chip
著者:K. Takaesu, D. Sano, I. Ota, K. Otsuka, D. Takeuchi, T. Makino and H. Umezawa
DOI:10.35848/1882-0786/adba3a


用語解説

パワーデバイス
大きな電力を扱い電力変換を行うための半導体素子。例えば、モビリティ応用では電池(直流)に蓄えられたエネルギーを交流に電力変換しモーターを駆動(交流)させるパワーコントロールユニット(PCU)に使用される。PCUで使用されるパワーデバイスが高速でスイッチングできるときめ細かな電力変換制御や低損失化、PCUの小型化が可能となる。[参照元へ戻る]
MOSFET(金属酸化膜電界効果トランジスタ)
スイッチングを行う半導体素子であるトランジスタのうち電流制御を行うゲート部に金属半導体接合を用いたトランジスタ。[参照元へ戻る]
二次元正孔キャリアガス
ダイヤモンドの表面を水素で終端することでダイヤモンド表面に高濃度に形成されるキャリアガス。キャリアは正の電荷を持ち、表面から深さ10 nm以下に存在する。キャリア密度は1013/cm2程度。[参照元へ戻る]
ダブルパルス法
パワー半導体素子のスイッチング特性を評価するための評価手法。きめ細かな電力変換や機器の小型化にはパワーデバイスの高速スイッチング動作が必要であり、立上り/立下り時間は高速スイッチング動作が可能であるか判断するための指標となる。[参照元へ戻る]

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