- ゼオライトの基本構造である複合構造単位(CBU)を予め配列し、組み上げる新たなゼオライト合成法を開発
- 新規骨格を有するゼオライト(UPZ-1)の創出に成功
- 任意の細孔構造を有する高性能なゼオライト材料開発に貢献
オルトケイ酸のかご型12量体(Q12H12)のHIF結晶を脱水縮合させることによるゼオライト合成
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)触媒化学融合研究センター ヘテロ原子化学チーム 西鳥羽 俊貴 産総研特別研究員、五十嵐 正安 上級主任研究員、材料・化学領域 佐藤 一彦 領域長補佐は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)のプロジェクトで、ゼオライトの基本構造をあらかじめ配列させ、組み上げる、新規合成手法の開発に成功し、単結晶X線構造解析および透過型電子顕微鏡によりその詳細な構造を明らかにしました。
ゼオライトの複合構造単位(Composite Building Unit : CBU)であるd6rを含むオルトケイ酸のかご型12量体(Q12H12)を水素結合により配列させ、この配列を維持したまま脱水縮合によりゼオライトを合成することができました。この新規合成手法は、さまざまなニーズに最適化されたゼオライト開発の新しい手法として、高機能・高性能な触媒や分子ふるいなどの開発に応用が期待されます。なお、今回の成果の詳細は、10月3日(米国東部時間)に米国の学術誌Chemistry of Materialsに掲載されます。
ゼオライトは規則正しく配列した細孔を持ち、また細孔内に触媒活性部位を持っていることから化学工業用触媒、環境浄化触媒およびガス分離の分野で広く利用されています。合成されるゼオライトのほとんどが塩基性の高温・高圧の水熱条件で合成されています。高性能なゼオライト合成に向けて、有機物を鋳型とした合成方法、種結晶により結晶化を促進する方法や、ゲルマニウムやホウ素などのヘテロ原子により結合形態を制御する方法などが開発されています。しかし、水熱条件下での合成では、ゼオライトへの結晶化と溶解が可逆的に進行し多様な非晶質のケイ酸塩を経由するため、合成過程が複雑で不明な点が多く、生成物の合理的な設計や形成過程の解明が困難です。この課題を打開し、各種の用途に求められる結晶構造や原子配列を得るため、ゼオライトの部分構造や、複合構造単位の転写を目指した合成法の開発が進められています。しかし、先に述べた合成法と同様にこれらの合成方法も水熱条件下で行われるため、依然としてゼオライト形成過程は複雑であり、高性能・高機能なゼオライトを精密に設計・合成することは困難です。
産総研はこれまでに、シリカ(SiO2)の基本単位であるオルトケイ酸(Si(OH)4)をはじめ、その2量体、環状3量体、環状4量体、オルトケイ酸のかご型8量体(Q8H8)、かご型12量体(Q12H12)を合成・単離する技術を開発しています(2017年7月27日 産総研プレス発表)。さらに最近、Q8H8の8個の頂点に放射状に存在するヒドロキシ基に着目し、水素結合させることで、Q8H8が1次元、2次元および3次元状にネットワークを構築した「水素結合性無機構造体(Hydrogen-bonded Inorganic Framework: HIF)」を開発しています(2021年12月10日 産総研プレス発表)。今回、このHIF結晶の結晶性を維持させたまま脱水縮合させることが可能なプロセスを開発することにより、水素結合をシロキサン結合へ変換することで図1に示すような基本構造を配列させたゼオライトの合成手法の開発に至りました。
なお、本研究開発は、「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発」(2014~2021年度、JPNP14003)、「NEDOプロジェクトを核とした人材育成、産学連携等の総合的展開/有機ケイ素先端材料開発技術者養成に係る特別講座」(2022~2024年度、JPNP06046)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 さきがけ「原子・分子の自在配列と特性・機能」(2022~2025年度、JPMJPR22A1)による支援を受けています。
図1 オルトケイ酸のかご型12量体(Q12H12)と原料となる水素結合性無機構造体(HIF)
HIF結晶の結晶性を維持して脱水縮合を達成できれば、従来よりも合理的なゼオライト合成法を開発できると着想しました。Q12H12からなるHIF結晶の結晶性を維持させながら脱水縮合可能なプロセスを見出し、新規なゼオライト合成手法の開発に成功しました。合成したゼオライトは新規骨格を形成しておりUPZ-1(Unit-Preorganized Zeolite)と命名しました。
今回の新規ゼオライト合成法は酸性条件による脱水縮合ののち、高温加熱を行うことで達成されました。図1に示したHIF結晶に対して、前段の反応では酢酸を溶媒とし、反応の促進剤としてアミンまたはアンモニウム塩を触媒量加え、140℃で加熱することで部分的な脱水縮合を促進させ、中間体を得ました。この中間体をさらに750℃で加熱することで脱水縮合が完全に進行し、新規ゼオライト(UPZ-1)を合成しました(図2)。
図2 HIF結晶からゼオライトへの脱水縮合プロセス
光学顕微鏡で観察したところ、得られたUPZ-1はおよそ80μmとゼオライトとしては極めて大きな結晶であり、出発原料として用いたHIF結晶と同様な結晶外形でした。単結晶X線構造解析により明らかにした構造を図3に示します。UPZ-1の結晶構造はb軸方向にケイ素4員環(4R)とケイ素6員環構造(6R)が交互に連なり、c軸方向にはケイ素4員環(4R)、ケイ素8員環構造(8R)が交互に連なっていました。一方で、出発原料のHIF結晶では、基本骨格構造由来のケイ素6員環(6R)に加え、水素結合で形成されたケイ素4員環(4R’)とケイ素8員環(8R’)が観察されました。それぞれの構造を比較したところ、HIF結晶中の水素結合で構成されていたケイ素4員環(4R)とケイ素8員環(8R)の水素結合の部位が、UPZ-1ではQ12H12の配列を維持したままシロキサン結合に変化していました。
図3 Q
12H
12のHIF結晶と脱水縮合により合成された新規ゼオライト(UPZ-1)の結晶外形と構造モデル
UPZ-1の結晶構造を詳細に解析するため透過型電子顕微鏡により観察を行った結果を図4に示します。観測された原子配列は単結晶X線構造解析の結果と一致し、HIF結晶中のQ12H12の配列を維持したままの脱水縮合が達成されていることが確認できました。
図4 電子顕微鏡により観測されたUPZ-1の結晶構造
※原論文の図を引用・改変したものを使用しています。
ゼオライトを触媒や分子ふるいとして利用するためには、高い耐熱性や反応に適した細孔サイズが求められます。今後は、多彩なHIF結晶を作成し、脱水縮合することでさまざまなニーズに対応した高機能なゼオライトの合成を目指します。
掲載誌:Chemistry of Materials
論文タイトル:Synthesis of Zeolites via Dehydrative Condensation of Preorganized Composite Building Units
著者:Toshiki Nishitoba, Tomohiro Matsumoto, Fujio Yagihashi, Junichi Satou, Takashi Kikuchi, Kazuhiko Sato, and Masayasu Igarashi
DOI:https://doi.org/10.1021/acs.chemmater.4c01848