発表・掲載日:2023/12/11

粉末冶金技術を用いた金属支持による固体酸化物形燃料電池(SOFC)を開発

-強靭な多孔質ステンレス鋼基板上にSOFCを積層することで、モビリティへの適用が可能に-

ポイント

  • 燃料拡散性と機械強度を両立したSOFC用多孔質ステンレス鋼基板を開発
  • 電解質ナノ粒子を添加することによって、電解質のガスバリア性を向上
  • SOFC基板の強靭化によって、自動車やドローンなどのモビリティへ適用可能に

概要図

金属支持SOFCの断面構造(左)と外観写真(右)


概要

ポーライト株式会社(以下「ポーライト」という)と国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)極限機能材料研究部門 固体イオニクス材料グループ 山口 祐貴 主任研究員、鷲見 裕史 研究グループ長は、粉末冶金技術を用いた多孔質ステンレス鋼基板上に、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を積層した金属支持SOFCを開発しました。

従来のSOFCは、電解質または燃料極を支持体としていましたが、いずれもセラミックスであるため、もろくて割れやすく、振動や熱衝撃に弱い問題がありました。この支持体を多孔質ステンレス鋼基板に変えることで強靭化が実現し、自動車やドローンなどのモビリティに適用できるようになります。ポーライトは、小型モーター用軸受、機械構造部品などの焼結部品製造で培った粉末冶金技術を応用して、燃料拡散性と機械強度を両立した多孔質ステンレス鋼基板を開発しました。一方、産総研は、電解質ナノ粒子を開発し、電解質のガスバリア性を向上することに成功しました。ポーライトが開発した多孔質ステンレス鋼基板と産総研が開発した電解質ナノ粒子を組み合わせて、実用サイズの5 cm角金属支持SOFCを試作・実証しました。

この技術の詳細は、2023年12月14〜15日に開催される「第32回SOFC研究発表会」にて発表予定です。


開発の社会的背景

SOFCは600~900 ℃の高温で作動し、燃料電池の中で最も高い発電効率が期待されています。国内では、家庭用熱電併給(コージェネレーション)システムとして商品化され、普及が進んでいます。SOFCはさまざまな用途への適用も期待されていますが、現状では定置用以外の開発が進んでいません。

SOFCは電解質や電極が固体であるため、図1に示すようにさまざまな構造を取ることができます。これまで、ジルコニア(ZrO2)などの緻密質電解質を支持体とした電解質支持SOFCや、電気抵抗が大きい電解質を薄膜化し、ニッケル触媒と電解質の混合物から成る多孔質燃料極を支持体とした燃料極支持SOFCが開発されてきました。しかし、電解質や電極にはセラミックスが含まれるため、もろくて割れやすい欠点があります。定置用以外の用途としては自動車やドローンなどのモビリティがありますが、振動や熱衝撃に耐えうる機械強度が求められることから、これまでSOFCの適用は難しいとされてきました。モビリティにSOFCを適用するためには、セラミックスよりも高強度・高靭性を有する多孔質ステンレス鋼を支持体とした金属支持SOFCなどの開発が求められています。

図1

図1 SOFCの断面構造

研究の経緯

ポーライトは、これまでに粉末冶金技術を用いてSOFC用クロム基合金インターコネクターを開発し、SOFCメーカーに供給しています。インターコネクターは、燃料と空気を分離して供給する役割と、上下のセルを電気的に接続する役割があります。インターコネクターにはガスバリア性が求められるため、孔が空いていない緻密質の金属が用いられます。このクロム基合金インターコネクターが使用されている250 kW SOFCシステムを2017年に導入し、ポーライト熊谷第二工場の電力需要の約50%を賄っています。一方、孔が空いている多孔質の金属も、粉末冶金技術で作ることができます。ポーライトは、産総研と共同で中小企業庁「戦略的基盤技術高度化支援事業」に参画し、粉末冶金技術を用いた金属支持SOFC用多孔質金属基板の製造プロセスを確立しました。

産総研は、LPGカセットボンベで発電できる「ハンディ燃料電池システム」(2013年1月28日 プレス発表)や「コンパクトハイパワー燃料電池システム」(2017年2月9日 プレス発表)などのポータブルSOFCシステムを開発しました。また、「SOFCドローン」を開発、長時間飛行を実証し(2020年6月15日 プレス発表)、SOFCがモビリティに適用できることを示しました。一方、モビリティ用SOFCの信頼性確保のためには、強靭化が不可欠です。産総研は国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業を通じて、金属支持SOFCの製造プロセスについて検討を行いました。今回、ポーライトが開発した多孔質金属基板と、産総研が開発したSOFC製造プロセスを組み合わせて、実用サイズの金属支持SOFCを開発しました。

なお、ポーライトの研究開発は、「戦略的基盤技術高度化支援事業/固体酸化物形燃料電池(SOFC)の高強度化のための多孔質金属基板の開発」(2020~2022年度)、産総研の研究開発はNEDO「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/固体酸化物形燃料電池強靭化技術の開発」(2020~2022年度)による支援を受けました。

 

研究の内容

多孔質金属はフィルターなどさまざまな用途で使われていますが、金属支持SOFCでは基板上に粒径1 μm程度の金属触媒-セラミックス混合物から成る多孔質電極が積層されるため、金属粒子や多孔質金属の孔の径をSOFC用に制御する必要があります。また、600 ℃以上の高温で用いられるSOFCでは、基板と電極および電解質とのあいだで熱膨張係数を合わせることが求められます。

ポーライトは、電解質材料のジルコニアと熱膨張係数が同程度のフェライト系ステンレス鋼を原料として、粉末冶金技術を用いて多孔質ステンレス鋼基板を製造するプロセスを確立しました。図2は、開発した金属支持SOFC用多孔質ステンレス鋼基板の表面走査型電子顕微鏡(SEM)写真です。原料のステンレス鋼粒子の粒径は約20~50 μmですが、基板表面の孔の大きさを図2(a)の約50 μmから(b)の約10 μmまで任意に制御することによって、さまざまな多孔質電極の積層に対応できます。基板全体の気孔率はいずれも約50%であり、良好なガス拡散性を示します。

図2

図2 金属支持SOFC用多孔質ステンレス鋼基板の表面SEM写真

従来のSOFCの電解質は、1300 ℃以上の高温で焼結することによって、水素などの燃料に対するガスバリア性に優れた緻密質のセラミックスを得ていました。しかし、多孔質ステンレス鋼基板はセラミックスよりも耐熱性が低いため、高温で焼結することができません。図3は、多孔質ステンレス鋼基板上に積層したジルコニア電解質の表面SEM写真です。1000~1200 ℃まで焼結温度を下げると、図3(a)のようにセラミックスの焼結不足で孔が空いてしまい、供給した燃料が空気側へ漏れてしまいます。

産総研は、温度を下げても焼結を促進させることができる、平均粒径が70~150 nmから成るジルコニア電解質ナノ粒子を開発しました。電解質ナノ粒子を添加した図3(b)では、焼結温度を下げても電解質内の貫通孔が激減し、ガスバリア性が向上しました。これによって燃料の漏れが起こらなくなり、供給した燃料を全て発電に用いることができるようになりました。

図3

図3 多孔質ステンレス鋼基板上に積層したジルコニア電解質の表面SEM写真
(a) ナノ粒子無添加、(b) ナノ粒子添加

ポーライトが開発した多孔質金属基板と、産総研が開発したSOFC製造プロセスを組み合わせて、実用サイズの金属支持SOFCを開発しました。図4は、開発した5 cm角金属支持SOFCの外観写真です。多孔質ステンレス鋼基板の上に、ニッケル触媒と電解質から成る燃料極と、ジルコニア電解質、導電性セラミックスから成る空気極などが、テープ成形やスクリーン印刷などの湿式法によって積層されています。ステンレス鋼基板の酸化を抑制するため、低酸素分圧下、かつ従来のSOFCより低い温度で焼結を行うことによって作製しました。今回は5 cm角の金属支持SOFCを試作しましたが、多孔質ステンレス鋼基板のプレス成形機のスケールアップによって、さらなる大型化も可能です。

図4

図4 5 cm角金属支持SOFC(左:電解質側、右:多孔質ステンレス鋼基板側)

図5は、図4の金属支持SOFCの一部分を用いて、電解質の上に直径6 mmの空気側電極を積層して評価した550~750 ℃における燃料電池特性です。左軸の電圧(白抜きの印)と横軸の電流密度の積が、右軸の出力密度(塗りつぶしの印)になり、出力密度が大きいほど燃料電池の性能が良いことを表しています。図5(a)の電解質ナノ粒子無添加のセルでは、電流密度0 A/cm2における開回路電圧(OCV)は0.9 V以下と理論起電力(1.0~1.1 V)より低く、燃料の一部が空気側へ漏れていることを示しています。図5(b)の電解質ナノ粒子添加のセルでは、OCVが1 V以上となり、750 ℃において実用レベルである0.6 W/cm2の出力密度を得ることに成功しました。この金属支持SOFCは、今後モビリティなどさまざまな用途で用いられることが期待されます。

図5

図5 金属支持SOFCの発電特性 (a) ナノ粒子無添加セル、(b) ナノ粒子添加セル

今後の予定

自動車やドローンなどのモビリティでは、SOFC強靭化に加えて、急速起動性も求められます。今回開発した金属支持SOFCは、750 ℃で0.6 W/cm2の出力密度が得られましたが、より低温で同程度の性能が得られれば、昇温にかかる時間を短縮することができます。また、コストを下げるためには、電極材料などの長寿命化が不可欠です。今後は、電極の改良などによって、長寿命で、低温でも高出力密度が実現する金属支持SOFCを開発するとともに、大型化・量産化に向けた検討を行います。


用語解説

粉末冶金
金属の粉末を金型に入れて圧縮して成形し、高温で焼結して精度の高い部品を作る技術。セラミックスも同様の方法で作製されることが多いため、金属の上にセラミックスを積層する金属支持SOFCに適した製法といえる。[参照元へ戻る]
多孔質
細孔が非常に多く空いている状態。金属支持SOFCでは、金属基板の上に積層した電極まで燃料ガスなどを供給する必要があるため、多孔質であることが求められる。[参照元へ戻る]
固体酸化物形燃料電池(SOFC)
ジルコニア(ZrO2)などセラミックスで構成される燃料電池。Solid Oxide Fuel Cellの略。温度が高いほどジルコニア電解質のイオン導電率が高いため、600~900 ℃の高温で作動し、他の燃料電池よりも高い発電効率が期待されている。[参照元へ戻る]
電解質
イオンが伝導する材料。SOFCの電解質は酸化物イオン(O2-)が伝導し、電子はほとんど伝導しない。燃料電池は、イオン化した際に放出された電子が外部回路を通ることによって発電することができる。[参照元へ戻る]
燃料極
SOFCにおいて、酸化物イオンと水素を反応させて水を生成するための材料。一般的にニッケル触媒とジルコニア電解質の多孔質混合材料が用いられる。[参照元へ戻る]
焼結
金属やセラミックス粉末原料などを圧縮などによって成形体とし、融点以下の温度で熱処理することにより、粉体粒子同士が接合し、焼結体と呼ばれる一つの緻密な固体になる現象。[参照元へ戻る]
ナノ粒子
数~数十ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)の大きさをもつ粒子。SOFCの原料には数百ナノメートル~数マイクロメートル(1マイクロメートルは100万分の1メートル)の粒子が用いられることが多いが、これより小さな粒子を用いることによって、より緻密質な電解質が得られる。[参照元へ戻る]
インターコネクター
複数のセルを電気的に直列接続するとともに、燃料と空気を分けて供給するための部材。セパレーターとも呼ばれる。[参照元へ戻る]
緻密質
細孔が空いていない状態。供給した燃料と空気が直接燃焼することを避けるために、電解質は緻密質であることが求められる。[参照元へ戻る]
空気極
SOFCにおいて、酸素分子を酸化物イオンへ変化させるための材料。一般的に、ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造をもつ(La,Sr)(Co,Fe)O3-δなどの導電性セラミックスが用いられる。[参照元へ戻る]
開回路電圧(OCV)
外部負荷を接続していない時の電圧。Open Circuit Voltageの略。SOFCでは、燃料と空気に含まれる酸素の分圧差によってOCVが発生し、外部負荷を接続すると電流が取り出せるようになる。[参照元へ戻る]

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