国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)無機機能材料研究部門【研究部門長 淡野 正信】機能集積化技術グループ 鷲見 裕史 主任研究員と、株式会社アツミテック【代表取締役 中島 和美】(以下「アツミテック」という)は、共同でコンパクトハイパワー燃料電池システムを開発した。
固体酸化物形燃料電池(SOFC)の内部で瞬時に効率よく液化石油ガス(LPG)の部分酸化改質やエタノールの水蒸気改質ができるナノ構造電極材料や運転制御技術を開発し、発電システムの出力や耐久性を向上させた。これにより、災害などの非常用に加え、移動体レンジエクステンダーやロボット、ドローンなどの常用電源への応用が期待される。
なお、この技術の詳細は、平成29年2月15~17日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催される「nano tech 2017 第16回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」の産総研ブースにて展示される。
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今回開発したコンパクトハイパワー燃料電池システムの外観と応用イメージ |
SOFCは燃料電池の中で最も高い発電効率が期待されている。近年、家庭用コージェネレーション(熱電併給)システム「エネファーム」が商品化され、業務用発電システムも開発が進められている。しかし、これまでの研究開発は主に定置型が対象であり、燃料としてメタンが主成分である都市ガスが用いられるケースがほとんどであった。産総研では、これまで災害・非常用電源向けにLPGで発電できるハンディ燃料電池システムの開発を進めてきた。近年、IoTデバイスや移動体などのレンジエクステンダー、ロボットやドローンなどの開発・普及が見込まれる中、液体燃料でも発電でき、よりコンパクトで高出力のSOFCが望まれている。
産総研は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」という)プロジェクト「セラミックリアクター開発(平成17~21年度)」にて、400~600 ℃の低温で作動するマイクロチューブSOFCを開発し(平成21年9月10日 産総研プレス発表)、アツミテックと共同で参画した国立研究開発法人 科学技術振興機構(以下「JST」という)独創的シーズ展開事業「熱電シナジー排ガス発電システム(平成18~23年度)」では、排ガス中の未燃成分を燃料としたSOFCと排熱で駆動する熱電素子を組み合わせた発電システムを開発した(平成25年5月7日 JSTプレス発表)。さらに、LPGカセットボンベで発電できる「ハンディ燃料電池システム」を実証し(平成25年1月28日 産総研プレス発表)、NEDOプロジェクト「固体酸化物形燃料電池等実用化推進技術開発/次世代技術開発/マイクロSOFC型小型発電機(平成25~26年度)」で量産化に向けた基礎的検討を行った。これらの成果を活用し、今回アツミテックと共同で出力や耐久性を向上させた「コンパクトハイパワー燃料電池システム」の開発に取り組んだ。
温室効果ガス排出量のさらなる削減に向けて、余剰再生可能エネルギーをエネルギーキャリアなどの形にして有効活用することが求められている。今後は、燃料種のさらなる拡充や燃料電池モジュールの高出力化、耐久性向上について引き続き検討する。また、今回開発した燃料電池モジュールや燃料電池システム技術を企業へ橋渡しし、さまざまな用途への展開を進めるための実証試験を行う。