国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 石村 和彦】(以下「産総研」という)人工知能研究センター【研究センター長 辻井 潤一】と株式会社 日立製作所【執行役社長兼CEO東原 敏昭】(以下「日立」という)は、人や自動車などの移動体(Moving Features)の位置情報の時間変化を表すOGC Moving Features Encodingを拡張した新たな移動体データ形式「Moving Features Encoding Extension – JSON(MF-JSON形式)」を、地理空間情報の国際標準化団体Open Geospatial Consortium(OGC)に共同で提案し、国際標準仕様として採択された。
自動運転や防災、公衆衛生対策などでは、人や自動車などの移動データを流通・共有することの重要性が広く認められているものの、統一的なデータ形式がなかったため、異なるシステム間での円滑なデータ連携を図る方法が求められていた。これまで産総研と日立は、移動体の位置情報の流通・利活用を促進するための標準化活動をOGCにおいて推進してきた。今回、既存のOGCデータ交換形式の問題点を改善し、より簡潔に記述できウェブ環境で利用しやすいデータ形式「JSON」を用いたMF-JSON形式を提案し、OGCの国際標準仕様として2020年2月に採択、6月に公開された。本MF-JSON形式により、GPSからの人流データ(点形状)や、道路交通渋滞情報(線形式)、洪水浸水区域の拡大(面形状)、自動車の走行(立体形状)などの動的な地理空間情報が記述できる。多様な移動体情報をより高精度に共有できるため、さまざまな業界における人やモノの移動データの普及や利活用拡大が期待される。
移動データに関する国際標準OGC Moving Featuresとその適用事例
通信技術やGPSなどの測位を始めとするセンサー技術の発展に伴い、人やモノといった移動体の時間によって変化する位置情報(移動データ)の収集が容易になった。こうした移動データを共有・利用することで、人々の移動状況や密接度などの時間的・空間的な分析に即したマイクロマーケティングや、ロボットを利用した災害時の効率的な避難誘導、細街路を活用する超小型車両交通システムなど新たなサービスへの応用が期待されている。しかし、従来、移動データの標準的な交換形式がなかったため、それぞれのシステムが異なるデータ形式を使用しており、システム間の相互連携に問題があった。国際標準化機構ISO(International Organization for Standardization)による移動体を対象にしたデータに関する国際標準規格はあるものの、抽象的なデータモデルであり実用的なデータ交換に必要なデータ形式は提供されていなかった。
産総研は、2016年から日立などが提案し設立したOGCのMoving Features Standards Working Groupに参加し、移動データに関する国際標準仕様の開発に取り組んできた(2017年3月13日産総研プレス発表など)。
なお、本研究開発は、その一部が国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託研究「次世代ロボット中核技術開発/次世代人工知能技術分野/人間と相互理解できる次世代人工知能技術の研究開発」にて行われた。
今回開発したMF-JSON形式は、既にOGCで採択されていたMoving Featuresのデータ交換形式であるXML形式よりもデータの記述量が少なく、またCSV形式よりもさまざまな移動体を記述できる新たなデータ交換形式である。点形状の0次元移動体、線形状の1次元移動体、面形状の2次元移動体、立体形状の3次元移動体、さらにはそれら複数の移動体からなる集合の動きなど、空間解像度や時間解像度が異なるさまざまな移動体の時々刻々変化する位置情報を記述できる。また、気温、カメラ画像、速度といったセンサーにより取得される時系列データを、移動体の動的な属性情報として一体的に記述できる。これらにより、自動運転のような次世代スマートモビリティーを支えるデータ基盤となる産総研「次世代人工知能データプラットフォーム」では、GPS ログなどから得られる人・自動車・自律ロボットなどの移動体の移動データの蓄積・共有・予測を実現している。
MF-JSON形式は具体的には、GPSから提供される点形状の0次元移動体の単純な移動データを記述するMF-JSON Trajectory形式と、さまざまな形状の移動体の複雑な動きの移動データを表現できるMF-JSON Prism形式の2つの形式から構成されている。前者のMF-JSON Trajectory形式は、地理空間情報分野でオープンなデータ交換形式として広く利用されているGeoJSONを拡張し、時間変化の記述を可能としたデータ表現仕様である。図1に、自動車を0次元移動体として記述した移動データと、その速度や移動状況などの属性情報の値の変化を示すMF-JSON Trajectory形式の例を示す。
図1 2次元地図上でマッピングされたMF-JSON Trajectory形式の点形状の車の移動データの例
(移動軌跡データや時間変化する属性情報を簡潔に記述)
一方、MF-JSON Prism形式は、高さを含むさまざまな形状、例えば、立体形状の3次元CAD(Computer-Aided Design)モデルや3次元LiDAR(Light Detection And Ranging)データなどの向き(orientation)を含む動きを記述できる新しいデータ形式である。図2に、立体形状を持つ自動車の移動データをMF-JSON Prism形式で表現した例を示す。これにより、MF-JSON Trajectory形式では表現できない、より精緻な3次元時空間データやその動きの表現を必要とする自動運転のようなスマートモビリティー、現実環境とデジタル情報を融合した拡張現実トレーニングなどの分野で、移動データの利活用拡大につながることが期待される。
図2 3次元地図上でマッピングされたMF-JSON Prism形式の立体形状の車の移動データの例
(移動軌跡や車両向きを一体的に表現)
今後は、自動運転や移動ロボット、ドローンなどの安全・安心な移動の支援に加え、工場・倉庫の作業員の作業改善、公共施設・駅構内の混雑緩和などにおける移動データの時空間パターン分析のサービスインターフェースに関する国際標準化を図る。
OGC Moving Featuresのホームページ
http://www.opengeospatial.org/standards/movingfeatures/