国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質調査総合センター【総合センター長 矢野 雄策】 研究戦略部 国際連携グループ付 宝田 晋治らは、東・東南アジア地球科学計画調整委員会(CCOP)の加盟国と共同で、東・東南アジア地域の各種地質情報の共有化を可能とするCCOP地質情報総合共有システム(以下「本システム」という)を開発した。
CCOP地質情報総合共有(CCOP Geoinformation Sharing Infrastructure for East and Southeast Asia: GSi)プロジェクト(以下「本プロジェクト」という)は、CCOP各国が保有する各種地質情報(地質図、地震・火山災害、地質環境、地下水、地球物理、地球化学、リモートセンシング、鉱物資源など)の数値化を進め、国際標準形式でウェブ公開し、東・東南アジア地域の地質情報の総合的なデータ共有システムの構築を目的としており、2015~2020年を実施期間とする。本プロジェクトは、産総研 地質調査総合センターの研究成果・手法を“国際標準”としてアジアに展開するとともに、全世界地質図提供プロジェクトOneGeologyなどの各種の国際プロジェクトとの連携を図り、東・東南アジア地域の情報発信の推進役を果たすことを目指している。
なお、本システムは、2018年9月18~20日にマレーシアのランカウイで開催される第3回CCOP地質情報総合共有プロジェクト国際ワークショップで、正式公開される。
東・東南アジア地域のCCOPに加盟する各国の地質調査機関では、これまで長年にわたり、地質図を始め、多くの地質情報を出版している。しかし、それらはまだ紙ベースであることが多く、電子化されていても一部が画像データやPDFデータとして公開されていることがほとんどであり、それらを利用するには、さまざまな障壁があった。近年、各国で地質関連情報を地理情報システム(Geographic Information System、GIS)により数値化し、利用することが広がってきたが、多くの場合これらの数値化データは、各地質調査機関内部での利用にとどまることが多く、広く一般には公開されていなかった。そのため、各国の地質調査機関が保有する各種地質情報について数値化を促進し、国際標準形式で共有化する本プロジェクトを、2015年に産総研 地質調査総合センターが主導し立ち上げた。
本プロジェクトは、2014年10月にパプアニューギニアで開催されたCCOP管理理事会で、日本が提案し了承されたCCOPの主要プロジェクトの1つである(図1)。2015年9月にタイでキックオフ会合が開かれ、カンボジア、インドネシア、日本、韓国、ラオス、マレーシア、ミャンマー、パプアニューギニア、フィリピン、タイ、ベトナムの11カ国から23名の代表が参加し、本プロジェクトの目標、今後の計画、データポリシーなどを合意した。2016年9月にインドネシアで第1回国際ワークショップを開催し、暫定共有システムへのデータ掲載の技術講習、各国の5年間のデータ整備計画を検討した(9カ国から47名参加)。2017年12月にラオスで第2回国際ワークショップを開催し、システムの開発についての討論や、モバイル版の技術講習を行った(10カ国から22名参加)。
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図1. CCOP地質情報総合共有プロジェクトの概念図 |
本プロジェクトは、(1) 地質情報の共有化、(2) 地質情報の社会への還元、(3) 国際標準化、(4) 各国スタッフの能力向上、を目的としている。CCOP各国が保有する各種地質情報の数値化・高度化・アーカイブ化を進め、各国が協調して、東・東南アジア地域における地質情報の総合データベースの構築を進めている。本プロジェクトにより、社会に役立つ情報の提供、ユーザーからのアクセス性の向上、地質災害・環境・資源関連情報の提供、各種アウトリーチ活動での利用、が図られる。本システムは、Open Geospatial Consortium(OGC) による国際標準技術を用いており、相互運用性の向上、他のOneGeologyなどの国際プロジェクトとの連携などが期待できる。また、オープンソースであるため維持管理が容易である。さらに、WebGISやデータベース構築技術の普及、各国スタッフへの教育、講習会やマニュアルによる技術移転などを進めている。
本システムは、CCOP各国の地質関連データを共有する総合プラットフォームとなっており、比較的簡便に、地質関連データをシステムに掲載する機能を提供している。現在、地質図、地震、火山、地質災害、環境、地球物理、地球化学、地下水、地熱、リモートセンシング、地形図など、全部で428のデータが掲載されている。また、国ごとやプロジェクト単位でポータルサイトを作成する機能がある。現在、各国のポータルサイトの他、ASEAN鉱物資源データベース、CCOP地下水プロジェクト、OneGeologyプロジェクト(アジア版)など19のポータルサイトがある(図2)。 さらに、モバイルデバイス用のサイトも用意されている。作成中のデータなどについては、アクセスコントロール機能により、関係者だけが閲覧できるような仕組みを提供している。
本システムでは、東・東南アジア地域の地質や地震、津波、火山関連の情報、鉱物資源、地下水、地熱などの資源関連情報、衛星画像データなどが閲覧できる。また、GISソフトウェア上で重ね合わせて利用できるため、各方面でさまざまな目的での利用が可能である。例えば、海外に進出予定の企業が現地の地質・災害・鉱物資源・地下水などの情報を入手して事前の検討を行う、大学や研究機関での地質関連の研究に役立てる、ジオパークや教育機関で利用する、一般旅行者が利用するなどの用途が期待できる。
本プロジェクトでは、さらにデータを拡充し、データの質と量の充実化を図り、また、システムの機能向上、講習会の開催による各国スタッフの能力向上を図る予定である。本システムは、CCOP加盟国(14カ国)で現在行われている各種プロジェクトの成果を公開するための標準プラットフォームとしても利用される予定である。また、OneGeologyなどの各種の世界的なプロジェクトと連携し、東・東南アジア地域の地質関連情報が広く世界で活用されるようにしていく。そして、産総研 地質調査総合センターが中核となり、東・東南アジア地域の総合データベースとして、広く活用されるシステムとして、発展させていく計画である。