国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)ナノチューブ実用化研究センター【研究センター長 畠 賢治】CNT用途チーム 堅田 有信 特定集中研究専門員、電子光技術研究部門【研究部門長 森 雅彦】分子集積デバイスグループ 周 英 研究員、物理計測標準研究部門【研究部門長 中村 安宏】電磁気計測研究グループ 堀部 雅弘 研究グループ長、加藤 悠人 研究員らは、スーパーグロース法で作製した単層カーボンナノチューブ(SGCNT)をフィラー(添加材)として、常温大気硬化型液状ゴム中に分散させた電磁波遮蔽コーキング材を開発した。このコーキング材は、金属などの遮蔽材間の隙間や溝に密着性良く塗布・充填でき、常温大気下で硬化する。このコーキング材の硬化後は金属との接着性も高く、電磁波の侵入を防ぎ、また、遮蔽材の振動や微小変形により生じる遮蔽材間の隙間や溝の振動やひずみを割れずに吸収できる。
この技術は2018年2月14日~16日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催されるnano tech 2018 第17回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議で展示される。
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今回開発した電磁波遮蔽コーキング材
(A:硬化前、B:硬化後) |
近年、無線通信の発達に伴い、電磁波を通信に利用する電子機器が増加している。それに伴い、これらの電子機器が周囲からの電磁波に干渉を受けて誤動作をする危険性や、自ら発する電磁波により情報漏えいしてしまう危険性が生じている。これらの危険性を低減させるためには、電子機器自体から発せられる不要な電磁波を遮蔽することはもちろんであるが、電子機器を設置する空間における電磁波隔離・遮蔽技術も求められている。空間、例えば部屋の電磁波を隔離・遮蔽するために、部屋の床、壁、天井、窓、扉などに電磁波遮蔽材が用いられている。しかし、それらのつなぎ目に隙間ができると、その隙間から電磁波が漏れて遮蔽が不十分になる。そのため、隙間充填性や金属接着性に優れ、割れにくい電磁波遮蔽コーキング材の開発が求められていた。
産総研ではSGCNTを開発し、ゴム材料に分散させる際に、SGCNTが網目状に広がる技術を確立し、わずかな量のSGCNTの添加で高い電気伝導性を持つSGCNTゴム複合材料を開発したり、30 dB以上の高い電磁波遮蔽能を持ち、複雑な形状のさまざまな基材表面に塗布膜を形成できるSGCNT系水性塗料の開発に取り組んできた。(2011年10月12日、2017年6月12日産総研プレス発表)
今回産総研のCNT複合材料研究拠点では、これまでに開発したSGCNTの分散技術や複合材料作製技術を活用して、常温大気硬化型液状ゴムにSGCNTをフィラーとして分散、複合化させた電磁波遮蔽コーキング材の開発に取り組んだ。
このコーキング材は、常温大気下で硬化する液状ゴムを母材としているため、ヘラや、シリンジ、コーキングガンを用いて、隙間や溝に密着性良く塗布・充填できる。塗布・充填後は常温大気下で硬化するため、それらの隙間や溝をゴムとして埋めることができる。さらに、図1に示すように、硬化後のコーキング材は、金属などの電磁波遮蔽材との接着性にも優れる。
今回開発した電磁波遮蔽コーキング材と、これまで漏えい電磁波対策に用いられてきたカーボン系コーキング材(既存品-1)、スチールウール(既存品-2)、銀系粘土パテ(既存品-3)とを比較した結果を表1にまとめた。
今回開発のコーキング材は、電磁波を遮蔽できるSGCNTを分散しているので、ゴムの硬化後5 mm程度の厚みで金属並みの60 dBという電磁波遮蔽能を示す。パテと異なり、ゴムの性質によって遮蔽材の振動や微小変形時にも割れることが無く、振動や微小変形から生じる遮蔽材間の隙間や溝のひずみ、振動を吸収する。スチールウールとも異なり、シーリング性にも優れる。このように、今回開発の電磁波遮蔽コーキング材は、さまざまな既存品に比べて、操作性においても物性においてもバランス良く良好な性質を示すという特長を持つ。
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図1:今回開発した電磁波遮蔽コーキング材(赤矢印部)の様子
A:金属板間に充填し、硬化した状態
B:硬化後、硬度測定時の様子
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表1 |
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nano tech 2018 第17回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議に出展し、企業からの相談に応じて評価用のサンプルを提供する予定である。