国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)電池技術研究部門【研究部門長 谷本 一美】エネルギー材料研究グループ 徐 強 上級主任研究員とプラディープ パッチファルJSPS特別研究員らは、配位高分子を原料として用いて、棒状やリボン状に形状制御されたナノ炭素材料であるカーボンナノロッドとグラフェンナノリボンの新しい合成法を開発した。
今回開発した合成法は従来の合成法と比べて、通常の化学反応や熱処理以外の複雑な工程を必要とせず、簡便かつ高い収率でカーボンナノロッドやグラフェンナノリボンを合成できる。また、作製したカーボンナノロッドとグラフェンナノリボンは、キャパシターの電極材料への応用など、高効率なエネルギー貯蔵・変換に寄与することが期待される。さらに、今回開発した技術はナノ炭素材料の新しい合成法として、幅広い応用が期待される。
なお、今回の成果の詳細は、2016年5月9日(英国時間)に英国科学誌Nature Chemistryのオンライン版に掲載される。
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配位高分子を原料として用いたカーボンナノロッドとグラフェンナノリボンの合成法 |
カーボンナノチューブやグラフェンなどの1次元や2次元のナノ炭素材料は、高導電性、柔軟性などの機能性を持ち、触媒の担体やエネルギー貯蔵・変換デバイスの基盤材料への応用が期待されている。とりわけ、カーボンナノロッドやグラフェンナノリボンは、新しい1次元や2次元のナノ炭素材料として近年注目されている。しかし、これまでその合成工程は複雑で多量のエネルギーを消費してしまうため、高効率、簡便で、大量生産できる合成法が求められていた。
配位高分子は、多数の金属イオンと有機配位子が連結されたジャングルジムに類似した構造の新しい固体材料である。近年、内部に規則的に並ぶナノメートルサイズの細孔を有用な空間として利用する研究開発が世界中で行われている。
産総研はこれまで、配位高分子の新しい応用の開発に取り組み、多孔性の配位高分子を担体として用いて高活性金属ナノ粒子触媒(2012年11月27日 産総研主な研究成果)や配位高分子を原料や鋳型として用いた多孔質の炭素材料の合成法を開発した。今回、配位高分子を原料に用いたカーボンナノロッドとグラフェンナノリボンの開発に取り組んだ。
今回の研究開発は、独立行政法人 日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業 基盤研究(B)「高機能性ポーラス炭素の創成とエネルギー貯蔵への応用に関する研究」(課題番号 26289379、平成26年度~28年度)の支援を受けて行った。
これまでのグラフェンナノリボンの合成法は、電気化学処理やプラズマエッチングなどによるカーボンナノチューブの剥離・展開によるものであり、工程が複雑な上、収率が低いなどの課題があった。そこで今回、配位高分子を原料とした簡便な方法でカーボンナノロッドを経由してグラフェンナノリボンを高収率に合成する方法を開発した。
金属塩(酢酸亜鉛)と、金属塩を連結できる有機配位子として2,5-ジヒドロキシテレフタル酸(架橋配位子)から配位高分子を合成する際に、配位高分子の特定方向の成長を抑制するために、金属塩を連結できない配位子(非架橋配位子)であるサリチル酸を加えた。これによって、棒状の配位高分子を合成できた。この棒状の配位高分子を、不活性気体中で1000 °Cで処理すると、棒状の形状が保持されたカーボンナノロッドが形成された。さらに、カーボンナノロッドを水酸化カリウム(KOH)水溶液中で超音波処理を行った後、不活性気体中で800 °Cの熱処理による活性化を行うと、カーボンナノロッド中で棒状に積層したグラフェンが解きほぐされて、グラフェンナノリボンが生成された。透過型電子顕微鏡(図1)や原子間力顕微鏡などを用いた観察の結果、棒状のカーボンナノロッドや、2~6層のグラフェンからなるグラフェンナノリボンが高い収率で形成されていることが確認された。
今回開発した合成法により、高収率、簡便にカーボンナノロッドやグラフェンナノリボンを合成でき、また、通常の化学反応や熱処理以外の複雑な工程を必要とせず、大きなスケールでの生産が可能となる。
図2に示すように、今回開発したカーボンナノロッドとグラフェンナノリボンは、通常キャパシターの電極材料に用いられるミクロポーラスカーボンよりも優れた充放電特性を有する、つまり多くのエネルギーを蓄えることができる。これは、今回の合成法で作成したカーボンナノロッドとグラフェンナノリボンの、高効率なエネルギー貯蔵材料としての可能性を示している。
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図1 (a)カーボンナノロッドと(b)グラフェンナノリボンの透過型電子顕微鏡像 |
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図2 今回の合成法で作製したカーボンナノロッド、グラフェンナノリボンと通常用いられるミクロポーラスカーボンを電極材料としたキャパシターの定電流充放電特性(電流密度50 mA/g)
セル電圧のピーク(1.0ボルト)までが充電、それ以降が放電を示す。電流密度が同じ場合、ミクロポーラスカーボンに比べてグラフェンナノリボン、カーボンナノロッドの方が長い時間充放電できる、つまり多くのエネルギーを蓄えられることを示している。 |
今後、今回開発された手法を用いて、形状制御された配位高分子を原料としたさまざまなナノ炭素材料の開発を進める。これらは触媒の担体やエネルギー貯蔵・変換デバイスの基盤材料への応用が期待されており、環境やエネルギー技術に資する多様な高機能性材料の開発につなげていく予定である。