発表・掲載日:2015/09/17

メタン-アンモニア混合ガスと100 %アンモニアのそれぞれでガスタービン発電に成功

-水素キャリアとしてのアンモニアを発電所の燃料に-

ポイント

  • メタン-アンモニア混合ガスをガスタービンで燃焼させ、41.8 kWの発電に成功
  • 100 %のアンモニアガスを燃焼させ、41.8 kWのガスタービン発電にも成功
  • 水素キャリアとしてのアンモニアを利用する技術の進展や温室効果ガスの大幅削減に貢献


概要

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)再生可能エネルギー研究センター【研究センター長 仁木 栄】水素キャリアチーム 辻村 拓 研究チーム長、壹岐 典彦 研究チーム付は、総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「エネルギーキャリア」(管理法人:国立研究開発法人 科学技術振興機構【理事長 中村 道治】(以下「JST」という)の委託研究において、国立大学法人 東北大学【総長 里見 進】(以下「東北大」という) 流体科学研究所との共同研究により、アンモニアを燃料とした41.8 kWのガスタービン発電に成功した。

 アンモニアは水素含有量の多い水素キャリアとして注目され、特に発電用燃料として期待されている。今回、メタンとアンモニアの混合ガスを用いたガスタービン発電に成功し、天然ガスを燃料とする大型の火力発電所でのアンモニア混焼による発電の可能性を示した。さらに、二酸化炭素(CO2)フリーの大型火力発電に繋がる100 %アンモニア燃焼(アンモニア専焼)による発電にも成功した。これらの成果は、発電分野における温室効果ガスの大幅な削減に寄与する技術として実用化が期待される。

 なお、この技術の詳細は、2015年9月20~23日に米国イリノイ州で開催されるNH3 Fuel Conference 2015および2015年11月16~18日に茨城県つくば市で開催される第53回燃焼シンポジウムで発表される。

供給燃料の切り替えと発電出力の変化(メタン-アンモニア混焼(左)、アンモニア専焼(右))の図
供給燃料の切り替えと発電出力の変化(メタン-アンモニア混焼(左)、アンモニア専焼(右))


開発の社会的背景

 2015年は日本における「水素元年」と呼ばれるほど水素エネルギーが注目されている。また、再生可能エネルギーの大量導入・利用への期待がこれまで以上に高まる中で、水素や水素キャリアは、エネルギーの貯蔵や輸送用の媒体として重要である。水素キャリアは、水素を多く含んだ化学物質の形でエネルギーをより簡便に貯蔵・輸送を行うための媒質であり、有機溶媒に水素を着脱して用いる有機ハイドライド(メチルシクロヘキサンなど)や、窒素と水素から合成し、直接燃焼して用いるアンモニアなどがある。

 アンモニアは炭素を含まず、かつ水素の割合が多い水素キャリアとして特に注目されており、発電用燃料としての利用が期待されている。さらに、アンモニアは燃焼しても主に水と窒素しか発生しないことから、従来の燃料の一部をアンモニアに置き換えるだけでも、CO2排出量の削減効果が大きい。

研究の経緯

 産総研では、再生可能エネルギーの大量導入を支える水素キャリアの研究開発を推進しているが、東北大の流体科学研究所と連携して、アンモニアを直接燃焼させてガスタービンで発電する技術の開発にも取り組んでいる。アンモニアは一般の燃料より着火しにくく、また燃焼速度も遅いなどの課題があり、アンモニアを燃料とするガスタービン発電はこれまで行われていなかった。しかし、アンモニアの発電用燃料としてのポテンシャルを示すため、さまざまな燃料を利用できるガスタービンを用いた発電の実証試験を行った結果、2014年には灯油にアンモニアを約30 %混焼させ、21 kWの発電に成功した(2014年9月18日 産総研・JST共同プレス発表)。

 その後、アンモニアをメインの燃料としたガスタービン運転を目指した技術開発を進め、このたび、大流量のアンモニア供給設備とメタン供給設備を整備して、アンモニアをメインの燃料としたガスタービン発電の実証試験を行った。実証試験は産総研の福島再生可能エネルギー研究所(福島県郡山市)において実施した。

 なお、本研究開発は、2014年度からスタートした内閣府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「エネルギーキャリア」【プログラムディレクター 村木 茂】の研究テーマ「アンモニア直接燃焼」【研究責任者 小林 秀昭】の研究題目「アンモニア内燃機関の技術開発」【研究担当者 壹岐 典彦】の中で行っている。

研究の内容

 燃焼試験に使用したマイクロガスタービン発電装置を図1に示す。発電装置は、2014年に製作した灯油-アンモニア混焼に用いた燃焼器に対して、メタンおよびアンモニアガス双方を大流量かつ安定に供給できる設備を整備するとともに、ガスタービンの燃料流量制御プログラムを改良して灯油、アンモニア、メタンのうち2系統まで任意の組み合わせで燃料供給を行えるようにした。その結果、定格出力が50 kWのガスタービン発電装置を用いて、メタン-アンモニア混焼およびアンモニア専焼により約80 %出力の41.8 kW発電に成功した。また、燃焼後の窒素酸化物(NOx)を含んだ排出ガスに適量のアンモニアを添加し、脱硝装置で処理することでNOxを環境省の排出基準(16 %酸素(O2)換算で70 ppm)に十分適合できる10 ppm未満(16 %O2換算で25 ppm未満)までに抑制できた。

アンモニアを直接燃焼できるマイクロガスタービン発電装置の写真
図1 アンモニアを直接燃焼できるマイクロガスタービン発電装置

 メタン-アンモニア混焼試験では、液体燃料用の噴射弁に灯油を供給してガスタービンを起動した。回転数が速やかに上昇した後、回転数75000 rpmで維持しながら発電を開始した。回転数が安定した状態で26 kWの発電を行った後、気体燃料用の噴射弁にメタンを供給してメタン燃焼を行い、灯油供給を停止した。続いてメタンにアンモニアを体積流量比1:2.5(発熱量で1:1)になるまで混合しても安定に発電できた。その後、燃料供給と回転数を制御しながら発電出力を段階的に増大させ、定格回転数の80000 rpmで41.8 kWを達成した(図2)。

メタン-アンモニア混焼試験の燃料供給と発電出力の変化の図
図2 メタン-アンモニア混焼試験の燃料供給と発電出力の変化

 また、アンモニア専焼試験では灯油を供給してガスタービンを起動した後に、アンモニア供給量を増やしてアンモニア専焼に移行したうえで出力を確認したところ、定格回転数の80000 rpmで発電出力41.8 kWを達成した(図3)。

 これらの試験結果は、天然ガスを主な燃料とする大型火力発電所において、燃料の一部をアンモニアに置き換えるといった段階的な導入や、アンモニア専焼によるCO2フリーの大型発電の可能性があることを意味し、温室効果ガスを大幅に削減できる、水素キャリアとしてのアンモニアのポテンシャルを示している。

アンモニア専焼試験の燃料供給と発電出力の変化の図
図3 アンモニア専焼試験の燃料供給と発電出力の変化

 また、いずれの試験においても燃焼後の排出ガスにアンモニアを適量添加することによりNOxを脱硝装置で処理して排出量を10 ppm未満に削減できた。アンモニア専焼では、未燃アンモニアが11 ppm残留したが脱硝装置の下流では検出されなかった。メタン-アンモニア混焼では同じ発電条件でも 未燃アンモニアは残留せず、アンモニア専焼よりも燃焼が強化されていることが明らかになった。

今後の予定

 今後は、メタン-アンモニア混焼と、アンモニア専焼によるガスタービンの特性を詳細に調べ、燃焼強化と低NOx燃焼ならびに実用アンモニア発電システムの実現につながる知見を得て、その技術を実証する計画である。



用語の説明

◆アンモニア
分子式が NH3で表される窒素と水素の化合物。常温常圧では無色の気体で、特有の強い刺激臭を持つ。水素を高い割合(重量で18 %)で含む水素キャリアの一種で、加圧することで容易に液化し(20 ℃では8.5気圧で液化)、貯蔵・輸送が比較的容易であるため、その利用が期待されている。水素と窒素からの合成に高温高圧を必要(従来法では200気圧、400 ℃以上)とすることや、直接燃焼による利用では排気からNOxを除去することが必要であるなどの課題があり、実用化に向けた研究が進められている。[参照元へ戻る]
◆ガスタービン
原動機の一種であり、燃料の燃焼により高温高圧のガスを発生させて回転翼を回して回転運動エネルギーを得る内燃機関である。ジェットエンジンなどの航空用や天然ガス火力発電用などの用途がある。[参照元へ戻る]
◆水素キャリア
水素は、燃料電池を用いて電気への変換が容易で、燃焼による二酸化炭素の発生がないなど、エネルギー・燃料として優れた性質を持つ。その水素を大量に貯蔵・輸送するための材料を水素キャリアという。[参照元へ戻る]
◆メタン
天然ガスや都市ガスの成分の9割程度を占める可燃性ガスであり、分子式が CH4で表される炭素と水素の化合物。[参照元へ戻る]
◆マイクロガスタービン
小型のガスタービンで、分散型(小型)発電の電源や熱も同時に供給するコージェネレーションなどに用いられている。[参照元へ戻る]
◆窒素酸化物(NOx)
一酸化窒素(NO)や二酸化窒素(NO2)などの窒素と酸素が化合してできるものの総称。光化学スモッグ、酸性雨の原因物質の一つであり、燃料が高温で燃焼することで空気中の窒素と酸素が結合して発生するサーマルNOxと、燃料中の窒素に由来するフューエルNOxがある。[参照元へ戻る]
◆脱硝装置
燃焼により生成される窒素酸化物を排気ガスから除去する装置。今回用いた装置はアンモニアの供給と触媒により、窒素酸化物を窒素分子(N2)と水(H2O)に転換している。[参照元へ戻る]
◆酸素(O2)濃度換算
実際に計測された排出ガスの各成分の濃度は、空気により希釈するとより低い濃度となる。このため、排出ガスを規制する際には、排出ガス中の酸素濃度を定めてその値になるように排出ガスに空気を混入した(もしくは排出ガスから空気を除いた)場合を仮定して換算した排出ガス濃度を用いる。[参照元へ戻る]


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