独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)再生可能エネルギー研究センター【研究センター長 大和田野 芳郎】水素キャリアチーム 辻村 拓 研究チーム長、壹岐 典彦 研究チーム付は、総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「エネルギーキャリア」(管理法人:独立行政法人 科学技術振興機構【理事長 中村 道治】(以下「JST」という))の委託研究において、国立大学法人 東北大学【総長 里見 進】(以下「東北大」という)との共同研究により、灯油の30 %相当をアンモニアで置き換えた状態で混焼し、21 kWのガスタービン発電に成功した。
アンモニアは水素含有量の多い水素キャリアとして期待されているが、今回、灯油(液体)とアンモニア(気体)を混合供給できる燃焼装置を試作して、アンモニアを燃焼しガスタービン発電に成功した。これは、アンモニアのエネルギー利用技術の大きな進展といえ、100 %アンモニアの燃焼による発電が期待される。
なお、この技術の詳細は、2014年9月21~24日に米国アイオワ州デモインで開催されるNH3 Fuel Conferenceで発表される。
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ガスタービンへの燃料供給と発電出力の変化 |
近年、再生可能エネルギーの大量導入・利用の際のエネルギー貯蔵・輸送用の媒体として、水素や水素キャリアへの期待が高まっている。水素キャリアは、常温常圧では気体の水素を、水素を多く含んだ化学物質に変換して、より簡便に貯蔵・輸送を行うための媒質で、有機溶媒に水素を着脱して用いる有機ハイドライト(メチルシクロヘキサンなど)や、窒素と水素から合成し直接燃焼して用いるアンモニアがある。アンモニアは炭素元素を含まず水素の割合が多い水素キャリアとして特に注目されており、発電用燃料としての利用に期待が高まっている。アンモニアは燃焼しても主に水と窒素しか発生しないことから、従来の燃焼燃料に一部アンモニアを置き換えるだけでも、二酸化炭素排出量の削減効果が大きい。
産総研は、再生可能エネルギーの大量導入を支える水素キャリアの研究開発を推進しているが、東北大と連携して、アンモニアを直接燃焼しガスタービンで発電する技術の開発にも取り組んでいる。アンモニアは一般の燃料より着火しにくく燃焼速度も遅いなど課題が多く、これまでアンモニアを燃料とするガスタービン発電は行われていなかった。しかし、アンモニアが水素キャリアとしての利用が期待される状況となり、発電用燃料としてのポテンシャルを示すため、さまざまな燃料を利用できるガスタービンを用いた発電の実証に取り組んだ。実証試験は産総研が平成26年4月に開設した福島再生可能エネルギー研究所(福島県郡山市)において実施した。
なお、本研究開発は、平成26年度からスタートした内閣府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「エネルギーキャリア」の中で取り組まれている。
図1に今回開発したマイクロガスタービン発電装置を示す。今回の技術は、液体と気体の二系統の燃料を供給できる燃焼器を試作し、それを用いて灯油とアンモニアを安定して混焼させるものである。定格出力50 kWのガスタービン発電装置を用い、約40 %出力の21 kW発電で約30 %相当のアンモニアを灯油に加えて混焼させ、灯油専焼とほぼ同じ出力での発電に成功した。また排出された窒素酸化物は、通常の脱硝装置に適量のアンモニアを供給することで10 ppm未満までに抑制でき、環境基準に十分適合していた。
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図1 アンモニア直接燃焼マイクロガスタービン発電装置 |
まず、灯油だけを供給してガスタービンを起動し、安定に21 kWの発電を開始した後、気体燃料を供給するガス配管に窒素-アンモニア混合ガスを供給してアンモニアの燃焼を開始し、徐々にアンモニアの比率を上げ、最終的には窒素供給を止めて、灯油-アンモニア混焼を実現した。発電出力を一定に制御する運転を行ったところ、アンモニア燃焼による発熱量分だけ、灯油の供給量を削減することができ、灯油の供給量を30 %削減した状態で21 kWの発電出力を安定に維持した(図2)。このようなアンモニアを燃料としたガスタービン発電の実証は世界でも初めてのものである。
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図2 ガスタービンへの燃料供給と発電出力の変化 |
今後、引き続きアンモニア比率を増加させた灯油-アンモニア混焼、天然ガス-アンモニア混焼やアンモニア専焼(CO2、すすフリー)での実証実験を行う予定である。
本分野の研究開発の一部は、平成25年度JST戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)の委託研究「アンモニア内燃機関の技術開発」において行われた。