独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)太陽光発電工学研究センター【研究センター長 仁木 栄】 太陽電池モジュール信頼性評価連携研究体 増田 淳 連携研究体長、原 浩二郎 主任研究員、ならびに先端産業プロセス・高効率化チーム 柴田 肇 研究チーム長、小牧 弘典 研究員、上川 由紀子 産総研特別研究員は、封止材をアイオノマーに替えることで、長期のPID (Potential-induced degradation)試験(AIST法)においても劣化が見られないCIGS太陽電池モジュールを開発した。
今回、メガソーラーで起こるPIDという劣化現象が、CIGS太陽電池モジュールにおいても起こるかどうか産総研独自のPID試験(AIST法)により検証した。その結果、CIGS太陽電池はシリコン系太陽電池に比べて劣化が大幅に小さく、高いPID耐性をもつことがわかった。出力低下の原因は、カバーガラスから拡散するナトリウムイオンなどであることを確認し、その上で、封止材のEVAをアイオノマーに替えることで、長期のPID試験(AIST法)においても劣化が見られない対策モジュールを開発した。今回の成果は、CIGS太陽電池モジュールのメガソーラーなどへのさらなる導入加速を後押しするものであり、太陽光発電システム全体の導入拡大や長期信頼性向上への貢献が期待される。
なお、この内容の詳細は、2014年3月17~20日に青山学院大学(神奈川県相模原市)で開催される第61回応用物理学会春季学術講演会で、独立行政法人 国立高等専門学校機構 久留米工業高等専門学校と連名で発表される。
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CIGS太陽電池モジュールの外観(左、12 cm × 12 cm)と
PID試験による各種太陽電池モジュールの出力相対値の変化(右) |
再生可能エネルギーによる電力の固定価格買取制度の開始により、日本国内でもメガソーラーなどの太陽光発電システムの導入が急速に拡大している。そのため、太陽電池モジュールの信頼性がますます重要となってきている。例えば、海外のメガソーラーでは、PIDと呼ばれる太陽電池モジュール・システムの出力が大幅に低下する現象が近年報告され、問題となっている。この現象は、長期間での経年劣化とは異なり、数カ月から数年の比較的短期間でも起こりうるとされている。そのため、低コストなPID対策技術を開発し、太陽電池モジュールのさらなる長期信頼性を実現することが強く求められている。
産総研 太陽光発電工学研究センター 太陽電池モジュール信頼性評価連携研究体(つくばセンター、九州センター)では、既存の太陽電池モジュールの劣化機構の解明、モジュールの信頼性向上のための新規部材やモジュール構造の開発、新たな評価技術の開発などをおこなってきた(2013年5月22日 産総研プレス発表など)。また、先端産業プロセス・高効率化チーム(つくばセンター)では、高効率のCIGS太陽電池を開発してきた(2013年9月26日 産総研プレス発表)。近年、太陽電池モジュール・システムの出力低下を引き起こすPID現象が問題となっているが、メガソーラーなどで普及が進んでいるCIGS太陽電池モジュールにおいてもPIDによる出力低下が起こるのかどうか検証した。
図1に、CIGS太陽電池の標準型モジュール(左)とPID対策モジュール(右)の構造を示す。 標準型モジュールは、カバーガラス(白板ガラス)、封止材のEVAフィルム、CIGSサブモジュール、バックシートを重ね合わせて、真空ラミネートすることにより作製した。また、対策モジュールは、封止材にEVAフィルムの替わりにアイオノマーフィルムを用いて、同様にモジュールを作製した。アイオノマーは高い体積抵抗率をもつことから、結晶シリコン太陽電池においても封止材に用いるとナトリウムイオンなどの拡散を防ぎ、高いPID耐性を示すことが知られている。
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図1 標準型モジュール(左)と対策モジュール(右) |
PID試験(AIST法)により、結晶シリコンならびに薄膜シリコン太陽電池モジュール、標準型CIGS太陽電池モジュールの太陽電池特性の変化を評価した(試験条件は、-1000 V、85 ℃、2時間~7日)。PID試験前後の各太陽電池モジュールにおける出力の相対値の変化を図2に示す。結晶シリコン太陽電池モジュールでは数時間、薄膜シリコン太陽電池モジュールでは3日の試験により出力が数%以下まで大幅に低下した。これに対して、標準型CIGS太陽電池モジュールでは、3日後で92 %、7日後でも46 %の出力を維持した。材料や構造、劣化メカニズムが異なるため単純に比較はできないが、同一PID試験条件で比較した場合、CIGS太陽電池はシリコン系太陽電池に比べて高いPID耐性をもつといえる。また、詳細な検討を行った結果、CIGS太陽電池モジュールの劣化の主原因は、シリコン系太陽電池と同様にカバーガラスから拡散するナトリウムイオンなどであることがわかった。
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図2 PID試験による各種太陽電池モジュールの出力相対値の変化 |
また、PID試験前後の標準型モジュールとPID対策モジュールの出力相対値の変化を図3に示す(試験条件は、-1000 V、85 ℃、~28日)。標準型モジュールの変換効率は、PID試験14日後に約30 %まで低下したのに対して、アイオノマーを用いたPID対策モジュールでは、試験28日後においても劣化は全く起こらなかった。カバーガラスからのナトリウムイオンなどの拡散が、アイオノマーにより抑制されたため、PIDによる出力低下が起きなかったものと考えられる。
今回行ったPID試験(AIST法)は、一般的なPID試験方法に比べてかなり過酷な試験条件であることから、そのような厳しい条件においてもCIGS太陽電池モジュールは、高いPID耐性を示すことがわかった。今後、詳細な検討が必要となるが、仮に屋外設置モジュールや他のPID試験方法で劣化が起きても、今回の結果よりも大幅に小さいと考えられる。加えて、部材の代替などにより対策も十分に可能である。
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図3 CIGS標準型モジュールと対策モジュールのPID試験前後の出力相対値の変化 |
今後は、より詳細なメカニズムの解明、他のPID試験方法での評価や屋外モジュールとの比較、他の対策技術の検討などを行う予定である。